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おい!今度の行き先はサッカー漫画だってよ!?  作者: 赤星べお(※完全なPNにしました)
最終章 Just like a wavin’flag
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67話 12月のストレンジャー 

「君は今、大変なことをやろうとしている。でも、大変なことだから素晴らしいのだ。そんな素晴らしい事をする人間がくじけてはいけないんだ」   日本サッカーの父と言われるクラマーさん


「一番! くすのき かなめ!」



 男子高校生たちの落ち着けない喧騒の中、俺の名前が呼ばれたことは知る由もない。



 部活の終わり――、


 部室に珍しくすべての部員が集合している。


 埃と砂、そしてわずかに酸っぱい臭いが立ち込めるこの場所で、今、最後の戦いに赴ける戦士が発表されるのだ……。

 

 そう。これは儀式。


 今まで共に苦楽を分け合ってきた仲間ですら、見る側と見られる側を明確に分けてしまう悲しい選別の儀式。


 俺は今、ここにきて初めてそんな辛い時間を迎えようとしている――。

 



 


「……。おい! 楠!? いらねぇのか!!」


「ん?」


「お、おい? もう呼ばれてるぜ?」


 隣にいた西に肘でちょんちょんされる。


「え? うぉ!? い、いる。要ります!!」


 なんていうことだ。


 これから名前を呼ばれるかどうかのドキドキを味わおうとしていたのに。

 呼ばれないって事は流石に無いだろとわかってるから、せめて空気だけでも……と思っていたのだが。


 だってこういう時ってさ、


『みんな注目!』とか『静かにしろ! これからメンバー発表を行う!』とかあるんじゃないの?


 どうして普通にポケットティッシュ配るみたいにさらりと渡されちゃうの?


 なんかこう……、ユニフォームを受け取ったら感無量で『グスッ』って言いながら抱きしめるとか……さ?


「いいからおまえ、早く下がれよ。次つかえてんだから」


 ……ワビサビを理解しない監督が憎らしい。



 次々と川上監督の声が部室に響き自然に無駄話は消えていく。

 名前を呼ばれた者は前に行って言われた番号のついたユニフォームを受け取る例年のイベント。


「二番! 和泉いずみ 壮太そうた!」


「は、はい!」


 和泉は思った以上に軽い数字だったのか裏返った声を上げた。


 その後も三番越野、四番西、五番に不破と予想通りの名前が呼ばれていく。


 六番に内村、七番の氷高、八神の八番が呼ばれ、森山が九番のユニフォームを受け取る。


 そして、


「十番! すめらぎ 司! 司はゲームキャプテンも務める。頼んだぞ!」


「はい!」


 まぁ、当然だ。司以外ありえないわな。


 その後も沢入が十一番を受け取り、平野や麻野といった納得できる名前が続いていく。


 そんな中で唯一、


「二十番、佐倉 一葉かずは!」と呼ばれたときは部室にどよめきが起きた。


 選ばれただけではない。実は背番号に意味があるのだ。


 二十番という番号は一年生で今後のエースや主力を確約された番号でもある……というのがこのチームの習わしだ。司も一年生の時はそうであったし去年は内村だった。

 歴史を遡ってもそういう伝統になっている……らしい、としかわからないが。

 

 まぁ、新人戦で大活躍したみたいだし、この前の嶺葉との試合でも佐倉は出ていた。

 一緒にやってた側からすると別に不思議ではないが、外からの印象はまた別だったようだ。




 そして――、


 総勢二十五人の名前が呼ばれ登録することのできるメンバーが決まった。



 二十六番以降については別室で部長から手渡されることになり、呼ばれなかった部員たちは退出するように命令された。


 悲しみに泣いている者、諦めの表情で立ち去っていく者、憮然とした顔で立ちすくしている者……。


 それらすべての思いを残して彼らはここから去っていく。


 部室には試合に出場できる権利を授与された者だけ――。


 今、ハッキリと見えない境界線が引かれた事を、ここにいる全員が理解した瞬間だ。


 若干、重苦しい空気の中で川上監督が口を開く。


「実はだな……、俺は最近二つの大事なものを失くした。ま、厳密に言えば一つはこれから返却すると言うべきなんだが……」


 一つは優勝旗だな。開会式で返還のプログラムも入ってるし。


 ……で、もう一個はなんだ?


「それは嫁と優勝旗だ。嫁は向こうの実家に! 優勝旗は協会にそれそれ返還することになった。嫁に関してはすでに自分から帰っていったわけだが……」


 ……知らんがな。


 高校生相手にいきなり何言ってんだ、この人は?


 周りを見渡すと選手もマネージャーも困り顔だ。みんな、どうしていいか分からなくなってんじゃん。


「と、いう訳でお前らにミッションを与える。どちらか片方だけでいい! 取り戻してくれ! 嫁が難しければ優勝旗でいい。俺はそれ持って、向こうのお父さんに言い訳するから! いいな! だから、お前らの夢や試合に出られないメンバー! それに散っていった対戦校の為にもお前らは負けられないんだ!!」


 ……どういう訳だよ?

 

 それに『だから』の後に良いこと言ってる感にしてるけど、全然繋がってないよね? 監督の嫁さんが逃げたのと俺らの夢とか今出て行った部員になんの関連性があるというんだ?


 まぁ、部活の監督なんかしてて家庭を疎かにしちゃったんなら、その責任も少しはあるかもしれないけど、それだって他校のサッカー部の奴らからしたらいい迷惑な話だろう。


 そもそも消去法で優勝旗持って帰ってこい! って、この大会に懸けている人間に言うセリフじゃないだろ?


 こっちについては三連覇のプレッシャーを掛けないようにするための方便だと、超前向きな解釈をしておいてあげるけどさ……。



 ともかく――、


 優勝しなければならない理由がまた一つ追加されたわけだ。


 周りを見渡せばさっきまでの殺伐とした空気も一変している。まんまと乗せられた雰囲気が見て取れる。


「しゃーないっすね。監督の家庭の為にもいっちょ頑張りますかぁ!」


 軽い感じであげた森山の言葉に皆が反応し、様々な声を上がりだす。


「そっすね。離婚理由をうちらのせいにされたらたまんないっすから」


「そん時は楠が慰謝料払ってやれよ?」


 内村の賛同を西が茶化す。


「なんで俺なんだよ? むしろカンパしてやろーぜ?」


「離婚しねーよ!! だいたいお前ら、監督おれをなんだと思ってるんだ? 生徒に慰謝料や養育費の支払いをさせるつもりだとも思ってんのか!? はっはっは。あるわけないだろ。いくらお前らがプロになって金を沢山持ってたって……、精々返済期限なしの無利子で借りるぐらいだ」


 さりげなく()()()も付け足した所が笑えない。ちょっと目が合った気もするし。


 そんな俺の不安に誰も気付くことなく、この話は冗談という形で笑い話として終わりを告げたのだった。

 

このまま更新しないのでは? なんて思われてしまうことに不安を感じてしまったので、とりあえず続きはちゃんと予約設定していることを報告がてら1話だけ公開しました。今後、後書きの内容が若干古いのもそれが理由です。


 仕事や草サッカーが始まったことなど時間があまり取れてないので、そんなに溜まってはいないのですが(泣)。


 必ず最後までやりきることは決めているので、それまでお付き合いしていただければ嬉しいです。ですから、もう少しだけ……、もう少しだけ時間を下さい。

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