37話 二つのGK
そいつん家、火付けたろか思いました。
by浪速のイタリアーノ。
『静大付属が……、嶺葉が負けちまったよ!』
そんな衝撃的な報告を受けたのは、家に帰り家族に怪我の心配は無い事を伝えている最中だった。
受話器越しにも取り乱した西の様子が浮かんでくる。
焦りと悲しみを隠そうともしない西に、俺たちと嶺葉との関係性が理解できる。
『静岡大学付属 決勝にて敗退! 3年連続の全国を逃がす!』
その一報は馴染みの記者から監督に伝えられ、司を経由して俺たちへと伝わってきた。
「信じられねぇ。嶺葉にシニョーリまでいたんだぞ? いくらハイレベルな静岡だってありえねーだろ?」
『全国で会おう』とか『今度は負けないよ』的なやり取りも沢山あったんだろう。やり切れない西の感情が伝わってくる。
俺から見ても『シニョーリ君何やってんの? わざわざ日本まで来て……』というプギャーも出来ないような憐れみすら覚える。
少なくとも『今、どんな気持ち?』なんて、口が裂けても言えそうもない。
西の話によると、負けた相手はなんと新設校だったようだ。
ドイツから帰ってきた帰国子女の10番に中学から上がってきた有望株を揃えた1.2年生だけのチーム。
地元では『マジカルチーム』なんて言われているらしい。
それ? どこの久保さん? なんて思ったが、10番の名前は『周防』と言うらしい。残念。
詳しい事は分からないが、3-4での惜しい敗戦ではあったみたいだ。
嶺葉でさえ、司と離れるとこんな簡単に負けてしまうことの方に驚きを感じる。
俺個人では嶺葉と直接の面識はない。楠の記憶とアニメでの印象で言えば、嫌みのない名脇役といったところだろうか。
とはいえ『太陽のストライカー』において嶺葉は最重要人物の1人でもある。
まして人気投票上位のシニョーリまでいる。予選敗退なんてあるはずがない――、いや、あってはならないはずなのだ。
確かシニョーリが敵の時に、司のサニーライゼットも完成する流れだった気もするし。
……まただ。
ここに来てから定期的に訪れる感覚。
俺の知っているストーリーや人物と現実とのギャップ。
今までも怖い監督がいたり、かわいい後輩や頼れるトレーナーがいたりとモブに変化があった。
チームメイトも様々な個性が出ていて、アニメの品行方正なサッカー少年達とも齟齬が見られた。
それでも、言うなれば小さな変化だ。今の所は、結果や人生まで大きく変わる事は無かったと思う。
でも今回は違う。作者肝いりのキャラクターと人気投票上位の出番さえ失くされてしまったのだ。
絶対に作者や編集者が納得する流れではないはず。
これはもう、俺の知ってる『太陽のストライカー』ではない――。
嶺葉 友里の敗退は、俺にそう思わせるのに十分な事実であった。
☆☆☆
次の日。
サッカー部のみの振替休日を利用して、俺は洋二先生へ救急搬送後の報告に足を伸ばした。
ある程度は娘から聞いてるだろうけどね。
それでもやっぱり、自分の口からも言うべきだろうと思ったからだ。
「何ともなくて良かったね」
一通りの説明の後で心から安心した様子で話す洋二先生。
なんでも相手との接触で内臓破裂してしまったキーパーもいたらしい。
それが一瞬脳裏に浮かんでしまって、大事をとったと説明してくれた。
「それで……、そのキーパーはどうしたんですか?」
「どうって? しばらくは戦線離脱してたけど復帰したよ。今はめでたく日本代表だね」
いやどうも。多分あの人だな。『浪速のイタリアーノ』。
引退後、お笑い事務所に入ったとかで話題になった気がする。
そんな世間話が終わった後。
「そろそろ次のステップに進もうか?」
「次のステップですか? ネガティブゲートって一応この前で完結してたんじゃあ?」
「あのねぇ。プロでも飯が食っていける技術がそんな簡単にマスター出来る訳ないでしょ?」
うん。至極ごもっとも。
洋二先生によると、まだやっとゲートの設計図を理解し作るのに成功しただけらしかった。
次のステップとしては、門が出来たらそれを守る門番が必要でしょ? と笑みを浮かべる。
「なるほど。ゲートキーパーですね」
「……楠君、そういうの好きだよね?」
洋二先生はちょっとあきれた様子を見せる。
どうか妹が隣にいるときは言わないでいただきたい。
ちなみに洋二先生が出した宿題は次の二つだ。
・今までニアを開けさせた理由として二つの答えを持ってくること。
・俺のキーパーとしての処理能力の妨げになっている物を提示する事。
全国大会までに答えを出せれば満点だが、実際にはプロに行ってからのクリティカルパスにもなっているようであまり焦らなくてもいいらしい。
とはいえ嶺葉の件もある。
少しでも能力の底上げはしておきたい所だ。
「最初の一つ目は、選択肢を見せることで迷わせる駆け引きって事でいいんですよね?」
「うん。それは前にも話したからね。問題はもう一つの方だね」
とりあえずノーヒントっぽいな。
残りの1個と俺のプレーの妨げになっているモノか……。
そんなの思ったこともなかった。
……よし! わからん。
こういうのはウジウジ考えてもしょうがないしな。
洋二先生の事だ。なんかの切っ掛けでふと気付くように出来てるもんなんだろう。
その後、鹿島と清水の練習見学会の日程調整を行った。
約束通り同行してくれるみたいで一安心だ。
まずは近場の鹿島からで、少し開けて清水と言う流れだ。
今の所、順調には来ているとは思う。
それでも油断は禁物だ。
あくまで『俺は楠なんだ』と自戒を込める。本人聞いたら怒りそうだが……。
『ゴールキーパー』とネガティブゲートの『ゲートキーパー』。
この二つが合わさった時に多分、玖珂やクリシュナーダも俺の軍門に下るのだろう。
……下ってくれるといいな。
下ってくれないかな……。
下ってくれますように……。
覚悟や決意というより、願望だな、コレでは。
ちなみに他の県では大きな大番狂わせは起こらずに、順当な結果であることも分かった。
洋二先生グッジョブだね。
玖珂や松永の帝尚高校、虹野洸哉の名代安積永盛。
大阪光蔭の小岩に福岡いろはの高速SBコンビ速水と三好などなど。
おおよそJrの世代での馴染みの名前が列挙されていく。
まあ、詳しくはそのうち選手権ガイドブックとか発売されるだろうし。
そこで確認すればいいだろう。
よーし! 年末から始まる大イベントに向けて、いっちょ頑張りますか!
うん。まずは来週のたこ焼きからだな。
今更ですが、日工のGKのモデルはフロンターレにいったGKがモデルになっています。本人よりも奥さんの方が某アニメで有名な女流棋士であるため有名かもしれません。
本当はその辺りのネタも幾つかあったのですが、狭すぎるネタになってしまうことやGKと関係無いことも多いことから投稿の段階でボツにしました。また、一個上の世代には鈴木師匠もいたのですが最近TVで見ることも多いので、今回は見送りました。結構ネタ作ったんですが…、1試合に色々詰め込み過ぎな気もしたので、あえなく大×組。




