46話 青いため息
我々はアクシデントでさえ、絆を深めるきっかけに出来るんだ。
by ジョゼ・モ〇リーニョ
「まずですね……、シチュエーションにおける答えの誘導は失敗しました」
努めて冷静に、でも少したどたどしく――。
芝浦からミッションフェイルドが伝えられる。
「え? 嘘? ちょっと?」
その言葉に俺より先に反応したのは紺野。
俺は、現時点でその真意を理解していないため驚くタイミングさえ分からない。
「紺野先輩のせいですよ、もう!」
ジト目で紺野を見つめるが、別に芝浦も本気で怒っている風ではない。
「ちょ、ちょっと分かるように説明して欲しいんだけど?」
「あのですねー……、何て言えばいいのかな? さっきのは、答えづらい二択を先輩に与えて、それで時間がかかるごとに私たちがプレッシャーをかけるという事をしたかったんです」
「つまり即答出来ないようにして『いつまで迷ってんですか~?』ってやる的な?」
「はい。まぁ、概ねその通りです。でも、紺野先輩があんな目立つ所で始めちゃうから『どっちにするのタイム』が十分に確保できなかったんです」
『どっちにするのタイム』って……。
言うと、また顔真っ赤になりそうだし、黙っとくけど……。
「……もう一回してもらっても俺は構わないんだが?」
「やりません!」
「やらないわよ!」
……そうですか。
ま、分かってたけどなんか寂しい。
「それで、その『どっちにするのタイム』は何の意味があるんだ?」
口に出すと、なかなかに恥ずかしいなこのワード。
「さあ?」
……はい?
見れば芝浦も少し困った顔をしている。
「え? ちょっと待って! 誰も意味分かんないで、あんな恥ずかしい事させられたの!?」
紺野が素っ頓狂な声をあげる。
あ、やっぱり恥ずかしかったんだ。
ノリノリに見えたのは、照れ隠しの一環だったのかもしれない。
「ここで分からなければ、『私がニアで紺野先輩がファーって。そこから先は自分で考えて』と、伝えるよう頼まれました」
間違いなくネガティブゲート関連の出題なんだよな、コレって?
ニアを押さえながらファーを止めるって事をそのまんま直訳すると――、
芝浦をキープしながら紺野をゲットしろって事になるんじゃないのか?
しかもニアをちょっと空ける事まで指示されているから……、
つまりは芝浦との関係性にスキを持たせて、紺野が来るように誘導しろって事……?
いや、まさか自分の娘が絡んでるケースに流石にそれはないだろう。
「二股しろ……、って事ではないよな?」
その瞬間に二つの視線が邪眼に変わる。
うん。うちのマネージャーは採用条件に邪眼が含まれているのかもしれない。
これは絶対に踏み越えちゃいけないラインだ。
命がけのオフサイド突破はしたくない。
「どーゆー解釈したのよ、アンタは?」
紺野の迫力に、さっきの思い付きをそのままをプレゼンする。
別に俺がそう願ったから口に出したわけじゃないと、言い訳たっぷりに。
やたら身振り手振りが大きくなってしまったのは後ろめたかった訳ではない。絶対にない。
誘導尋問されただけだし!
「あぁ~。ま、そう取れなくもないのかぁ」
「で、でも! 絶対違いますよね!?」
まあ、違うだろうな。
考えながら無言で頷くと、芝浦は両手を胸にあてて『良かったぁ~』と安堵の声を漏らす。
それを微笑ましく見守る紺野の生暖かい視線がくすぐったい。
「ごめん、芝浦。さっき言った洋二先生の言葉って何だっけ? 選択肢が~、てやつ」
「さっきの? あぁ! 『選択肢を与える事で判断に至るまでの思考の考察』です」
さて、シンキングタイムだ。
第一条件は、ある迷うケースがあって、判断に困る瞬間が舞台ということだ。
さっき先生は俺に『分かっちゃえば呆れるぐらいに簡単な事だから』と言った。
茶目っ気は多いが嘘をつくタイプでは無い。おそらくは、本当に簡単な事なんだろう。
気付けば簡単。でも言われないと気付けない……。
あぁ、なんかそういう騙し絵みたいなの動画で見たような気もする。
視点をずらすことで男女のペアだったり、男の横顔に見えたりするヤツ。
あー、でも今回は『思考の考察』がテーマだから、ちょっと違うか。
考えることを考える――、
哲学すぎて禅問答みたくなってないか?
判断した考えを考えることで、導き出される答えが考えられる事について、俺は今考えている……。
うん。思考停止させる系のヤツだな、コレ。
この前のと同じで嵌まったら抜け出せないやつかもしんないから、この辺で止めとこう。
前回、洋二先生もすぐ答えを見つけろ、とは言ってなかった。
こうやってパーツを集めていくうちに、ふと分かるような仕組みになっている可能性もある。
今はまだ認識出来る準備が整ってない、という事なんだろう。
この場での答え合わせは諦め、俺たちは部室へと再出発する。
部室に近づくと、何やら慌ただしく動き回る部員たちの姿が飛び込んでくる。
潰れたベンチや砕けたプラスチックのバケツなど、備品と呼んでいたものの残骸が部室の前に運び出されている。
明らかに大掃除的なイベントが開かれている。
「なぜに学祭の真っただ中に……?」
俺たちの姿を見つけた西が近寄ってくる。
「おお、いいところに来たな三人とも。実はさ、森山がロッカー倒しちゃって残骸とか埃とかスゲーことになってんだよ? 悪いけど手伝ってもらっていいか?」
苦笑いを浮かべながら頭を掻く西の向こうで、ほうき掛けしてる司の姿が見えた。
「森山の尻拭いってのが気に入らないけど、そうも言ってられないみたいだな?」
「ワリィな楠。もう少しで終わるからよ」
俺の言葉に西は少し気まずそうに言う。
やっぱお前、良い奴だ。自分は悪くないのに、他人の為にアタmを下げられるんだから。
「んじゃ、紺野。俺らもちゃっちゃと手伝うか? 芝浦は悪いんだけど少し待ってて貰える?」
「えぇ~? 私もマイッチ的な扱いを希望するんだけどぉ?」
わざとらしい不服をアピールする紺野とそれを苦笑いで流す芝浦。
「んじゃ楠はロッカー戻すの手伝ってくれ。紺野は司からほうき受取って掃き掃除頼む」
「「ラジャ」」
西の指示に従って部室へと近づいていくその後ろ――、
「別に一緒に掃除しよう、って言ってくれれば私も喜んでお手伝い出来るのに……」
ボソッと小さく溢れた声は、部室前の騒ぎにかき消されていく。
それはついに俺の耳に届くことは無く、迷子の溜息すら知ることは無かった。
自分もキーパー経験者という立場から今年のJリーグに沢山の外国人キーパーが来ていることを、とても興味深く、そしてワクワクして見ています。磐田、名古屋、岐阜、千葉、新潟などなど。また、鳥栖にチェゼーナから来たイタリアとのハーフのキーパーも気になりますね。せっかくのセリエからJに来た事に関して色々思うところがある人も多いでしょうが、将来活躍しイタリアからオファーが来るようになって欲しいなと思っています。スタジアムで見たアップ中のランゲラックのストレッチをマネしようとしたら、体が硬くて出来なかった事が地味にショックでした(泣)。




