44話 ホームワークも終わらない
『俺がやってる事を出来る奴はゴマンといる。でも、俺ぐらいやる奴は見たことがない』
by ガッ〇ーゾ
「マジでいいの?」
「はい。紺野先輩も一緒の方がきっと楽しいですし」
「うーん……わかった。じゃあ! そうと決まれば、めーいっぱい楽しみますかぁ!」
隣で急にテンションを上げ出す紺野に苦笑いが溢れる。
なんつーか『紺野はいつも楽しそうじゃん?』とかは言わない方がいいんだろうな、きっと。
校舎に入り、手前から順番に教室の内部をチェックしていく。
イベントや店の形を取っていれば、取り敢えず中へと入っていき一通り堪能する。
まさかのローラー作戦だ。
「カナカナこれ買って? たこ焼きで鹿チケットだいぶ儲けたでしょ?」
バザーもどきの教室で、紺野は一つのヘアアクセサリーが気に入ったらしい。
バンスクリップとか言うらしく『家で使いたいから』とも付け加えた。
……あれはサッカー部としての利益なんだけど?
悪いが、紺野の物欲と食欲には対応していない。
「むぅ。時給分も無いの? 知らなかったわ。サッカー部ってブラック企業だったのね」
……ちょっと? 他の生徒の前で人聞きの悪いことを言わないで下さる?
『無理』と絶対に言わせない鬼経営者みたいじゃないか。
「わかったよ……。この前も含めて、二人には世話になったしな。俺個人の鹿チケットでなら現物支給で対応しよう」
「え? マジ? カナカナ太っ腹ぁ!」
「あ、いや、私は大丈夫です。何もお役に立てませんでしたし……」
「あ、いいのいいの。マイッチはいるだけでカナカナの役に立ってんだから。こーゆー時は『ありがとう』って言っとくと男の甲斐性も満たせてwin-winだって、花金でやっくんが言ってた」
……言わねーよ。
あれは只の情報番組だろーが!
まったく……、少しは芝浦の謙虚さを見習ってくれればいいのに……。
☆☆☆☆
あっという間に16時になり、校内にエコーが効き過ぎた放送が流れ出す。
「午後4時になりました(したぁしたぁしたぁ)……」
在校生以外の入校許可終了の報告のアナウンスだ。
また、前夜祭に出ない生徒もとっとと帰れよー、というのも優しく言い換えている。
文化祭の中日なのに前夜祭とは妙な感じだが、前日はハッキリ言って準備が大変すぎてそれどころではなかったのが原因だ。
校門ではアーチ作成がギリギリまで行われ、中庭には空き缶で作ったモニュメントが突貫で設置されていた。
まぁ、何でも予定通りには進まない、という事を学生時代に強制的に学ばされた訳だ。
一度司たちと合流しようと、グラウンドに向けて歩いていると昇降口で帰ろうとするマッチョマンを見つけた。
「あれ? お父さん?」
洋二先生だ。もうパッと見、ボディビルダーにしか見えない。
ポロシャツ、パッツンパッツンなんですけど……。
「あぁ、舞。ようやく会えた。それに楠君も……」
ちょっと安心したように笑う顔には、隠し切れないほどの疲労が見えていた。
そのまま、洋二先生は俺たち三人を眺めながら、うーん、と唸りだす。
「それにしても、まさか楠君が女子二人侍らせてるとは……、ねぇ……」
「あ、いや。別に侍らせてるわけはないですよ? 成り行きです、成り行き」
「そっか。うちの娘は成り行きで二股掛けられてしまう程度だったんだね?」
「お父さん!? 紺野先輩は私が誘ったんだけど?」
芝浦が軽く怒る。
こういう時、どこからか凶器を取り出さないかが心配になる。
「ははは。冗談だよ、冗談」
大げさに洋二先生が笑いだす。
危険察知能力の向上が見て取れた瞬間だ。
「この前、医務室に来た子だよね? 娘がお世話になってます」
と洋二先生は丁寧に頭を下げる。
この辺のバランスも流石に学んだのかもしれない。
「まぁ、なんだ。この前出した宿題に少しは悩んでるかな、と思ったんだけど、結構楽しそうにしてるみたいで安心したよ」
そう言う洋二先生の目は笑っていない。
紺野に向けた顔つきと全然違うんですけど……。
「あ~あ。困ってるだろうなぁ、悩んでるだろうなぁ、と思って心配してたんだけどなぁ~」
「……洋二先生。なんか、ちょっとめんどくさい人になっちゃってませんか?」
「さっきめんどくさい人に捕まっちゃったんだよ。それなのに楠君ときたらさぁ?」
「……なんか、すいません」
「いいよ、もう」
そうやって少しいじけた感じを醸し出すムチムチのおっさん。
色んな意味で目の毒だ。
ん? 待てよ?
今の口ぶりからすると、俺に何かヒントとか持ってきてくれたって感じなんじゃないか?
「そのつもりだったんだけどなぁ~」
オイおっさん? 可愛くねーから! ……とは勿論言えない。
「……お父さん、なにしに来たの?」
段々と芝浦の苦笑いがぎこちないモノへと変わっていく。
「も、もちろん舞の学校生活の確認と、く、楠君の力になろうと思ってね――」
「だったら早くして欲しいんだけど? もう生徒以外は出ていく時間なんだけど!?」
被せ気味のセリフがちょっと怖い。
「う、うん。じゃあ……、少し早口になっちゃうけど、よく聞いてね」
無言で頷く。さっきまでのふざけた空気は簡単に吹きとばされてしまっている。
「あのね? 今の楠君の置かれている状況はとても良く再現されているんだよ。よくサッカーは人生の縮図だ、なんて事を言う人がいるけど、まさにそれを地で行く状況」
「は、はい? 言ってる事が良く分からないんですが……」
「まぁまぁ、少しだから最後まで聞いてよ。今回、僕が与えることが出来るのは自覚と切っ掛けだけなんだから。分かっちゃえば呆れるぐらいに簡単な事だからね。だから、あとは君がそれに気付くか気付かないか、だけなの」
「は、はぁ……」
「じゃ、ちょっと悪いけど楠君は先に目的地に行っていてくれない? 三人でどっか向かおうとしてたんでしょ?」
そのまま洋二先生に昇降口から追い出される。
……たしか、司たちに合流しようって言ってたんだよな。
去り際にチラッと後ろを振り向けば、洋二先生が二人に何かを説明しているのが見えた。
よく分からないけど、多分これも何か意味のある行動なんだろうな。
ああ見えて、脳筋どころか生粋の理論派だからなぁ。時々勘違いするけど。
そのまま、司たちがいるであろうグランドにたどり着く。
考え事をしながらだったためか、そこで繰り広げられる光景の異常さに俺は気付けなかった。
……いや、もうホントに。
知ってたら間違いなく近づかなかったし、分かった時点で即Uターンしてた。
ハーフパンツにエプロンの姿をした森山がゴールポストにペンキを塗っている。
そんな非日常的な景色を視認した時には、俺はすでにペナルティエリアに侵入してしまっていたのだ。
「な、な……?」
言葉が出ないどころか、現実かどうかの判断も停止する。
……夢!? いやいや、こんな夢見るかよ!
「うぅ、楠ぃ……」
俺に気付いて情けない声を出しながら、こっちを見る森山。
ちょうど正面を向いた形になり『な、何も着てないだとっ!?』状態だと脳が錯覚する。
うわぁ……。
こんな夢の無い裸エプロン、初めて見たわー。
しかも始めてみるソレが森山のなんて、マジ一生モンのトラウマだわ……。
ナニしてくれてんの、オマエ?
つか、他の奴らどうしたんだよ……。
ただ茫然とその景色に捕らわれる中、片隅の人影に気付く。
遅れてやってくる戦慄と後悔――、
腕組みをしたまま、ゆっくりと首を向けてこちらを睨む望月。
『ギロリ』という効果音が後ろに見えた気がした。
「うおぉ!?」
あんまり奥が衝撃すぎて、手前の鬼に気付かんかった。
まさか手前に邪眼持ちがいるとは聞いてない。
「し、失礼しました」
クルっと踵を返す俺。
「く、くすのきぃ~」
(ば、ばか、やめろ! 俺の名前を出すな!)
俺は無言のまま昇降口に引き返した……。
なんか前振りが長くなり過ぎてしまったような気がする。
大会は3章に分けた方が綺麗な様な気がしてきました。ま、流れは変わらないので形式的なモンだけなんですけど。
という訳で、前振りはまだ続くという事の告知でした……。




