40話 SHINY DAY
何も放棄するな!何もだ!
by ディ〇ィエ・デシャン
県予選を終えて1週間後――。
今度は文化系のイベントが訪れる。
鹿島南高校学園祭。通称『鹿南祭』だ。
2日間の連続開催で行われるそれは、日曜日に一般公開が行われた後に月曜日は非公開でやや小さめに行われる流れになっている。
俺たちのように大規模イベントを残してる身にしてみれば、なんというか『最後の学生らしいイベント』と言えるのかもしれない。
洋二先生の宿題もとっかかりすら掴めていない現状では、まあ気晴らしも必要だろう。
ダルさ全開で制服のズボンにエネーレのプラクティスシャツに着がえ準備に取り掛かる。
見た目をやる気なさげにして、中身が燃えているのを悟られない様にしたい。
『もう少し待ってください。僕が本当のたこ焼きを皆さんに出してあげますから(キリッ)。』的な。
イメージはまるで、どこか東か西か分からない駄目新聞社員だ。
「栗田君。タコを持ってきてくれないか?」
「私、栗田じゃないけど?」
……みなまで言うな、紺野。
分かってるよ、そんなこと。
お前のせいでこの前、姉に殴られたんだから。
「というか……、あれ? カナカナ、ルール聞いてないの?」
ルール?
「うんとね? 『屋台の中では全てサッカー用語でしか話してはいけない』んだって?」
――WHY?
何だ、その面倒くさいルール?
作業を行う上でデメリットしか感じないんだが。
「二回ミスる毎に罰として、キックターゲットにたこ焼きを一パック届けるようにって森山が……」
あの……クソロン毛!
毟るぞ? もしくは枝毛を全部裂いてやろうか……。
ちっ、まぁいい。
とりあえず時間も無いし準備に取りかかろう。
もしもの際は、森山用のたこ焼きの生地にはゲータレードで作ってやろう。
「……よし! まずは内村。左サイド抜けて水汲んできてくれ。八神、たこのワンサイドカット頼む。不破は……客の入りディレイだ」
「はい。ちょっくらインナーラップしてきます!」
「ん! ラジャー!」
「ん、んが!」
バ〇ル二世よろしく3つの僕に命令だ。
「先輩? そこのタッチラインに落ちてたゴミクリアーしときました」
「サンキュー越野。麻野に言って、お好み焼きとポリバレントな奴あるか確認しといて」
何気に結構、みんなの順応性が高い事に驚きだ。
ちなみにメンバー分けの方は、キックターゲットは司、氷高、森山といったビジュアル組がメインで対応している。
その引き立て役に西や桜井、平野など大勢がかり出されている。女子マネ組は望月と芝浦が担当というか……、望月に関しては監視といった所だろう。司に近づく女子のクリーン作戦が発動されるはずだ。
あと、八神もどちらかと言えば向こう側の外見だが『タコ焼き……』と俺のシャツを引っ張る姿を見てこっちに連れてきた。
子供か、お前は?
あとは流石に、たこ焼き・お好み焼き・ドリンク&接客とに班分けした。
『予算や道具・材料などの準備や手配を実行委員とあーだこーだするの俺がやった。
たこ焼き以外はお前らが責任もってやるか、やらないなら店を出させん!』と言った所、意外な事にみんな素直に従ってくれた。
特に麻野は率先してお好み焼き班を率いてくれたので大助かりでもある。
という訳で、我らがたこ焼きテントの受け持ちは8人。
前述の内村、越野、八神に不破、そして俺。
あと1年生FWの佐倉と同じく1年生女子マネの神津と紺野だ。
両方とも間違いなくアニメではいない扱いだったが、何かと最近は接点もある。
神津に関しては各試合のビデオ撮影を担当しており、映像部長などと敬意を込めて呼ばれている。
佐倉に関しても何度かグラウンドでの練習にも参加しているから顔とプレイは知っている。
左利きでちっちゃいタイプ。イメージ通りに上手くて早いストライカーだ。
個人的には森山より決めてるイメージすらあり、今後の主力になるのは間違いない。
それどころか、下手すると選手権ではポジション取ってしまう恐れすらある。
つまり、少なくとも一年生にして上位20人に入っていて、新人戦次第だが選手権のメンバー入りも充分狙える立ち位置だ。なんて恐ろしい子。
あとは、ジュース接客の方に20人からいるのはどうかとは思うんだけどなあ。
単に楽をしたい奴がただ溜まっただけだろうから別にどうでもいっか。
あまり見たことない奴も多いしな。
「先輩?」
「なんだ越野?」
「ポリバレントとユーティリティの違いってなんすか?」
「……」
「先輩?」
「あ、あれだ。プライオリティを考えたときにだな……。どこかのポジションがネガティブトラジションになると困るだろ? だから……、そのー、ファイナルサードでダイアゴナルランするとラ・マキナなんじゃないだろうか?」
「……」
「……」
「……なんかすいませんでした」
「ドンマイ。気にするな。切り替えて行こう!」
暫くの無言のあと『じゃ、じゃあ俺、麻野先輩のとこ行ってきます』と越野は走って行った。
うん、俺が悪い訳じゃ無い。強いて言うなら、このルールを決めた森山が悪い。
☆☆☆
直後、狸の置物と化していた不破が動き出す。
マーライオンの様にゆっくりと大口を開けながら、大気を切り裂いていく。
「まぁぁのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!」※
※MAN ON ……人が来たの意。この場合、客。試合中では『背負ったぞ』と後ろから敵が来るのを教えるのに使う。
やめろぉぉぉぉ! ラ・ムゥゥゥみたいに言うな!
ライ○ィーンか、お前は?
学校中のガラスが割れるだろうが!
突然のゴッドボイスに、周囲の人どころか遠くからも何事かと人がやって来る。
客では無い。むしろ、客はいなくなったが正しい。
……まさかのマップ兵器だ。どんだけ高性能な壁役なんだお前は。
「不破! 俺は準備出来るまでお客さん遅らせろ、って言ったの! ビックリしてみんないなくなっちゃったじゃん」
「ん、んが……」
大きい体を出来るだけ小さくして、上目遣いでショボくれるフランケン。
「ちょっと? 不破君いじめちゃだめでしょ?」
……。
えぇ!? 俺が悪いの?
つか不破をいじめるなんて、そんな命知らずな奴この世にいるわけないだろ?
ほら、見ろ! 反省するふりして、実は心の中で……、
あれ? 泣いてる? え? マジ?
そのガタイでどんだけメンタル絹ごしなんだよ?
「ほらぁ、怯えちゃってかわいそう。上手くいかないからって、八つ当たりは良くないと思いまーす」
紺野がふわふわ髪を揺らしながら、不破の背中を優しくさする。
「ん、んふ。んふふ」
……。
見なかったことにしよう。
まぁ、なんだ。イジメカッコワルイヨ。エーシーてやつだ。
☆☆☆
「あのー楠? 失敗した。ごめん」
ん? 今度はなんだ。
振り向くと、鉄板にこびり着いたダークマターを見て八神がオロオロしてる。
「あー!? 油薄いよ! なにやってんの!? もっと油敷かなきゃダメじゃん。普段、潤滑油みたいなプレーしてるくせに……」
つか、なぜ勝手に始める? お前、タコ切れって言ったじゃん?
まったく何なんだお前ら?
司がいないとこんなにポンコツなの?
楠のサッカー人生より、むしろお前らの社会人生活が心配だわ。
「先輩、準備出来たっす」
一人だけ優秀な奴がいた。普段目立たない内村だ。
「八神先輩がプレーエリア無視するんで、フォローしときました」
おお! 流石はダブルボランチ。
一人がポンコツするともう一人がカバーする相互補完システム。
……だったら、初めから八神いらねーじゃん。
キックターゲットに返品しようかな、コイツ。不破もセットだし。
結局、たこ焼きがスタンバイできたのは予定より大幅に遅れた頃だった。
何気にパックジュース喫茶が順調にベンチに客を誘導してたりして意外だった。
ま、一番意外だったのは八神と不破が戦力外だったことか……、
いや、よく考えれば別に意外でもねーな。
何かこっちに来て始めて高校生だと実感してる気がする。
『サッカーばっかり』というイメージがあったが、何だかんだで学生生活も満喫しているような……。
結局のところ、楽しまなければ損だろうし。
「たこ焼き屋、キックオォォフ!!」
そうして、恥を捨てた俺の一声が学校内に響き渡った。
たこ焼き回は無理やり入れたわけではないんです。
別に学祭でもたこ焼きでなくても良かったんですが、流れ的に一度学生生活的な事を入れたかったのと、やはりテーマのノスタルジーを考えたときに必要かな、と思いまして。
普段の生活、サッカーと全然関係ない部分での素のキャラクターを表現できる機会を作りたかったのです(言い訳)。




