72話 儚くて激しくて偽りない眼差しの向こう側
「以前サッカー協会に提案したことがある。『代表のメンタルを鍛えるならシベリアに送り込め。俺たちの時代みたいなドサ回りをやらせれば、嫌でもタフになる』と。『よしわかった。お前が引率しろ』って言われて『勘弁してくれ』って逃げ出したよ(笑)。 初代G大阪の監督
遠いピッチの向こうでは足の止まった相手に容赦なく五点目を突き刺した森山が八神と二人で牛乳特戦隊のポーズを取っている。……まだ、諦めてなかったのか。つか、二人ってもう全滅直前だろ、それ。
とはいえ、――あまりに歯ごたえがないんじゃ?
失礼なのは分かってはいるが、ふとそんな疑問が頭に浮かぶ。
例えば一対一のシーン。
俺が間合いを詰めると、焦った相手は腕の届く場所に慌てたようにシュートを打ってきた。
例えば、あれがガリーニョさんだったら?
こちらの出足のタイミングを見極めて絶対に手が出せない位置とタイミングで撃ってきたことだろう。キーパーから見て反応しづらい個所に容赦なくピンポイントショットしてくるだろう。なんて意地の悪いおじさんだ。
カットインのシーンにしてもそうだ。これがリオナードなら、右足でもサイドネット目掛けて蹴ってくるし、あえてのシュートモーションでDFの足を出させてから切り返しで左足で決めるのも容易な事だろう。
こっちの体重移動やポジショニングなどシュートに対しての準備をいちいち無効化させられたのだ。あれは正直ちょっとだけムカついたのを覚えている。
それに比べると、敵の動きはあまりにも正直すぎる。
――なるほどな。
西の言ってたことはこういう事か。
最高のレベルと対峙した後の感覚ね……。
高速道路を走った後に一般道を走ったようなもの、と言えば分かりやすいのかもしれない。
あの数日の鹿島での練習がこんなに生きてくるとは正直思わなかった。上手いヤツと一緒にやると上達すると言うが、さすがにブラジルの英雄や現役セレソンは伊達じゃないな……。
ピッ、ピッ、ピィィィィィィィィ!!
試合終了のホイッスルが鳴り響くと、ピッチ上では明暗を分けられた選手たちがそれぞれの反応を見せている。
「「よっしゃぁぁぁ」」
近くのチームメイトと抱き合うフィールドの仲間たち。
俺の所にも麻野がやってきて、肩を組まれる。
「やったな、初戦無失点!!」
大きく息を吐いた麻野は喜びよりも安堵の方が強いのかもしれない。失点の原因を不破の不在にされようものなら、代わりに出た自分のせいだとコイツは思ってしまっていただろう。
「完璧だったぞ麻野。西のお姉系ディフェンスより見てて安心感があった」
「お姉とはなんだ、お姉とは!?」
そこへ西や和泉、越野といった守備陣が混ざってくる。
「いや、マジで腰振りまくってて『ジュリアナディフェンス』って心ん中で呼んでた」
「てめ和泉! もとはと言えばお前のカバーで……」
「いいから先輩がた行くっすよ? 整列遅れますって」
越野に押され中央へと向かっていく。
キーパーとしては、もちろん勝つことが大前提だが、ディフェンス陣と協力して無失点で終わらせた事が一番の成果でもある。
初戦の難しさ――。
勝って当たり前という評価や、最後の舞台で負けたら終わりという緊張感など。
他にも色んなモノがあった気がするが、それをこうして上手く乗り越えられたことに俺たちは大きく胸を張り最後の挨拶へと赴いた。
「お疲れさまでした!」
ベンチに戻るとすぐに芝浦が慰労に来た。
帰りを待ってくれてる人がいるというのは、とても良いことだと思う。
無意識に見つめ合うような感じになり、二人だけの世界に入りそうになる――、のは八神の大きな声で邪魔された。
「あぁーっ! 西がマネージャーの胸触ってるぅぅ!!」
「ちょっと瞬君、大きな声で言わないで?」
子供か八神?
いや、もう知ってるけど。いちいち隣で騒いでいる奴らさえいなければ最高だったのに。
というより、見間違えじゃなければ西の右手が紺野の胸に当てられているのが見えるのだが。
ん? なんだ、これ?
「き、聞いてくれよ楠! 俺はただ腕を伸ばしただけなのに急に二つのボールに包まれたんだ。これがアウェーゴールってやつなのか?」
「な、な――!?」
相変わらず西は馬鹿なんだと思う。
紺野を置いてけぼりのまま、しっかりと胸に手を置いた――、いや、挟まれてると言った感じだろうか?
紺野は紺野で怒るタイミングを完全に見失っている。
「で……、いつまで胸触ってるの? そろそろマジで怒るんだけど?」
「……ロ、ロスタイムは、三分の表示です?」
「なが!? つか、離せ変態!」
紺野が真っ赤な顔で西の手を乱暴に振り払う。
「もういいから西。早く謝れ!!」
「そうはいくか! 次のセカンドレグに向けての準備がある!」
「あるの!?」
「いや、ないから!!」
咄嗟に出た俺の言葉に紺野は秒で返してきた。
「次のホームでの一戦――、わたくし西、とても気合が入っております!!」
「「連れ込もうとすんな!!」」
俺と紺野の突っ込みが仲良くハモったところで、満を持して望月がやってくる。心の中で『あ、お巡りさん。コイツです」と呟く。
それが伝わったかどうかは不明だが、望月は軽く俺を一睨みしてから西へと向かう。
「あ、いや、事故なんだって!? 偶然手を伸ばしたら、そこに――痛い? 痛い痛いって? 腕の関節外れるって、マジで!?」
右腕を極められた西はそのまま御用となり、望月と紺野によって部長のもとへと連行されていった。
それを見送っていると、
「いつも思うんですけど、先輩と紺野先輩って仲良いですよね~? いつも息が合ってるというか~?」
「偶然だろ、偶然」
少し頬を膨らませた芝浦がジト目で睨んでる。
でも今はまだ、なにも言葉にはしない。
だって、あと僅かしかない時間の中で、それを伝えるべき瞬間はもう決めているから――。
ちょっと仕事が忙しくなってしまい、9月下旬くらいまでデスマーチになりそうです。草サッカーもお休みという鬼進行(泣)。フットサルも泣く泣く不参加。おっさんになると、少しやらなかっただけで体は重く(物理的にも)なるし、試合勘はおろか筋力までなくなるし、復帰するの結構大変だというのに……。
あぁ、人工芝とゴムチップに会いたい……。朝一から石灰でライン引きたい……。みんなでゴール運びたいぃぃぃ。でも、審判はしたくないぃぃぃぃぃ!!
必ず帰ってきます!! 無事、9月下旬まで乗り越えて帰ってくるぞぉぉぉぉ!!




