53話 うつ向くなよ ふり向くなよ
前へ行こうが横へ行こうが、ゆっくりやろうが構わない。子供の間はこうして、ボールをしっかり持つこと、ドリブルでしっかり運ぶこと、良いパスを仲間に繋げる事をゲームの中で、相手に邪魔されながら身につけていくことが大切だ。大人の知恵を入れすぎて、勝ち方を教えるのは間違いだ。
静〇学園:井〇監督 ※嶺葉のモデルの高校です。
「よし! みんな聞け!」
試合前のミーティングにおけるお約束の第一声だ。
部室に川上監督の声が響き渡り、俺たちは姿勢を正す。
「すでに引退したメンバー達とはいえ、激戦区静岡の名門だ。絶対に気を抜くなよ?」
ホワイトボードに今日の試合の流れやスタメンが書き出されていく。
実戦を意識した40分を前後半を意識して二本。その後、一、二年生を主体とした30分を二本。
アフターチャージ、レイトタックル等の禁止事項や交代制限五人などのレギュレーションの説明が入る。
調整メインや無理をさせないこと、さらに既に引退した相手に配慮してある程度融通を効かせた形だ。
……でも、相手のスタメンの半数位が卒業後プロに行くなんてこの時点では聞いてない。
その次に、GK楠、DF和泉、不破、西、越野、MF内村、八神、皇、氷高、FW沢入、森山といつもの名前が4-4-2のフォーメーションに合わせて書き出される。
「今年の頭にもやっているから知っているとは思うが嶺葉は要注意プレイヤーだ。中盤で好きにやらせるな。必ず八神か内村で掴まえてろ。シニョーリとのホットラインは絶対にケアしろ。あと、ディフェンスはシニョーリに前を向かせない事を意識しての対応だ。ある程度、ダイレクトでやられるのはしょうがないが、エリアの中で自由を与えるな!」
……などなど。
「システムは一本目は4-4-2。ダブルボランチ。ポゼッションも展開を広く使って、出来るだけ嶺葉から遠い位置を心掛けろ。切り替えの時間も意識した上で、攻撃は最後までやりきる事。二本目は始めからBOXで行く。集中してけよ!」
「「はい」」
「守備はシニョーリが怖いからってラインを下げるな。中盤を厚くして連携して囲い込め。あと楠、怪我には気を付けろよ。今日は際どいのは行かなくていいからな! あくまで本番はこの後なんだから! みんなもそれは忘れるなよ?」
「「はい」」
……とは言ってもな。いざっていう時は『つい』行っちゃうもんなんだよ。
目の前に危機が迫ったら、阻止しようと思うのが本能ってもんだし。
グラウンドでアップが済んで、ついにピッチを挟んで対峙する。
部長が審判になり、鹿島南キックオフで試合開始。
練習試合とは思えない程の緊張感でボールはゆっくりと動き出した。
☆☆☆
俺たちのスタイルは基本的にポゼッションタイプだ。
様子を見ながら隙を伺っていき、崩せそうなタイミングで一気にギアを上げる。
なんと言っても中盤の司と氷高の存在がずば抜けて大きい。
それに八神は勿論、内村だって基礎技術は決して低くは無い。むしろ一般的な全国レベルより高いと言える。
そこに各ポジションに代表選手を揃えるラインナップ。
高校一のタレント集団と言われるのも決して言い過ぎでは無いと思う。
対する静大付属も、それに匹敵する数少ない高校の一つでもある。
筆頭の嶺葉は勿論だが、攻撃のタクトを振るう塩沢、守備的なダブルボランチの石川と深山。二年生にも笹本と綿貫というタレントも揃っている。
FWはツートップでシニョーリと桜木。CBの堀川と右サイドバックの浜崎も含め、それなりに名前が通ってる面々だ。
改めて言うが、いくら静岡でも県予選で終わるチームではない。
絶対にない。断言できる。
何か見えない力の存在さえ疑ってしまう。
そんな中、嶺葉が氷高からボールを奪い、大きくサイドチェンジが行われる。
逆サイドに広がっていた塩沢の足元にボールが送られ、マークがズレる。シニョーリが少し下がってボールを貰い、ドリブルを開始する。
慌てて八神と不破が挟みに行くタイミング――、エリアのやや外といった辺りか。
キーパーから見て右45度。距離は25メートル程度。
不破の体がシニョーリを覆った瞬間にバ・バン! とボールの衝撃音が連続する。
不破にでも当たったのかと思ったソレは強烈な上向きの角度を展開しながらゴールを強襲する。
……。
…………。
ええ、決まりましたよ? ソレが何か?
ブラインドからゴール上を突き刺すような強烈なシュートをどうやって止めろ……と?
「な、なに? 今の……?」
シニョーリを後ろから追っていた八神が相対していた不破に確認している。
「ん、んん。んん、んんんんがー」
「マジ? 狙ってやったっぽい?」
「ん~?」
……通じてるの、それ?
「クスィー、気を付けて。彼、2回当ててるっぽい。それもわざと」
八神が俺の所へ来て、忠告をくれる。
……いや、だから何が?
そもまま小走りにセンターサークルへとボールを渡しに行く八神の背中を見送る。
「んー、っが!」
そんな俺を見て満足そうに頷く不破。
「だからわかんねーんだよ、お前ら! せめて分かるように言えよ!」
まぁ、いい。DFにはもう一人いるじゃないか、代表戦士が。
俺たちのことを見ていた西と目が合う。
「さっきのアレ……」
「いやぁ~、やっぱアイツやべぇわ。何かわかんねーけどヤベーよ。俺には分かるもん。気を付けてこーぜ」
……どっちだよ? つか、西に聞こうとした俺が馬鹿だった。
せめて次はキックの瞬間を見ないことには話にならん。
とか思ってたら、内村がワンツーで抜かれて嶺葉がドリブルでボールを運び出した。
なんつーか、やたらと相手のモチベーションが高い気がする。
『怪我すんなよ』とか『無理すんなよ』とか言われてる俺らとは段違いに。
そのまま嶺葉がボールを配給しようとした瞬間――、
後ろから猛烈な勢いで追ってきた司がチャージをかける。
一瞬バランスを崩した嶺葉だが体を入れてボールを失わない。
そこへ抜かれた内村のカバーで八神もやって来る。
嶺葉が笑っている――、
ここからでは司の顔は見えないが、多分楽しんでいることは間違いないだろう。
心なしか八神も笑顔に見えるし。
「行くよ! 司君!」
「おう! シュン、悪いけど今回はカバーに回ってくれ」
「ん」
そして、試合中に唐突に行われる一対一。
子供の頃にアニメで見たようなお約束な展開に、俺たちは釘付けになっていった……。
今回静大付属の嶺葉とシニョーリ以外の名前付きは現実にJリーガーになった人たちをもじっています。全員のモデルが分かった方はまさにマニアと言っていいレベルかも知れません。
川島選手のバッシングが前回願ったとおり、手のひら返しになったみたいで一安心です。
でも、98年から20年もW杯に出ているにも関わらず、出場したキーパーが3人のみ、というのはちょっとどうなのかな、とは思います。
経験が重要視されてるポジションではあるのですが、若さと勢いでカバーできるような熱いキーパーが出てきてくれるといいですね。
そういや、何気にノイアーがボール回しに参加してやらかしているのを見て、なんだかなぁ……、と。
ノイアーにやらせる方が悪いのか、良い位置で貰いに行ってミスしたノイアーが悪いのか……。アレ、川島選手が同じ事やったら、大変なことになると思うんですけどねぇ?
※スペイン・ロシア戦見ながらの投稿でした。




