39.5話 オラオラロードが開かれた ~シニョーリ燃えて嶺葉が凹む~
常に求めていることは瞬間的な100%。1本のヘディングでも昨日よりも1ミリでも高く。10本やるなら完璧な10本。うちの練習に見学に来て「他と変わらないですね」って言う人は気付いてないだけ。ただやるだけでは絶対上手くならない。練習でやりきらないと試合で頑張れないんだよ。『ベストを尽くした』じゃなくて『ベスト以上を出して勝てよ』と。
by 静〇学園 井〇監督
『もう一度国立で司君とサッカーがしたい』
本当にただそれだけの純粋な思い。
嶺葉という男は良くも悪くも勝負事というモノにそんなに執着は無い。
心許せる旧友たちと同じ場所で同じ時間を共有する事の方が何より大切だと思っている。
「サッカーをしていたから出会えたし、続けているからまた会える」
遠く離れる環境になってしまった今でも、子供の頃の思い出が彼の原点だ。
だから――、
鹿島南のあのメンバーはどうしても敵として見ることが出来ないのだ。
☆☆☆
「モットツヨク! ボール!」
片言の日本語で大げさなジェスチャーをして要求を繰り返す金髪のベビーフェイス。
デメトリオ・シニョーリだ。
いまいち何でコイツが静岡学院大学付属にいるのかが未だに理解できない。
Jrの大会で日本はイタリアに勝った。
ただ、それだけなのに。
悔しかったのは分かるが、
セリエの名門チームのプリマベーラを辞めてまで日本に来る意味が分からない。
多分というか、間違いなく高校サッカーよりトップリーグのプリマの方がレベルは高いはずだ。
そもそも、まだプロにもなってない自分たちはまだ通過点の途中にいる。
勝ち負けに強くこだわるのはそれからでもいいのではないか、と。
どうせプロになったら勝った、負けたで色々言われるんだから、それまでは純粋に楽しめればいいじゃないか?
最近では『パスの総合商社』なんてあだ名も雑誌につけられた。
クレーマーのようなシニョーリの要求にいちいち応えていたせいだ。
ホント勘弁してほしい。
何か『疑惑のデパート』みたいで、悪い政治家になったみたいじゃないか。
シニョーリはキザで女ったらしで、暇さえあれなナンパするようなどうしようもない奴だ。
でもサッカーは流石に上手い。
いちいち『カルチョダ!』と訂正してくるのはうんざりだが……。
もうひとつ。
例え練習試合でも負けると烈火のごとく怒るのは本気でウンザリする案件だ。
失点の理由やミスの原因を試合後に名指しで糾弾していく。
「オマエのせいで負けた!」
「カルチョをシラナスギル! アタマがヘタクソ!!」などなど。
彼曰く、日本人の『ドンマイ』の文化が気に入らないらしい。
「ナゼ簡単に許す? カルチョはそんなにアマクないぞ!?」
『ここにいる人たちは全員がプロ志望じゃない』と言っても、
「そんなのピッチではカンケーナイ! 勝つことが全て! オレは戦士だ!」と聞かない。
練習以外の時間ナンパばっかしてる奴に言われてもなあ……。
「オフの時間は何しててもイイダロ? 切り替えが大事なんだろニッポンジンは?」
なんて嫌みを言われる始末だ。
はあ、鹿島に帰りたい……。
☆☆☆
静岡学院大学付属、通称『静大付属』は静岡でもそこそこの名門だ。
最近ではあまり目立ってないから古豪と言った方が良いのかもしれない。
一昨年に何十年ぶりかの全国となりベスト16。
去年に至ってはあれよあれよと準決勝まで勝ち進んだ。
残念ながら司率いる鹿島南には負けてしまったが。
それでも、久しぶりの快進撃にOBや父兄は大熱狂したのだ。
「もう一度あの舞台で……」
全員の思いが一つになった瞬間だった。
それ以降、チームメイトとシニョーリが争うことも少なくなった。
むしろシニョーリがオフの時間でさえ、みんなに出来ない事を教えてあげたりと寄ってくることもあった。
チームが一つになったんだと思う。
――自分を除いて。
優勝したいみんなと、昔の仲間と国立でサッカーをしたいだけの自分。
誰に言われるまでもなく、腕のバンドをシニョーリに渡した。
自分にその資格はない、と感じたからだ。
複雑な表情をした後、シニョーリはそれを受け取った。
「国立までは預かっておく。司に勝ったら返す」
この頃には日本語は大分上達していた。
訳を聞いたら、
「ピロートークがベストのスタディさ」
助詞しか日本語がなかった……。
きっとルー〇柴を見て学んだんだろう。
☆☆☆
県大会予選。
レベルが高いと言われている静岡でも、危うい事なく決勝まで突き進むことが出来た。
相手は新設校で決勝に来れたのも驚かれてる相手だった。
ノーマークだったのと、勢いで来れたのだろうと思っていた。
結果、不運な面もあったが、負けた――。
もちろん油断なんてしたつもりもない。
多分、もう一回やったらとかじゃなくて――、普通に相手の方が上だと感じた。
上手い下手の問題じゃない。
単純な上手さならこっちに軍配が上がっていたはずなのに。
「もうみんなとサッカーできない……」
みんな?
チームメイトの事? それとも鹿島の仲間たち?
シニョーリは泣かなかった。
呆然とする俺とは対照的に、倒れているチームメイトに声を掛けて起こして回っている。
やっぱり俺よりキャプテンらしいや……。
「嶺葉……、すまない。国立で返すという約束果たせなかった」
そう言って左腕からバンドを外して、俺に差し出す。
謝ることじゃない……。
謝るべきじゃない……。
むしろ……、俺が謝るべきなんだ。
その時、初めてサッカーで泣いた。
負けて悔しかったのか、自分が情けなかったのか、どちらかはわからない。
多分、両方だろう。
でも、このままでは終われない。
チームメイト全員の思いは絶対王者鹿島南に勝って優勝する事だった。
漏れなく自分もそこに含まれていたであろうことは、自分の涙が証明した。
全国には行けない。
それはもうどうしようもないけど……。
せめて――、
「もしもし。静岡学院大学付属キャプテンの嶺葉と申しますが……。あ、はい。サッカー部に練習試合の申し込みをしたいと思って連絡させて頂きました。すいませんが川上監督に替わってもらえないでしょうか?」
<原作の世界>
この二校は全国準決勝で当たり、シニョーリと司の打ち合いの末、辛うじて鹿島南が勝つというストーリーでした。『プレーテ』※聖職者(⇒性食者)というニックネームで華麗なキャラ設定だったシニョーリと、昔の楽しい思い出を引き摺りながらも、試合中に今のチームメイトとの友情と信頼を再確認する嶺葉、という婦女子向けのストーリー展開でした。
あとシニョーリの左足にボコられる楠に対抗して、司がサニーライゼットを成功させるといった王道展開。ゴールしてピーッで試合終了パターン。
いつかこっちがある程度まとまったら、『太陽のストライカー』原作の設定を出せれば、と思ってます。まあ、ほとんどネタバレしてますけど。




