57話 アニメじゃない! ~ホントの事だぁ~
「ここを……、ハスる感じかな?」
FKのコツを聞かれた名手ジャン〇ランコ・ゾ〇
同点になったことで、プラン通りポゼッションを上げていく鹿島とソレを躱しながらカウンター主体に変わっていく静大付属の構図が徐々に明確になっていく。
「マジつれ~! 足早すぎだろアイツ……」
後半からシニョーリと何度もスプリント競争を繰り返している西だけ、すでにこの世の終りみたいな顔を見せている。
キーパーとデフェンスの丁度真ん中辺り……、どちらが行くか迷う場所に嶺葉が角度を付けてボールを蹴り込んでくるのだ。
カウンターの発動を防ぐために越野や麻野はひたすらシニョーリのコース取りを邪魔する。そして、その間に西が自陣内を走り回って先に回収したりクリアーするという流れだ。
「オーケーオーケー! ナイスカバー、ナイスクリア。さて……、少し休んだらもういっちょ行ってみよう!」
「……」
西のジト目を軽く流しながら、セオリー通りの檄を飛ばす。
「はい! 集中集中!」
西以外の返事を聞きながら、守備のマークを確認させる。
なるべく嶺葉は後ろの方にいてもらいたいのだが、プレーが切れる度に上がってくるのはしょうが無い。
絶妙なパスを落としていく厄介極まりない存在は、こちらに傾いた流れまで強制的にリセットされるような存在感を放っている。
……そして一番の問題であるシニョーリ。
ボールを持って前を向く――、それだけで緊迫感がレッドアラームまで一気に達する。
バイタルエリア――、
トラップの瞬間を狙い足を出していく麻野。分かった上でボールを強く踏みつけるようなトラップを披露するシニョーリ。結果、麻野の足の上をバウンドしながら逃げていくという曲芸のような技まで披露してくれる。
戻ってくるスピンに合わせ、強烈なインステップ。辛うじて左側は西が体でコースを切る。
鈍器のような重い音――、そして訪れる強烈な風切り音は豪砲一閃というべきか。
――真っ正面、やや上のコースに順回転で向かって飛んでくる。
(この距離で頭上ぶち抜かれるなんて、そこまでドMじゃねぇよ!!)
両手を合わせての対応。狙いは手根骨での反発。指や関節部分では流石にマズいレベルだ。
……が、若干のずれが発生し完全に付け根の部分でリフレクトになってしまう。
バィィィン!!
ゴムが破裂するような音が響き渡り、上げた両腕は衝撃で両肩の後ろまではじき飛ばされる。
バランスを後ろに持っていかれ、ガクッと片膝を付いて訪れる違和感。
両手にやってくる痺れ……。正確に言うとボールが当たった場所にジンジンとくる痛み。
そして、何となくトリックに気付いてしまったかのようなちょっとした残念感が混み上がってくる。
「感電っつうか単純に威力で痺れる感じか……? ビリビリではないな、うん。肘も持ってかれて、あちこち地味に痛いが。あと……、コレ、ジャイロ回転か? だったら速度の違和感の説明も付くし」
正面から受けたことで、ボールの顔が変わらない回転をしていたことに偶然気付けたのだ。
(マグヌス効果っつったかな? 大学でちょっと教わった気がするけど……。空気抵抗を支配することで初速を落とさないように出来る……、ピストルの理論だった気がするが)
だったら打った時の条件とも合致する。
――つまり、ある条件下でないと打てないってことだ。
まあ、ネットを破ったり、ポストに当たってパンクするほどではないだろ。
ただ、全力で蹴っ飛ばすボールの威力がおかしいってだけの簡単な話だ……。おかしすぎるのが問題だが、それは終わった後に事情聴取だな。
ふと、ついさっき交換したばかりのキーパグローブの右指の部分をさすってみる。
『ワイヤーフレームサポート』がなんとも心強い。指の部分にその名の通りワイヤーが入っていて指を保護してくれる優れものだ。勿論、お値段も良い感じだ。
「あの威力、芯を喰ったからとかいうレベルじゃ無い気がするのは……」
敵のスローインからプレーがリスタートする。
「ま、今は考えてる場合じゃないか……」
センタリングされて、跳ね返す。拾われてーの、センタリングされてーのコーナーへと続く。
じわりじわりと押し込まれてくるにつれ、危険人物の圧が強くなっていくのをピリピリと感じてくる。
右からのコーナーキック。
嶺葉がショートコーナーにちょこんと出す。
すぐに返してもらい中を視認する嶺葉。
それを見つめる視界の隅で司がさりげなく前へ移動していくのが映る。それに合わせ八神が数メートルほど司のいた方へと移動する。
(カウンターの準備か……)
わずかに中に入ってきた嶺葉に角度のあるボールを警戒する。
ポジショニングを修正しながら、嶺葉の足元に注意が集中する。
(ボールの置き位置がいつもより少し前っぽくないか?)
不意に浮かび上がるガリーニョの映像が脳裏をかすめる――。
絶妙なアウトサイドでディフェンスラインをズタズタに切り裂いたシーン。
中を切れば大外へ。外を注意すれば中を縦横無尽にボールを横断され大虐殺された夏の塩辛い思い出だ。
(ファーか!? 外に逃げるボール!)
瞬間、嶺葉のキックは右足小指から外側をハスる様に蹴りこまれる。
鋭いアウトサイドの回転がゴール前を経由して外へと逃げていく。
予め想定してなかったら、前半のコーナーの時みたくあっさりと釣りだされていただろう。
大外へダッシュ――、
逆巻きのボールに対して左手を添えるようにして勢いを殺し、右手で被せる。
(取った!)
前方の司と目が合う。口ほどに物を言うどころじゃない。
『早く俺に持ってこい』とギラギラアピール全開だ。
「わかってるって。そうがっつくなや?」
すぐに目を逸らし、ボールを持ったままダッシュを開始する。
八神が少し体の向きを変え、それに釣られて司を見ていた相手選手が八神へのスローを警戒する。
引き付けたことを確認して、八神がサムズアップを送ってくる。
「相変わらず気が利く奴だな。たこ焼きん時はポンコツだったくせに……」
ペナルティエリアギリギリで、バックスピンをかけながら低くボールを前方に投げ捨てる。
――俺の全力疾走はまだ終わらない。むしろドリブルに移った感じだ。
俺の意図に気付いた相手が前を塞ぎに来たのを確認して、お役御免だ。
「ディレイはさせない。一気に行かせてもらう!」
全力でボールを司に向かって蹴りこむ――、サニーライゼット(仮)で。
夏から毎日二人で特訓してりゃ、蹴り方ぐらい教えて貰ってても不思議ではない。最も、司の様に正確なコントロールなんてのは出来っこないが、それでも大体の場所に落とすぐらいは出来る。
打たれるシュートの原理を学んでおくと、こういう応用が出来るって良い見本だ。
無回転のまま高く蹴り上げられたボールは、両手を挙げて要求していた森山を無視して相手ゴール前へと運ばれていく。
途中、ボールの下を佐倉が斜めに横断して、デコイのサポートも万全だ。
司の手前、ヘディングで触ろうとしたディフェンダーがブレたボールに対応を誤り頭を越される。
そこまで見越したかの様に、着地点へ全く無駄のないルートで走りこんでいく司。
最後のディフェンダーもトラップの瞬間に重心を逆に置き換えられ、バランスを崩し転倒する。
あえて勢いを殺さなかったボールは、そのままキーパーとの一対一まで継続する。
右、左――、ボールに触らないままキレのあるステップを繰り返し――、
再度右のステップを掛けたときにキーパーはしりもちを着いて後ろへと倒れる。
そのまま難なくゴールに流しこみゴール。まさかの2タッチでの出来事だ。
「っしゃあぁぁぁぁ!!」
無意識にガッツポーズが生まれる。知らないうちに右手が強く握られ、これ以上ない高揚感に包まれていく。
「ナイボ!」
「今のアシスト付くんじゃね?」
ペシ! ペシ!
後ろから寄ってきた仲間に頭を叩かれての祝福を受ける。
滅多にないシチュエーションにオーディエンスも大喜びだ。
「始めて得点に絡んだ気がする……。滅茶苦茶嬉しいモンだな、これ!!」
なんだ? アシストだけどなんかポーズとかした方がいいのだろうか?
ペシ! ペシ!
「ま、嬉しいのは分かるが、そろそろ戻れや?」
西に促され、興奮冷めぬままいつものゴールへと戻っていく。
ペシ! ペシ!
「……」
ペシ! ペシ!
「ええい! 痛いわぁ八神!!」
ペシ!
「僕のフォローに対してのリスペクトがあってもいいと思う……」
多少、不満げな表情を見せて八神が去っていく。
その寂しそうな背中に、気付けなかった懺悔と改めて感謝の気持ちを込めて、一言。
「帰りにお菓子買ってやるからなぁ!!」
とだけ、伝えておいた。
振り向いた八神の笑顔が素晴らしかったのは、言うまでもない。
今回のシニョーリ君のシュートに関しては、回転のあるボールが必要、ジャイロという言葉、落差という事で何がモチーフか気付いた方もいるかと思います。2章のタイトルもそうですしね。
とはいえ、あまり現実的でなかったり、物理法則を無視してたりするものは基本的に入れない方針です。前回、今回と原理の説明が入ったのは、そういった意図も含まれています。まぁ、創作である以上、どうしても多少は彩る必要も出てくるので、その辺はバランス見ながら……、ですかね。
あともう一つ。最後の司のステップはフェノーメノロナウドがマルケジャーニ相手にやったプレイです。キーパーが無力化された、とても印象に残っていたシーンです。キーパーにとっては悪夢のようなプレーでした。興味があれば、是非探してみてくださいね。




