51話 君の世は さざれ石の 想いとなりて 恋のなすまで
サッカーの神様は、いつも僕にだけちょっと優しい。
by フェノーメノ
「お、覚えてないんですか!?」
素っ頓狂な声をあげた芝浦の視線が痛い。
と、いうことで――、
そのままさりげなくさっきのベンチへと誘導する。
絶対に余計な注目を浴びてしまう事が、最近多い事で生まれたリスク管理である。
「い、いや、ごめん」
小さく頭を下げる俺に、まだ信じられないといった表情を見せている。
「ま、まさか前の先輩に戻っちゃったんじゃないですよね?」
言ってる事がよくわからない。
というよりも、むしろ戻れなくてここにいるんだが、俺は……。
「私と最初に会った日の事、覚えてます?」
さっきのベンチに戻った瞬間に、簡単な質問が飛んできた。
「勿論。司に病院行けって言われた日だろ?」
「…………」
あれ? どうやら間違いらしい。
おかしいな。確かに楠の記憶の方も確認したはずなんだが。
「はぁぁぁぁ~~」
芝浦がひと際大きなため息を吐きだした。
「ん、何ですそれ? それって七月の終わりですよね? 四月からマネージャーしてる後輩を認識するのに三ヵ月も掛かってるってことですか?」
……思わぬ地雷だったみたいだ。
言われてみれば確かにその通りではあるか……。
絶対、新入部員とかマネージャーの挨拶とか無いはずないだろうし。
(……何で記憶にねーんだよ、楠!)
「じゃ、じゃあ私がマネージャーの話をしに行った時の事も覚えてないんですか?」
慌てて一生懸命、楠のメモリーを漁るが――、
……無い。
そんなシーンは全然入ってないし、それどころか芝浦に関することすら入っていない……。
流石は、脇役とモブの関係性といった所だろうか。
「うぅ。覚えてないです。ごめんなさい……」
「はぁ……、もういいです。今更、怒るつもりもないんですけど……ねぇ?」
ちょっと不貞腐れたように芝浦は、ガクッと首を垂れる。
その後、芝浦から記念すべき初対面の内容が明かされた。
わざわざ、俺を探して『サッカー部のマネージャーになりたいんですけど』って勇気を持って言いに行ったこと。
それなのに、『俺、知らない。向こうに司、……皇いるから言ってくれば?』と冷たい対応された事。
しかも、向こうって通路とトイレしかなくて、男子トイレの前で司を出待ちするのか? って軽いパニックになった事。
結局言えなくて、後日神津と川上監督の方にお願いしに行ったこと。
『何気に結構恨んでます』というのも、付け加えられた。
「それは、本当に済まなかった」
「はい。許してあげます」
詫びる俺と許す芝浦のこの距離感。
あまりに心地良過ぎて流されそうになるけど……、
彼女の想い人は俺でなく楠だ。もう一度、心の中でその事実を確認する。
「でも、あの頃の先輩だったら、私、絶対好きにならなかったと思います!」
そう! 彼女の想い人は俺でなく楠だ。もう一度、心の中でその事実を確認……、って、オイ!?
ちょ!? 今、その前提壊れたっぽいんだが?
「普通に冷たかったですよ? 私とか他のマネージャーが話しかけても、何かぶっきらぼうで。でも、有名人だし、そういうモンなのかなぁって思って。だからあの時、一緒に病院行けって言われた時は、まず怖いって思いましたもん、正直。でも、なんかすぐに『いつもと違う』って気付いて……。あれ、何だったんですかね?」
(まぁ、中身が変わってますから……ね?)
「急に優しくっていうか、人が変わったかのように打ち解けてくれましたよね? 昨日今日だって、前の先輩だったら、絶対楽しくたこ焼きなんて焼いてないですよ? それどころか紺野先輩と仲良くまでなってるし……、大体ですね! そもそも先輩は――、」
ちょっと話を変えた方がいいな。
何気に核心を突いてる事に気付かれても困るわけだし。
それにさっき、絶対に聞き逃してはいけない事を言ってたわけだし。
「それよりさっき『あの頃の先輩だったら好きにならなかった』って言った? それって、今の俺なら……ってこと?」
「ふにゅ!?」
何か変な声出た。
さっきまで饒舌に喋ってた芝浦が、あっという間に『あー』とか『うー』しか言えない状況に陥っている。
しかも首をブルブル振って、遅れてくるポニーテールに顔を叩かれて悶絶してる。
しっかりしているようで、実はボケてるのも何だか可愛く見えるのは、欲目なんだろうか?
「ええ! 好きですよ! 悪いですか? 何か文句ありますか? 夏休み、一緒に喫茶店行ったり、スポーツショップ行ったり、楽しくてしょうがなかったですよ! リボン褒められた時は嬉しくて恥ずかしくて、素っ気なくしちゃった事は今でも心残りですが何か!?」
プルプルしながら、真っ赤な顔で捲し立てる芝浦の勢いは止まらない。
「先輩だって、何か変な日本語だったじゃないですか!? ブラジル人みたいな!」
「なっ!? それは触れるなや?」
「何です? 似合ってるジャナイカナって? 似合ってるなら似合ってるでいいじゃないですか?」
言い訳と見つめあいが過ぎて、どちらかと言わずお互い同時に笑いだす。
結局は、お互いの今が大事であり大切であることに変わりはない。
そんな簡単な事に気付き、確認しあうまでの時間だったという事なんだろう。
昨日の様に芝浦は離れることもなく、後夜祭は静かに終わりへと向かう。
ゆっくりとした時間は名残惜しく過ぎ去っていく。
そうして、すぐにまた新しいステージが足早に近づいてくる。
言うまでもなく、最後の選手権――、
静大付属を叩いて気持ちよく大会を迎えたいところだ。
このメンバーと最高の結末を迎える事を!
芝浦に優勝と笑顔を届ける事を!
そして、プロへの足掛かりと自信を手に入れる事。
芝浦も優勝もこの世界での居場所も……、全部手に入れるために。
この夢と想いが、最後に大きな一つの未来に重なりますように。
日本勝ちましたね!うーん、このサッカー付けの毎日でも、やはり自国が勝利すると感激が全然違いますね!
ワールドカップも勿論ですが、インハイなど熱い戦いが繰り広げられている今、現在。
世界の有名選手のプレーを簡単に見られるのは、若い選手たちには素晴らしい環境ですよね。
自分の頃は媒体が新聞や雑誌等がメインだったので、羨ましい限りです。
「クライフターンってどんなの?」とか言ってました。漫画やイメージが先行し過ぎて、良く分からない複雑なターンにガラパゴス進化してしまってたのは、笑い話であり、サッカー部のコミュニケーションの一つでもありました。
ま、作中はそんな時代という事です、はい。
いやぁ、日本!良かった良かった!




