42話 見えないもの信じていたいから
『ビデオの再生くらいはできるさ。でも、録画は…できないんだ』
by ヨ〇ン・クラ〇フ
思い描いた未来の難しさ――。
楠としてのそれを、
最近ではそれほど悲観的なイメージをあまり考えなくなった気がする。
ふと隣を歩く二人を眺める。
楽しそうに話をしている紺野と芝浦。
少なくとも『今、俺たちは誰かに生み出されたキャラクターなんだ』なんて感じるはずもない。
不確定さに怯える未来なんて、現実だってあった事だ。
今更、必要以上に怯える必要なんて無かったのかもしれないな。
「そんでさぁ、不破君が大きな声出してカナカナが怒ってさ。不破君泣いちゃったのー」
「えぇ? 不破先輩がですか! そういえば決勝戦の後ここに帰ってきてからも泣いちゃってましたね」
「あー、確かに! あれもカナカナが泣かせたんじゃん。あ! それに桜井君も泣かせてた! うわぁ、男泣かせだねー」
……。
ちょっとやめてくんない?
なんか哲学的な事とか考えようとしてたのに……、すごく馬鹿みたいになるから。
喧噪の中、苦笑いとともに進んでいけば、すぐにたこ焼きのテントにたどり着く。
客もそこそこといった所で、この調子なら今日の分のノルマは達成出来そうだ。
「ただいまー。どう売り上げ?」
店番担当の内村と越野に声を掛ける。
「あ、お帰りっす。順調っすよ。鹿札のポゼッションだいぶ上がってきましたよ」
「もうそろそろ今日の分は終りっすね。あとはロスタイム分ぐらいっすね」
あ、それまだやるんだ……。
言い出しっぺのヤツ、表舞台から強制退場させられたっぽいんだけどな。
時計を確認すれば午後2時半になろうかという所。
10時開校で、開店は少し遅れたから……、それでも4時間くらいはやってたことになる。
向かいのなんちゃって喫茶は、すでにグダグダだ。
お好み焼きの方も麻野が、すでに後片付けの準備に入っている。
「うん。うちらもここいらで閉店すっか? 次、客さばけたトコで終りにしよ」
「マジっすか? 俺行きたいトコあったんすよ」
内村の顔がパァって明るくなる。
うん、今日は凄く役に立ってくれたしな。
店番もして貰ったし、後片付けは俺がやっておけばいいだろう。
内村と越野、それに佐倉に残ったたこ焼きを渡す。
そういや、八神と不破はどうしたんだろう?
流石にもうベンチで寝てないようだが。
「あ、八神先輩ならそっちッス。麻野先輩に残ったお好み焼き貰って芝生で食べてます」
あ、そう。食ってばっかだな、あいつら。
せめて後片付けぐらいはやらせるか。
「いいよ、三人とももう終りで。あと俺がやっとくから。ついでに行きがけに八神らに戻ってくるように言っといて」
一度頭を下げて、三人が人混みの方へ消えていく。
佐倉も今日をきっかけにレギュラーメンバーと少し打ち解けられてるといいんだが。
一年で一軍になると居心地が悪くなることもあるだろうからな。
二年のレギュラーメンバーと親しくなっとけば、そういういらない軋轢も軽減できるだろう。
テントの中、残されたのは俺と紺野と芝浦の三人。
本日終了の張り紙を見える位置に張り出す紺野。
すでに動き始めた紺野と、勝手が分からない為に動けない芝浦。
「……で、私は何をすればいいんでしょうか?」
うん、ごめん。
来て早々店仕舞いは、流石にちょっと悪かったなと思う。
「じゃあ、指示出すから手伝って貰っていい?」
「もちろんです!」
元気な返事に救われた俺は芝浦と、鉄板を掃除したりゴミをまとめたりと作業開始。
紺野も明日も使う物を段ボールにしまったり、ついでに在庫確認したりと何気に働き者だ。
バインバイン。
……見てない。見てないぞ。
そう。俺は胸を見ているのではなく、作業の進捗状況を確認しているのだ。
だって『班長』だから!
班長たるもの、作業の進行具合やスタッフの配置などを適切に考えなければならないからな。
八神と不破に関しては間違ってないはずだ……、多分。
あれ?
誰か忘れてるような……。
いや、気のせいか。
黙々と作業が続き、テント内も少しずつ整頓されてきた頃、
「ねぇ? 今気付いたんだけどさぁ、神津さんってドコ行ったの?」
「あ、神津がいなかったのか! なんか人少ないって思ってた」
「うわ? ひど!」
つか、お前も今気づいたって言ったよね?
あんまり変わんなくね?
「そういやさ、片付け終わったら何か用事とかあんの?」
紺野の何気ない質問に手が止まる。
んー、特に考えてなかった。
つか、いつまでたこ焼き屋開けとくとかも考えてなかったしなー。
もしかしたら紺野も内村達みたく、どこか行きたいトコとかあるのかもしれない。
「紺野? 行くとこあんなら行っていいぞ。 あとやっとくから」
「あ、違う違う。そうじゃなくてー……」
なんだ? いまいち要領を得ないな。
でも、言い淀んだってことは何か伝えたい事があるんだろうし……。
「あ! なんだ暇なのか? だったら終わったら一緒に回るか? 」
俺の言葉と同時に紺野は一瞬驚いた表情を見せた、と思った瞬間もの凄く深いため息を付いた。
「はぁぁぁぁ。信じらんない! カナカナってホント馬鹿だね。本命隣に置いて、違う女子誘うってどうなのよ?」
なっ!?
ち、違う、違うぞ?
お前がなんか寂しそうに見えたから、つい……。
というか、完全にウチラってそういう扱いなの?
「それにアンタといて、あの怖いおねーさんに絡まれんの嫌だから。私は自由にブラブラしてくるよ」
言葉と同時に両の掌をブラブラと振る。
多分それが一番の理由っぽい気もするけど、これ以上この話は深くしない方がいいな。
「よし。終わり! この箱部室にしまいながら私はお暇するわ。じゃーねマイッチ。あ、あとカナカナ。手伝わなくていいかんね!」
たこ焼きの材料や調味料などを詰めた段ボールを持って、紺野が去っていく。
ほぼ同時にこちらの片付けも終了し、一応今日はこれで自由になった。
どうしよう。手伝うな、とは言われたけど……。
流石に部室までアレ運ぶの大変なんじゃないか?
隣の芝浦に聞いてみようと、顔を向ける。
目が合った瞬間、思いっきり下を向いてしまった。
……耳まで真っ赤だ。
駄目だ! これは、こっちまで真っ赤になっちまう。
たこ焼き屋の二人が店内で茹でダコ状態になってたら、それこそ何を言われるか分かったもんじゃない。
カシャ! カシャ!
突如として聞こえるシャッター音。
その音のおかげか、俺と芝浦の時間が動き出す。
助かった……、と思った瞬間に、また別の問題が生まれたことを認識する。
「いいですよー二人(カシャ!)。初々しさが出てますねー(カシャ!)。あ、もっと近寄って貰っていいですかー?(カシャ!) あ、舞ちゃん、もっと笑ってー(カシャ!)。あ、先輩も表情カタイですよー(カシャ)」
…。
……。
………。
神津、お前……。
「い、いつから撮ってた?」
「いやー、結構前から。 二人で並んで片付けしてる所もバッチリです!」
そう言って、微笑みながら右手の親指を立ててウインクをする神津。
親指には五角形の海苔が付いていた。
と、盗撮じゃないのか、コレ?
つか、片付け手伝おうとか思わなかったのだろうか、このカメラ少女は……。
その時、神津の後方に軽い人だかりができていて、それがこちらに向かってくる事に気付いた。
……不破が八神をお姫様抱っこしてノッシノッシと歩いてくる。
な、なに?
どういうシチュエーションなの、それ?
何かいろんな演出てんこ盛りで、対応出来ないんだけど……。
そういう場合、やる事って……、
「芝浦! 逃げるぞ!」
俺は芝浦の右手を掴んで、紺野の去った方角へと走りだす。
その直後、遠くから『ん~~~』とドナドナ的な声が運ばれてくる。
意を決し、一度だけ振り返る。
八神を抱っこしたまま困った目でこっちを見つめる不破と『いいですよー』『もっと筋肉アピールしてもらっていいですかー』とはしゃぐ神津。
いちいち疲れるんだよ、こいつら……。
「部室に行くからなー!」
このまま逃げるのも可哀そうだな、と思った俺は不破に精一杯の言い訳を放ちその場を逃げ出した。
しばらくサッカーに関することが描けてないのが少し寂しいです……。
でも大会始まって試合ばっかりになると、日常を描きたくなるんだろうなぁ……。




