54話 跳べ! 楠 ~戦いの中で戦いを忘れて~
『今を戦えないものに、次や未来を語る資格はない』
by ずぶ濡れのウサギ(イタリアの至宝のニックネーム)
嶺葉の姿がわずかに中に揺れた瞬間、逆側へと急激にギアを上げる。
そのまま司に右肩から背中を預けながら外側へと反転しながらムリヤリ縦へと突破を仕掛ける。
並走して肩を当てながらタッチラインへと押し出そうとする司。
それに対して急ブレーキを掛けた嶺葉がさっきとは逆の回転で今度は中へ切れ込もうとする……、のを司が回転するようなスライディングでボールだけを掻き出して静大のスローインへと変わる。
華麗に司の足をジャンプで躱した嶺葉が何事も無かったように、司の手を握って引き起こす。
「あ……、これヤバイやつだ」
時間にして、ほんの数秒程度の技術の応酬――、
忘れていた現実が久方ぶりに頭の中で甦る。
「……そういや、あいつらってチート扱いだったんだっけ? 俺、まさかの陵辱パターンか……」
例えるなら、司はレベルMAXで伝説の何とかみたいなのフル装備状態で始まりを迎えた勇者だ。挙げ句、作者の権限でレベル上限開放と全スキル利用も許可されている、ときた。
そこに能力コピペした後、ちょっと控えめにして調整したのが嶺葉だ。
決してドラ〇エⅡのトンヌラ君的な扱いじゃ無い。
そもそも人気だけなら主役も喰っている。足りないのは作者の愛情だけだったはず。
一人でも魔王を嬲り殺し出来るような奴らに、さらに後から『玖珂』という飛び道具と超完璧の盾役『安曇』まで加わって、苦戦を装いつつも世界征服したのだ。
……隙が無さすぎる陣営だろ、流石にいくら何でも。
今更ながらに、そのヤバさを体感する。
「……果たして俺は今、伝説の勇者達の戦いに巻き込まれている様な状態なのだろうか?」
お互いの攻撃力の高さを披露し合う為の生け贄……。
確か……、原作でも嶺葉とシニョーリとは全国大会の後の方で対戦していた。
その試合でシニョーリがなんだか変なシュート打ち出してから、作品の流れが変わった事を思い出す。
必殺技の応酬で盛り上がれ! 的な少年漫画の王道とも言える作風に……。
「と、止めねばならん! 多分ここだ! ここが俺の分水嶺だ……」
少なくとも超人サッカーに移行したら、俺の戦闘力では付いていけそうもない。
そんな時、相手MF塩沢のクロスをトラップしたシニョーリと目が合う。
右から来たクロスを胸で左足付近にピタリと落とす変態トラップに、案の定ニジリーは対応できていない。
シニョーリは落としたボールに対して、すでにシュートモーションに入っている。
この辺の迷いの無さが森山……というより、日本人との違いだとは思う。
止めるためのトラップじゃない。シュートを打つためのトラップ。
体が閉じているモーションの為、若干イン側に重心をかける。
聞き足の左足が振り抜かれた瞬間の軌道で、直前の判断が正しかったことを確信した――が、
どうしてか、ボールは逆のサイドネット目掛けて一直線に飛んで行っている。
(!? マジかよ!!)
慌てて重心を取り直して飛びつくも、そんなのは絶望的な抵抗に過ぎない。
『カァァン』と乾いた音がした。
ちょっとだけ期待。……だがそれもすぐに無駄な事だったと思い知る。
「だから言ったじゃん。二回当ててるよって。今のは最後アウトに当てた感じだね」
ネットに吸い込まれたボールを眺めていると、八神がやってきた。
「いやいやいやいや! あり得なくね!? 今のインステップ気味のボレーだったろ? なんで最後にアウトサイドになってんの? 普通アウト掛けたらシュート回転の逃げるボールになるじゃん?」
「だからー掛けてないって! 当ててんの! 分かる?」
なるほど、当ててんのよ状態ですか……。
それって、こんな嬉しくないシチュエーションで使う言葉じゃなかった気がするけど……。
つか、シニョーリがしてやったりの顔でこっちを見ているのも腹立つ。
『騙したぞ!』って、これ以上ない位に顔に書いてある……。
「ん・ん・ん……、んがぁぁぁぁ!!」
「お、落ち着け、クズ!」
いかん。あまりの怒りと不甲斐なさに不破化してしまう所だった。
ん? というか……、今、誰か俺の事をクズと呼ばなかったか……?
「わりい。今のは一発で行った俺の責任だ。次は絶対にやらせないから!」
……お前かニジリー。それより仲間に酷い呼び方したことの方をむしろ謝って欲しいんだが。
まぁ、いい。それより今はシニョーリの方が問題だ。
ハッキリ言って、あれはマズい。
多分、次も止めれそうにない気がする。
初見殺しどころか、何度でもやられそうな予感がプンプンする。
言うなれば、一人時間差みたいな感じだった。
良くも悪くも司のせいで反射神経が鍛えられ過ぎたのが逆に仇となった形だ。
最初の軌道に体が反応し過ぎてしまっていたのだ。
距離が多少あったせいで飛び直す所までは行けた。
でも、あれ以上の近距離ならすでに体は傾いてしまって死に体になっている可能性が高い。
……かと言って、最後だけ反応するなんて器用なマネは……無理だろうな。
「多分、本能で体は動かされちまうだろうし……。どうすべ……」
流石にルート分岐に関わってきそうなレベルになると、一筋縄ではいかないっぽいな。
(ええぃ! この世界のチートどもはバケモノか! ……いや、化け物なんだろうけどさぁ……)
ブツクサ考えながら試合を見ていると、味方が混戦の中でゴールを奪った。
一番喜んでいる所を見ると、どうも森山が決めたらしい。
……マジか!?
これはある意味、大きな出来事かもしれない。
この流れで――、司でも氷高でもなく森山が決めた、という事。
それは『森山でもゴール出来る』優しい世界であるという事だ。
いや、別に森山をディスってる訳じゃなくて――、
言い換えれば、俺でもシュートが止められる優しい世界でもある可能性が高いからだ。
「うおぉぉぉぉぉぉ!! 良くやったぁ! 森山ぁ!」
俺の咆哮に、まるで珍しいモノを見るかのように内村と和泉が呆然としていたが気にしない。
試合はこれで一点差。
徐々にウチらが試合に乗れてきたのもあり、白熱したまま時間だけが流れていく――。
☆☆☆
幾度目かの攻防が続く中、左サイドバックの越野が股抜きでシニョーリに抜かれた瞬間――、
大回りになったシニョーリの目の前で横滑りになってボールを掠めとる。
そのままボールを抱きかかえている俺をシニョーリがジャンプで躱す。
その瞬間、こめかみの辺りをスパイクのポイントが掠めてチッて軽い音を立てる。
(やらせはせん……。やらせはせんぞ! 俺は鹿島のゴールと楠の未来を守る守護神だ。貴様如き色男に俺の人生をやらせはせんぞ!)
立ち上がってシニョーリを睨む。
そして、ぶち抜かれた左サイドにも激を飛ばす。
「左側デフェンス薄いよ? なにやってんの!!」
知らず知らずのうちに、ここまでの熱い展開に俺もだいぶ蝕んでいたようだ。
右サイドに広がった和泉にスローしたところで、部長が一本目終了のホイッスルを吹く。
……最初の一本は静大に取られた。
だが、実戦を意識するなら二本目は後半だ。そこで二点差以上で勝てば良い。
――次だ。
始めて万全の状態でのT-BOX。
CFの性能の違いが、戦力の決定的差ではないということを・・・教えてやる!
もうすぐワールドカップも終わってしまいますね。寝不足の心配をしなくて済む反面、また4年もないのかと思うと寂しさが溢れてきます。『ワールドカップの話しているうちに、次のワールドカップが来る』と言ったのは誰でしたっけねぇ。
今回はPKも多く、様々な視点からキーパーが取り上げられることも多い大会だと感じています。
『それにしてもクルトワ、やっぱすげぇわ』とブラジル戦は独り言全開でした。
ドゥグラス・コスタのカットインからのシュートだったかな。横じゃなくて縦に飛んでコースを切るセービングの時に、あの巨体でなんつー反射神経と俊敏性してんだよ、と感嘆しました。
さて、皆さんの中でも今大会ベストのキーパーがそれぞれ出てきているかと思います。
どのシュートが良かった、どのプレーが素晴らしかった等の話題の中で、『あのキーパーのプレー良かった』という話題が増えていてくれれば嬉しく思います。
日本も今回の件で、良くも悪くもキーパーの大切さをもう一度実感したと思います。
キーパーの成長には、サポーターやファンがキーパーというモノをもっと理解してくれるのが大切だと思っています。ナイスセーブに隠れている分かりづらい地味な所作や準備。厳しい批判も勿論あってしかるべきかもしれませんが、今回を機に自分も含め、もっと見る側の目が養えることの切っ掛けになってくれれば川島選手も本望だと思います(勝手な思い込み)。
ともかく、今は残り少なくなった祭典を楽しみたいですね。
皆さんにとって、大切なワールドカップの思い出になりますように……。




