74話 『 男なんだろ? ぐずぐずすんなよ?』
「傲慢とは、自らの限界を決め、勇気を持ってチャレンジする精神を失うことである」 byオシム
大事な初戦が終わり、次の試合までの間、俺たちはミーティングの為に全員が集合していた。
そこで、俺たちは望月が夏休み中に入手したというマル秘ビデオを見せられることになったわけだが……。
「そんなんじゃ皇のマークは務まらないぞ!!」
「もっと八神にプレッシャーかけろよ!! その位置でボールを奪うんだよ!!」
「氷高はもっとサイドに追いやって泳がせとけ!!」
勿論だが、その映像の中には本物の皇や八神たちはいない。完全に俺たちを意識したシミュレートが繰り広げられていた。
その熱気と当たりの激しさたるや、名指しで上げられた八神も氷高も絶賛ドン引き中である。
生憎、司だけは目を輝かせながら映像を見ているが……。
「俺、もっと強いやつと戦いてぇ。ワクワクすっぞ」とか言い出しそうで普通に困る。
怒号と叫び声に紛れて、ガチッ!! とかバチン!! と骨の当たる音も運ばれて来て、もう聞いてるだけで体中痛くなるレベルのグロ動画と言っていい。
「見てわかる通り、向こうはこちらのシステムやスタイルに特化した対策を打ってくるのは間違いないと思うわ。――と、いうわけでこっちもやる事があるのはわかるわね?」
「あぁ、真っ向から受け止めて、そのうえで打ち破るんだろ!」
望月の問いに、すぐさま自信満々の笑顔で司が回答する。
望月の表情が一瞬だけ曇り、『いや司、それ違くね?』と『どうすんだよ、この空気』の二つの領域が場を支配していく。勿論、俺にはどうすることも出来ない。当たり前だ。
「……不正解よ、森山! 明日までにリフティング二千回ぐらいしときなさい!」
「な!? え!? おれぇ!? 俺、何も……」
な、なんて恐ろしい女だ。全ての罪を自然に森山になすりつけやがった。
「全く森山は頭の中もキンキラキンでおめでたいのかしらねぇ」
まさかの紺野まで便乗しやがった。とはいえ、他に方法があるかと言われれば……。
「森山、もういい。お前は外でボムボムしてろ、な?」
「そうだな、大丈夫だ。俺らは分かってるから……」
優しい西と和泉に連れられて、可哀そうに森山は一発退場させられていった……。
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~試合当日 仙台育亮ロッカールーム~
「ずっと言ってきたが、一番大事なのは受け身に回らないことだ。鹿南相手に、守ってカウンターで勝てないのは今まで他のチームが散々証明してきた。だったらどうする? 逆にするんだ。こっちでポゼッションして食いついた所でファールを誘え。いいか!? 絶対に同じ土俵でやりあうな!! こちらのやり方に付き合わせるんだ!!」
仙台育亮の監督『三上』は、選手たちに向けて大きく胸を張る。
「お前たちは、対鹿南用の戦い方をずっと練習してきた。必ず使うとも分からないようなやり方を、だ!!
そして今日、それが報われる時が来た!! これは天啓だ。今まで頑張ってきたお前たちが、この大きな試練を乗り越えるためだけ! に与えられた絶好の機会なんだ。わかるか」
三上は一気に捲し立てると、中央にいる富良都に目配せする。
そして、それを受けた富良都は前に出て、ホワイトボードの横へと場所を変える。
「今までずっと言ってきたことなので、もう今更かと思いますが……」
仙台育亮のメンバーたちはみな無言で頷く。
それを見て富良都は静かに、ゆっくりとミッションを説明していく。
「今日のターゲットは八神さんです。後ろからの繋ぎでは必ずと言っていいほど八神さんを経由します。そこがまず最初のプレスアタック。成功例として県の決勝で日工がこれで得点しています。司さんに目を奪われがちですが、攻守の切り替えを担っている彼こそが鹿南にとってゲームブレイカーになるのです」
「その八神と、あとは氷高からの皇へのラインを俺たちが遮断すればいいんだよな?」
キャプテン礼津の言葉に富良都が大きく頷く。
「そうです。特に氷高さんに対してはツーマンセルが原則です。一人が氷高さんを、もう一人が」
「中を切りつつも皇へのパスコースを潰す、と」
チームのメンバーの戦術が浸透していることに富良都は笑みをこぼす。
「その通りです。彼らは強すぎた故に違う戦いをしてこなかった。決勝で3-5-2のシステムを試しましたが、とても酷いモノでした。勝ち続けることで変革を恐れたんでしょう。停滞したチャンピオンと鋭く牙を磨き続けたチャレンジャー。どっちが勝つと思いますか!?」
その言葉に仙台育亮のメンバーたちに確かな自信の火が灯る。それを見た富良都は心の中でほくそ笑む。
(今日のこの日をずっと待っていた。上手くいってもアンタのコピー扱い。ダメだったら紛い物と蔑まれてきた。今日という今日は、それをぶっ壊して俺の方が上だという事を証明してやる)
同時間 ~鹿島南控室~
「今日のゲームについてだが、すでに分かってると思うが……、望月、前に出ろ!!」
監督の使命を受けて、望月が凛々しい表情でスッと立ち上がる。
「説明は望月の方でやる」
監督のその言葉と同時に望月がホワイトボードの前に向かう。
「今日の最終ラインは三枚。最初から『BOX』で行きます。キーパーは楠。最終ラインは右から不破、西、八神。ボラ二枚は内村と麻野。右は和泉で左が氷高。コアが皇。トップが森山と佐倉」
今回のこちらが出した最初の手札は八神を最終ラインに下げることだ。組み立ての位置で徹底的に八神が狙われているのが分かっているのならビルドアップに回してしまえ、という事だ。大体にして、ご丁寧に相手に合わせる必要などどこにもない。相手の狙い所を外すことも出来るし、あんな反則すれすれの激しい当たりを繰り返されて怪我なんてされた方が、こっちにとっては大きな痛手だ。
そもそもの話だが、何も八神はボランチ専用ではない。中盤ならどこでも出来るし、原作の方だってCBで本職の奴より途中交代で出てたぐらいだ。司たちのようなS級ではないが、その次のランクではハイエンドの性能を持っているのが、このお子様なのだ。
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仙台育亮のメンバーは俺たちより早く準備を終え、敵意を隠すことなく待ち構えていた。
「司さん、今日こそは負けないですよ」
下から睨みつけるよう富良都が司を煽る。
「悪いけど、俺は誰にも負けるつもりはないから」
と軽い笑みを浮かべながら司も返す。ピッチに入る前から火花を散らす『皇』と『ポスト皇』。
「「よし。行くぞ!!」
司と仙台育亮キャプテン礼津の声が響き、勝負の場所へと俺たちは足を進めた。
だいぶご無沙汰してしまいました。
少しづつ日常が戻りつつありますね。仕事や地域のサッカーも普通に開始されて『う~ん、いいのかなぁ』といった感じで毎日を過ごしております。
昨年からの怒涛の一年が過ぎて、やっと僕自身も普通になってきましたが、最近は読専になっておりずっと更新をしている方を尊敬の目で見ていたりしました。
そういや、今年は20年ぶりぐらいにウイイレ買わなかったなぁ。FIFAは守備が出来ない下手糞なので辛いデス・・・。




