55話 ハーフタイム レボリューション
GKの敵は「相手FWの名前」じゃない。あくまでも、GKが止めるのは「ボールのみ」。ボールの動きだけに集中する。ただそれだけのこと。何者も、いかなる自体も恐れることなくフィ-ルドに立つだけ。
by ジジ・ブッ〇ォン
「ちっ」
ベンチに戻り腰を下ろそうとした俺を出迎えたのは望月の冷たい舌打ちだった。
『ぬぅあぁ~にやってんのよ(怒)』と声は聞こえないだけで、半端ない殺気と目力がそう訴えてきている。
まぁ……、はっきり言えば目茶苦茶ガン飛ばされてる状態だ。
(やべえ……。こえー、マジこえ~よ。何だよアレ? あんな猛禽類みたいな目をした女、司はよく傍に置いとけんな……)
最近では始めとは違う意味で司を尊敬出来るようになってきた気がする。
なんつーか……、懐の深さもワールドクラスなんだろうな、きっと。
監督の指示が飛び、予定通り二本目はT-BOXを最初から行くとの説明が入る。
初戦に出れない不破の代わりに麻野が、期待の一年生佐倉が沢入に変わる。
まさかの佐倉、一年での大抜擢だ。流石は新人戦で大活躍しただけある。
麻野に関しても、長身のせいか最近では練習の際にもCBに入っていることも多いので心配は無いだろう。
それなりに付き合いも長いので連携に関しては問題ないはず。俺たちの特徴も把握してるだろうしな。
監督の指示が終り、俺は桜井とシニョーリのシュートについての所感を言い合う。
…。
……。
………。
「……じゃあ、外からだと単純に逆つかれた様に見えたのか……」
「ああ。だからあんなに悔しがってたんだ。まんまと飛ばされちまったって事なんだろ?」
「ぬぐぅ……。全くもって不覚だ。あんにゃろう、絶対許さん!」
「楠はさぁ……、反応良すぎんじゃねーの? 俺だったら多分、最初の小細工効かないかもよ? 気付かないで終わりそう……」
「それはそれで微妙じゃね?」
結論の出ないまま桜井との対策会議が終わりを迎えようとする中、俺の前に仁王立ちした鬼が出現する。
……望月だ。
何も言わず、ただ俺を睨んでいる望月。
なんだか『あんたクビ!』とか言われそうな物々しい空気だ。
「じゃ、じゃあ。俺はこの辺で……」
耐えきれなくなった桜井が慌てて去っていく。
(なっ!? この状況で俺を置いてくとか?)
「……ボールの置き場所と振り足の角度」
「はっ?」
急に発した望月の声に俺は間抜けな声を上げる。
その反応に望月は一層不機嫌さを増した顔で、俺を睨みつける。
「一点目……。アンタ、見えてなかったでしょ? ポジショニング悪いのよ。DFと被ったらずれるなり、どかすなりしなさいよ! そもそもニア側消させるように打ち合わせてなかったの? アンタの落ち度よ!」
「え? ちょっ!?」
「黙って! それで……、最初のはだいぶ軸足の深い位置に置いて押し出すように打ってたわ。インパクトからフォロースルーまでの時間を多めに作る事が目的ね。……で、最後に――」
そう言うと望月は右手を水平にして差し出す。
「いや? なに? 怖いって!?」
「いいから! 目をつぶらないで見ときなさいよ」
そのまま手の甲が俺の顎の下に行き――、ガキッ!
「イダッ!? ……(パチッ!)アテッ?」
一瞬の間を開けての2ヒット。
手の甲、ディレイ、四本指を振り上げた形での二回だという事に気付く。
「これが一本目の原理。二本目は――」
そう言って望月は、また同じように右手を差し出してくる。
「いやいやいやいや! ちょっと待って! 出来れば口頭で説明して貰えるとありがたいんだけど……」
「なに? 楠のくせに何か問題でも?」
ちょっとだけ時間が止まる。
チラッと横を見ると司が『あちゃー』って顔をしている。そして間髪入れず両手を合わせてスマンと小さく送ってきた。
……。
「……ない。全く無い!」
「当然ね」
言葉と同時に再び、望月の右手が迫る。
今度は斜めから手の甲で左側の顎から右上に叩かれたと思ったら、そのまま頬に水平チョップが入った。
「ぐおぉ!?」
「分かった? 実際に喰らった方が実感出来るでしょ? 縦に当てるときはまっすぐ下から押し出してから。横の時は最後の当てるのが窮屈になるから、振り足の角度が生まれるの。まだ情報が少ないから可能性の域を出ないけど、おそらく間違ってないとは思う」
「……分かりやすい解説はサンキューだ。でも顔でやんなくても……」
「あと二度打ちが怖いからって距離開けんじゃないわよ? 距離があく分だけ角度が生まれ届かなくなるから。アレはそんなに鋭角なのは出来なさそうだから、可能な限り近距離で勝負しなさい。少なくとも松永君とかだったら絶対そうするはずよ」
「お、おう……」
別に最初の訴えが無視されたのはまだいい。
よく分からない上から目線もこの際どうでもいいんだが……、
松永の名前を出されてしまうと自分が凄く矮小に思えてしまう。
「安曇や松永君なら一回見れば、それぞれの対策を自分なりに試合中やるでしょうね?」
反論の余地が無いだけに、言葉が出ない。
「……諦めてないんでしょ? 彼らに追いつくこと」
「なっ!?」
ハッとして望月を見る。
そこには、真剣な眼差しで俺を見つめ返す望月の姿があった。
全てを見透かすようにジッと見つめながらも、まるで見定めるかのように強い力が瞳に宿っている。
さっきまでの猛禽類みたいだと感じたのがギャグの様に思えてくる程の正統派ヒロイン力全開だ。
(やっぱこうして見ると……超の付く美人だよなぁ。本当のヒロインだし。中身が相当残念にはってるけど……)
「諦めるも何も……。初めっから目標も守りたいモノも別だけどな?」
「……」
俺の言葉に望月はそのまま何かを考え込むような仕草を見せる。
普通にしていれば、いちいち絵になる立ち姿ではある。
……そんな望月だが、
その後は一言も発すること無く、やがて『フン』と小さく呟いて司の方に歩いて行った。
(何だったんだアレは……。どういう風の吹き回しだ? なんか色々と誤解されてるっぽいが?)
「いやぁ。相変わらずのクールビューティですねぇ、望月先輩。」
若干ビビりながらも芝浦がスポーツドリンクを持ってきてくれた。どうやら話し終わるのを待っていてくれたらしい。
ペットボトルを受け取ろうと手を伸ばした際、今更ながらに手のひらがジットリと汗ばんでいる事に気付く。
「何か……、すごい顔、叩かれてましたね?」
「あぁ。向こうの金髪君の種明かしを教わってた。取り敢えず、望月のおかげで手詰まり感は脱せたっぽい。あとはどうなるか……、だな」
「先輩なら大丈夫ですって。うちの金髪君の調子も良さそうですし、ね?」
……そうだな。
こういう時、森山の存在は色んな意味でありがたい。
ムードメーカーとしても勿論だが、アイツが点を取ると何故だかチームに活気が出る。
それに、森山が活躍できるかで、現在の状況を判断出来る試金石にもなるわけだし……。
少しだけ感謝の気持ちを持って森山の姿を見回す。
一点目の慰労でもしてやろうかと思って立ち上がりかけた瞬間、何の迷いもなく再び腰を下ろす。
「頼むって! 俺はこうするから、八神はこう! 内村は片膝ついて! あ? ちょっと氷高? どこ行くんだよ? おい? 司も待てって! お前らのポーズもあるんだから! ちょ? 五人いないとダメなんだって!」
泣きそうな顔で、森山が八神、内村、氷高と司に例のギ〇ュー特戦隊のポーズを必死にレクチャーしている。
なんつーか俺も泣きそうだよ。お前、ソレが原因で学祭オジャンになったんだろーが?
色んな意味で諦めの悪さがマイナス方向で発揮されてしまっている。
「よし! 二本目開始だ!!」
「「おう」」
森山の懇願を無視した司が時の声を上げる。
それぞれの思いを胸に、俺たちは再びピッチへと足を進めていく。
……。
…………。
「いや、だから? 八神はこうだって言ってんじゃん! 両手ピッと伸ばせって?」
「むぅ……」
……いいから早く来いよ。
二本目始まれねーじゃねーかよ……。




