80話 メビウスの輪からは、まだ抜け出せない
「それは今日だけですか?それとも今日からずっとですか?」
※「エウゼビオにサッカーをさせるな」と指示されたDF。なんて怖い事言うんだろうw 66w杯準決勝イングランドDF。
富良都の蹴ったボールはインスイングの回転をしながら逃げるようにファーサイドへと流れていく。
一目で見てわかるほどの高さのそれに釣り出されるような真似はしない。そこでは礼津が待ち構えてて、万全の態勢でヘッドで低い折り返しを仕掛けてくる。
そこに飛び込んでくるのは梶薙。
これだけ密集する中でも、頭から平気で突っ込んでくる。
「うぉぉぉぉぉぉ!!」
「んがぁぁぁぁぁ!!」
足を出しかけた不破がそれじゃマズいと、咄嗟の判断で全身を使ったブロックで体を投げ出す。
「んが!?」
鳩尾にめり込むようにボールを挟んで梶薙の頭が不破をプッシュする。
巨体同士がクラッシュしたことで二人の体とボールが零れおち、乱戦状態が再開される。
「押し込め!!」
「クリアー!掻き出せ!!」
八神が先につま先で外に突き出すが、そこに一目散にゴール前に走ってきた富良都の前に転がってしまう。
氷高が慌てて前へと被せに行くが、それより早く富良都の右足が振りぬかれる。
――コースはない。というよりも角度がない。
『中で誰かに合わせる』と、おそらく敵も味方も含めて誰もがそう思っていたはずだ……、ただ一人、富良都を除いて……。
そして、時間はゆっくりと――。まるで時間が止まったかのような錯覚さえ覚えるほどに静寂がピッチを包む。
体を半身ほど内側に向け、キックポイントはわずかに体より前での右足アウトサイド。
強烈なアウトスピンを掛けられたそれは、密集した選手の群れをあざ笑うかのような三日月の弧を描く。
ピッチ上だけでなくスタジアムにいる全員が声を失ってから、再び歓声を挙げるまではわずかな時間で充分だった。
…なんて、繊細で美しいゴール。
ピッチ上の全員は音を失くし、ただただその美しい軌道を見送る以外の術は持ち合わせていなかった。
『ワァァァァァァァ!!!』
少し遅れてスタジアムに沸き上がる歓声。
あまりに衝撃的なプレーに魅せられたのは敵味方だけでなく、観客までもであった。
「見たか! 見たか!! これが僕だ! 富良都奏良なんだ!」
壊れたはじめた静寂の中で、富良都が両手を高く突き出す。
長年のコピー扱いやまがい物扱いのせいなのだろうか、自分という存在を証明したかったのが強く窺える。
そして、そこに集まっていく仙台育亮のチームメイトたちを見ながら、
『だいぶコンプレックス拗らせてはいるけど、別に悪い奴ではないんだよなぁ…』と複雑な環境に少し同情にも似た思いを重ねていると、何故か満面の笑みで内村がやってきてボールを拾う。
「何してるんですか? 早くリスタートしましょうよ? これから、あの笑顔が少しずつ歪んでいくんですよ。楽しくないっすか? さ、早く早く」
…お、おう。
ちょっとした恐怖に声にならない声で応える。
「やっぱり、一度は上げて落とした方が良いよな。その方がきっと後まで引きずるだろうし…ふふっ」
なんかブツブツと怖い独り言が聞こえてしまった。
足取りも軽くセンターサークルへと向かう、いや違うな。
ちょっとスキップ気味で向かう内村の背中を見つめる事しか出来なかった……。




