49話 いつの間にか大人になっていく間に 大事なモノを忘れない様に
最善を尽くした人間ほど美しいモノはない。
by デト〇ール・クラマー
部室に戻ると、俺たちの帰りを待っていてくれたメンバーが出迎えてくれた。
西、不破、眠りから覚めた八神と紺野といったお馴染みの顔ぶれだ。楓を除けば……。
何でも部室の前を荷物を持って行ったり来たりしていた際に西に捕まったらしく、どうにも断り切れなかった感じらしい。
ちなみに司だけは当然ながら、すでに望月に連行されており別行動となっていた。
☆☆☆
「ほらな? その程度の女じゃなかっただろ?」
「意味がわかんないですけど? 別にその程度にしておいて貰っても、私的には全然良かったんですけどー?」
「そう言う恩着せがましい言動だから、アンタはモテないのよ!」
西と楓の漫才に紺野がツッコミを入れてるうちに、どうやらすっかり打ち解けたらしい。
予期せぬ楓の登場は俺と芝浦のふわふわした雰囲気を隠すのに大いに役立ってくれた。
そのまま中庭で開かれている前夜祭へと移動する。
芝浦はちょこちょこ離れては、楓や紺野と話をしてはまたすぐ戻ってくるを繰り返している。
隣に戻ってくる度に顔をニッコニコにして寄りかかるようにぶつかってくる。
流石にわざとらしさを感じるその行動はこっちとしても気が気でないのだが、当の本人はそんな俺の動揺さえ楽しんでいる風にも見えた。
「あ、あのなぁ? もう分かったから、それ何とかならない?」
「あ、無理です。とりあえず三年分ありますから。一日一回だとしても千回以上残ってますので?」
幸せいっぱいに笑う芝浦。
最初にこの笑顔を眩しいと思った日が思い出される。
漏れなく洋二先生の断末魔もあったのは気のせいという事にしておこう。
そしてその可愛い当たり屋は、前夜祭が終了を迎えるまで俺がどこにいても誰といても定期的にぶつかり続けてきたのだった……。
☆☆☆
帰り道――、
芝浦を見送った後、不意に楓から質問を受ける。
「ねぇ兄貴。舞っちと何があったの? 前夜祭ん時から明らかにおかしいんだけど、あの子?」
「……ぶつかってくる以外いつも通りだろ?」
「いや? むしろ気になるとこソコなんだけど!?」
「……事情があるんだろ? 芝浦にも」
何を聞かれても俺が答えないつもりだと分かると、楓もそれ以上の事は聞き出そうとはしてこなかった。
いつしか話は洋二先生の方へと移り、次いつ行くかなどの相談に変わる。
最近では日が短くなってきたのもあり、外のテニスコートもどきから室内の代替えトレーニングに移っている。
といっても中身は殆ど同じだ。テニスからテーブルテニスに道具が変わっただけ。
俺の部屋のベッドマットを横に立てかけて、そこにピンポン球を打って貰うという外のミニチュア版。
飛ばなくていい分だけ、至近距離のスマッシュに対しての反射神経と動体視力を重視したトレーニングになっている。
面白がった瑞希も参戦して、二人がかりでピンポン球をぶつけられた時はどうしてくれようかと思うほどには痛いのが難点だが。
「宿題があってさぁ。多分……だけど答えは出てるんだ。んで、それの確証が得られたら報告に行こうとは思ってんだけど」
「んじゃ、そん時は教えて。ちょっとスプリットステップで聞きたい事があるんだ」
「スプ……?」
とりあえず楓が何を聞きたいのかまでは理解出来なかったが、行くときに連れて行くのは別に問題は無い。
むしろサポートトレーナーとやらを満喫しているみたいなので、ハブると逆に面倒になる。
「理解して無くても出来る人っていいわよねぇ? テニス知らないくせに当たり前の様にマスターされてると逆にムカついてくるわ」
楓のご機嫌が良くない方にシフトしたらしい。
その後も何やら文句を言い続ける楓に、適当な相槌を打ちながら家へとたどり着いた。
☆☆☆
あっという間に二日目の文化祭も終焉に近づき、校内には何となしに寂しい空気が蔓延していく。
『学生らしく』なんていう誰が決めたかも分からない極めてアバウトな括り。
そういった枷が一つ無くなってしまった事への単純な寂しさだろうか。
早く大人になりたいと思う反面、学生という無邪気さを無くさなきゃいけない怖さ。
その二つのせめぎ合いが許されるのも、俺たち三年生はあと僅かしかない……。
「先輩? 今日、後夜祭一緒に行きませんか?」
ちょとだけ場の空気に酔ってアンニュイ気分を堪能してる最中、芝浦に声を掛けられた。
特別な存在宣言をした昨日の今日だから、ちょっとだけ照れ臭い。
「も、もちろんいいぞ?」
芝浦は、俺の最初の『も』が裏返ったのも気にせずニッコリと笑う。
「今日は紺野先輩、誘っちゃ駄目ですよ?」
去り際に耳元で小さく言われる。
手際よくたこ焼き屋を片付けながら頷き返す。
「返事は?」
「……仰せのままに」
俺が答えると同時に、トンっていう位の衝撃が軽く訪れる。
「絶対ですよ?」
俺の肩を頭で二回ほど叩いた後、何事も無かったかのように芝浦は走って行く。
「ほえ~~。マイッチもやるねぇ~~」
しきりに紺野が目をパチパチしている。
てっきり話を振られると思ったのだが、何故か紺野から芝浦の件について触れられる事は無く平和なままで屋台の終了を迎えることが出来た。
とりあえず八神と不破が全く役に立たなかった以外は、概ね問題は無かったと思う。
途中、あまりの無能さに何かペナルティも必要か、とも一度は考えた。
でも、森山を見てトラブルを起こさなかっただけ優良じゃね? と考えが変わったのは、俺も大人になってしまったからなのだろうか。
基本、食べて寝て、起きて食べて寝る、しかしてないしな。
不破に関しては八神の子守をしてくれた、ということでチャラでいいだろう。ホントは良くないけど。
鉄板や余った材料などを運営部に返却する頃には、下校していく生徒もチラホラと溢れ出す。
あくまでも後夜祭は任意参加だから、出なきゃいけない理由は無い。
例えば俺だって女子に誘われるとかのイベントが発生してなかったら、西達と帰っていたと思う。
せっかく部活が休みなんだからどっか行こうぜ? 的なノリで。
「お~い楠? 終わったんなら帰ろうぜ? 欲しいCDあんだけど一緒に行かねぇ?」
……ほら、こんな風に。
適当に西に詫びを入れながら断る。
「いーよ、気にすんなって! 俺はさっさと帰って兄貴のDuo-Rでもすっからよ。一人寂しくスーパーにリアルな麻雀でもしてるよ」
「……その捨て台詞、めっちゃ気にするように仕向けてるだろ?」
軽く笑い合った後で、西が去って行く。
西を見届け終わらないうちに、後ろから芝浦に声を掛けられる。
「お待たせしました先輩。ところでさっき、西先輩が言ってたスーパーにリアルな麻雀って何ですか? 何がそんなにリアルなんです?」
……アウチ! 聞かれてた。
せめてニュアンスでは分からないタイトルであったなら良かったのに……。
その……、何がリアルって言われると……。
「しょ、勝負事の駆け引きとかじゃないかな」
「ふーん。まぁ、別にいいですけどぉ?」
何やら胡散臭い物を見るような目で見られてしまった。
「じゃ、少し早いけど行きましょ?」
そう言うと、芝浦は躊躇い無く俺の右手を引き、校庭へと足を踏み出した。
今回、チャンピオンズリーグで決勝も含めキーパーが悪い意味で目立ってしまいましたね。
特にカリウスに関しては様々な批評とかも出ており、某副音声では『仕事任せられない』なんて言われちゃったみたいですね。
本当、悲しい事だと思います。確かに彼は大舞台でミスをしてしまった。でも、彼がいたからここまで来れた部分もあったはずなのに、そういったモノは無かった事にされてしまうんですよね。
泣きながら謝罪する彼が一番ふがいなさを感じてるはずなのに、外野から今までの事を全否定されてしまう。
『キーパーはミスが一つでも多すぎる』とは2002ワールドカップでミスをしたカーンの言葉です。彼だってCLでロベカルのシュートを後逸したりとやらかしています。
キーパーで唯一バロンドールを取ったレフ・ヤシンでさえミスをしたことを笑い話にするぐらいネタがあったと言います。
ミス自体は許されるモノではないのですが、仕事を任せられないなどそこまで非難される覚えは無いと思うのです。そもそもミスをしないキーパー、というかアスリートさえいないはずです。
『全てのキーパーが彼の思いを共感できる』と同じチームのミニョレも話していました。
自分はプロでも無いし、そんなに高いレベルでプレーしたこともありません。でも彼の苦しみや懺悔は痛いほど分かります。少しでもキーパーを本気でやったり学んだ人なら、彼の痛みは想像できると思うのです。
『映像が浮かんできて一睡もできなかった』と、奇しくも作中の桜井の時に書いた『寝る前のフラッシュバック』を味わってしまったカリウス。
彼が一日でも早く顔を上げて、堂々とした姿でピッチに戻ってくる日を待ち望んでいます。それでもせめて一言彼に送れるとしたのなら、
『君の今までの仕事ぶりは決して恥ずべきものなんかではない。決勝は生憎とあなたの日では無かったけど、君が今までどれだけチームを救ってきたかなんて誰もが知っている。今は難しい時間だろうけど、後悔が済んだらまた仕事が待っているから。来年もよろしく頼んだぜ?』 といった所でしょうか。
最後に、見る側に特化するのも良い事なんでしょうが、やる側の立場を理解(出来なくても)しようとしない人の発言は個人的には好きになれそうにないな、と感じた一件でした。




