61話 歩く足元に答えが落ちているように
同じ溺れるなら水溜まりより海を選ぶよ by R.バッジョ
クラブハウスの中を嶺葉と並んで歩く。
下心があるとはいえ、せっかくの好意だしな。断るのもどうかと思うし……。
まぁ、一つ一つ丁寧に説明してくれているのは有り難いのだが、流石に一回で全部覚えられるほど記憶力には自信がない。
というよりも、後ろを振り返るだけで迷子の予感すらするのは内緒にしておこう。
「ところでさ……。なんでお前、俺が来週清水に行くって知ってるの?」
さっきからの会話で気になってる部分がたくさんある。
いや、むしろ初めて会った時から気になる事を連発していた気がする。
第一に、俺の今後のスケジュールを把握しているような言動がそうだ。
秘密ではないにしろ、一応は内密のはずだ。
鹿島での件は部内者として知っていても仕方がないが、清水の方は全然別だろう。
「ん、それ? だってシニョーリ(エセイタリアン)が言ってたもん。どっちが良いエスコートするか勝負だ! って啖呵きられたしね」
「……」
あまりにガッカリな内容に軽く眩暈を覚える。
「え……、なに? 来週は俺、アイツにおもてなしされんの? マジで?」
「張り切ってるよ。何やらスパイクに入れる鉄板も重いの新調するって言ってた」
「嫌がらせじゃねーのか、それ!?」
残念ながらイタリア式の『おもてなし』とやらを俺は知らない。ブラジルとかだと、鳥かごでわざと厳しいパス出してワタワタする新人を笑う、とかは聞いたことがあるけど。
「……でさ? 話は変わるけど、最初の相手どっちだと思う?」
嶺葉が急に話を変えてくる。
もちろん『最初の相手』とは言うまでもなく選手権の事だ。
俺たちは一回戦がシードの為、二回戦からの出場になっている。
俺たちは宮城の『仙台育亮』と佐賀の『龍徳』の勝者とぶつかる事になっている。
「多分……というか、ほぼほぼ仙台じゃないか? 富良都もいるし。あれからますますやっかいになったみたいな話も聞くし」
富良都 奏良。仙台育良のエースで巷では『ポスト皇』なんて呼ばれている。
学年は二つ下。背も165センチと大きくないが、フィニッシュワークとセットプレーには定評があるいわゆる典型的な『10番型』だ。
特に右足ではすり上げるキックの精度は、すでにA代表でも任せられると言われているほどの伝家の宝刀具合だ。
ちなみに『あれから』というのは、ジュニアユースで一緒だった以降という意味だ。
『ポスト皇』と言われるのがなんか凄い悔しくて努力しまくった、とか聞いたことがある。
「――そうだね。止まってるボールに限って言えば司君とも張り合えるかもね」
動いてるボールなら相手にならない――。
嶺葉にしては、珍しく言葉の外に棘を感じる言い方だ。
「その止まってるボールで点取られる未来しか俺には見えないがな」
「まぁ、それはおいおいってことで。大体、『ポスト皇』が気に入らないって何様のつもりって僕は思うけどね。だって、うちらの世代で言えば最高のキャッチコピーなんじゃないの?」
……あぁ、そうだ。
嶺葉は『パスの総合商社』って付けられて凹んでたんだっけ。
うん。それには触れないであげるのが、優しさというものだろう。
まぁ、俺は『ポスト何とか』より、SGGKぐらいで丁度いいけど。
なんといっても、やっぱり身の丈に合ったキャッチコピーって大事だと思う。
事前期待が実力以上に高すぎると、何かあるとガッカリ感が増すだけだし。
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クラブハウスの食堂で食事を摂らせて貰う。
そして、午後からは専用のトレーニングコートへと移動する。
幸いなことに嶺葉がいる事と八月の壮行試合の件もあったので、快く歓迎してくれた。
「お前のせいであの後、滅茶苦茶シュート練習させられた」
あの時、盛大にシュートをふかした本間さんがいじってくれたのを切っ掛けに、結構すんなりと馴染むこともできたのも助かった。
シュートを外したのは決して俺のせいではない。勿論、みんなもそれを分かったうえで打ち解けやすい空気に持って行ってくれている。
やべぇ。結構いい感じかもしれない……。
さて肝心の練習メニューについてだが、こちらは流石にプロなだけあってきちんと専属の練習メニューが準備されていた。
何でもメインGKの古沢さんはブラジルにキーパー修行してた様で、コーチと練習メニューの研究や提案も行っているそうだ。
戦力外通告を受けてからブラジルに渡り武者修行。
それで母国のプロクラブに入団って――、何気に凄いサクセスストーリじゃないのだろうか……コレ?
そんな古沢さんやGKコーチと共に一緒に汗を流すところまでが今日の俺のメニューだ。
流石に全体練習の方は俺は見学となる。
見学初日だし、チームのコンセプトも良く知らないため邪魔になっても申し訳ない。
一方、嶺葉はと言えばサブ組のビブスを着て普通に混じっている。
それどころか寄せられても普通にいなしてパスを散らしてる所を見ると、全然このレベルで通用している感じだ。
「クスノーキィー。オワッタラ、スコシマッテルネ。OK?」
そんな感じで練習を眺めていたら、ブラジル人GKコーチのバウジールに話しかけられた。
何だかよく分からないが、こういう時に言う言葉は決まっている。
「オーケーオーケー。ノープロブレム」
俺の数少ない英語からはこれぐらいしか浮かんでこないのだ。
いや、よく考えれば日本語だったんじゃないか? と気付いた頃にはバウジールはもう遠くに行っていた。
全体練習が終わり皆がぞろぞろと戻ってくる。
みなが俺を見つけると『お疲れ』とか『選手権頑張れよ』とか好意的な言葉をかけながら下がっていく。
その中で本間さんだけが俺の前に残って、
「いいか? 疲れたら疲れたって言えよ? 無理なら無理ってハッキリと言えよ!」
「?」
キョトンとする俺の肩に本間さんは手を置く。
そして、凄く悲しそうな顔をして去って行った。
……なんなんだ、一体?
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「さて――、終わったら少し待て、って言ってたよな」
みなが去って行ったあと、ポツンと練習場に取り残される。
一体、なんの用があんだろ?
体が冷えない様に軽くジョグをしながら待つ。
10分ほど、経った頃だろうか?
「ヤー! スグニハジメヨウカ?」
カタコトの日本語が飛んできて、ガバッと声の方を振り向く。
こ、この声は――。
……そこには世界番長ガリーニョの姿があった。
とりあえず選手権開幕まで一度持っていきたい。そこで、改めて書き溜めが出来るようになれれば(願望)。草サッカーも冬になりオフになるので、時間は取れそうな感じです。Jリーグもそろそろ終了なのでダゾーン時間も少なくなるでしょうし……。
しかしJ2最終節の盛り上がりは凄かった。他サポだから楽しんで見れたけど、あれが応援チームだったらと思うとまともに見ていられなかったんじゃないかなぁ。
とにかく松本サポと大分サポの皆さん、おめでとうございました! 残り一つの昇格プレーオフや残留争い、まだまだ目が離せそうにないですね。中村航が帰ってきた柏、ランゲラックの名古屋、日本代表に復帰した権田。出来れば来年もJ1で見たいGK達です。果たしてどうなる事やら……。




