73話 『月に祈り捧げる想い』
お久しぶりです。やっと帰って来れました。今もバタバタしてるのは変わらないのですが、少しだけ余裕が出来てきました。本当に、本当にごめんなさい。そして、またここを見てくれている方、本当にありがとうございます。
「レベルアップです」
青い髪の女性が優しい笑顔で微笑んでいる――気がしないでも無い。俺以外にだけど。
……ああ、これは夢だ。それも極めて質の悪い。
なぜ夢の途中で気づくかって?
そんなの簡単だ。だって俯瞰なんだから。
すこし離れたところで楠にフォーカスされたカメラを見ているような感覚。あくまで第三者という枠組みを強制されている感じだ。
「つかさ くが みねば にじの おきの あずみ みよし
はやみ にし ひだか やがみ ふらと さわざき まいの
ふわ まきせ もりやま まつなが こいわ ときざき ▽
ピコッ。
遠くで似つかわしくない電子音が聞こえる。
「くるす やがみ ▽」
ピコッ。
「以上です。ほかのみんなも頑張ってね(はぁと)」
……いや、頑張ってとか言われても。『ほかのみんな』って呼ばれてないの俺だけじゃね!?
『一人じゃないから』みたいな変な優しさが余計に惨めだろ。
喜んでいるメンバーに気を使ってぎこちない笑顔を見せている俺。
俺だけ呼ばれていない事にも気が付かないチームメイト。
八神と不破、嶺葉辺りは気付いたのか、少し遠慮してるのが見える。
……ああ、あいつら良いやつだな。
「俺、三好に水運んでマッサージしたらレベル上がったぜ~!! 次はもっとマッサージしてやるからな!! あ、履き終わったスパイク片すのもやるから俺に回せよ?」
うん、森山は放っておこう。そもそも試合に出ることをすでに放棄している。つかホぺイロで上がるレベルって一体なんなんだ。
その場でただ立ち尽くすもう一人の俺に松永が近づいてくる。
無表情のまま最初に向こうの楠を見た後、顔を上げる。
視線が交差する――。
いや、そんなはずはない。これがトンデモな夢だとはいえ、流石に……、
「――お前はずっと何を見ているんだ?」
抑揚のない言葉が告げられた瞬間、強制的に現実へと引き戻された。
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――夢。
それは分かってる。あんな青い髪のマネージャーなんかいるはずもない。
そもそも現実には『レベル』なんて数字で分かりやすく人は評価なんてされていない。
だというのに背中には気持ち悪い程の汗が滲んでる。
どうも楠本体の方のトラウマを刺激したらしい。時計を見れば日付が変わる前といったところ。
眠りについて一時間を過ぎたくらいだろうか。
替えのTシャツを持って洗面所へと静かに移動する。
6人部屋の為、爆睡している八神たちを起こさないように注意しながら、部屋を出ていく。
着替えをして、汗だくになったシャツを着替え顔を洗う。
しかし『お前はずっと何を見ているんだ?』か……。
向こうの楠に言ったのであれば『ちゃんと試合を見てればレベル上がるだろ?』という意味にも取れるが、明らかにこっちを向いてたのが気になる。
まぁ夢といっちゃ夢なんだから、あんまり気にすることも無いのだろうが、何だか妙に引っかかってしまう。
眠れない中、幾つかの思いが浮かんでいく。
今、ここに楠として存在する俺。それと対照的にいなくなった楠。
ずっと背中を押してくれた洋二先生に、寄り添いながらも頑張る理由を授けてくれた芝浦。
頼りなくぼんやり浮かぶ月を眺めては、そっと祈りが浮かんでくる。
――みんなが笑って高校生活が終われますように。
――誰よりも大事な人に、正直な想いを伝えられますように。
芝浦の笑顔が浮かんで、無意識に苦笑いする。
そして大きく息を吸い込んで、俺は再びその思いに鍵をかけて胸にしまい込む。
培った夢の結末へ――、それまでは――。
少しだけ心も穏やかになっったので、部屋に戻り自分の寝場所へと向かう。
その際、
「いでぇ!!」
誤って西の頭を蹴ってしまった事は八神の寝相のせいにしておこう……。
あまりプライベートな事は書かないほうが良いのでしょうが、色々と参ってしまう事が連発してしまいました。状況、年齢的にも仕方のない事なのですが、急に沢山の方を見送る事になってしまい、もう心が病んでました。
少しづつ元気が出てきて、しばらくぶりにサッカーできると思ったら、今のこの騒ぎ。自分にとっても、まだまだ優しい世界になりそうもないですね。
暗い話ばっかりで誰もみな大変でしょうが、少しでも早く皆が楽しめる日々が戻ってくるといいですね。
そういえば、この作品でも触れていた浦和のミロですがDAZNの昔の試合の放送で移ってました。ラーンがDFやってるんですよね。ブンデス得点王も取った選手をCBにして、次の年にスロバキアからFW取ってくるって……。




