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おい!今度の行き先はサッカー漫画だってよ!?  作者: 赤星べお(※完全なPNにしました)
2章 スーペルゴレアドール!
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36話 こういう夢だからもう一度逢いたい

GKは絶対的な完璧主義者だ。4-3や4-2の勝利は何も与えてくれない。僕らのポジションはミスが許されない。ミスキック1つでも自分が許せなくなる。負ける要素を出してしまったら、勝ったとしても、それは相手のおかげで凌げただけ。自分の力で無いと判断する。だからGKは絶対に満足しない。


 by ディ○・ハーフナー


 案の定、先に学校に着いたのは俺たちだった。

 教職員も皆、応援の方に回ったのだろうか。

 学校に人影は少なく、何となく廃校のような寂しさを感じる。


 駐車場で待つという部長達を置いて、俺は一人グラウンドへと向かう。

 ユニフォームの上にジャージを羽織っただけの姿。

 ゆっくりとゴールポストの脇へと向かう。

 いつか、俺がここで目を覚ました場所。


「そういえば結構経つよな、あれから……」


 司にボールをぶつけられて昇天した楠。

 そうして、ここで入れ替わるように成り済ました俺。

 何となくだけど、何とかここまでやってこれた。


 ある意味楠の素材に感謝だ。

 ぶっ壊れ性能と言うほどではないが、努力した分は正直に跳ね返ってくるポテンシャル。

 それだって、以前の俺から見たら雲泥の差があるかもしれない。

 

 毎日のように司に特訓されて。

 鬼のような監督にやはり鬼のような要求されて。

 心許せる仲間が沢山いて、辛くても充実した毎日を送れて。

 可愛い後輩マネージャーや安心できる家族がいて。

 それに理解してくれる指導者や先駆者もいて。


「恵まれすぎてる環境だよな、きっと」


 誰に言う訳でもなく言葉が零れる。


 もしも今の俺が、以前の俺の様に立ち止まってしまったら――。

 きっとこの人たちは全力で俺を助けてくれようとするのだろう。


 ありがたい反面、途轍もない申し訳なさも溢れ出す。


 ……だって、俺は楠ではないから。


 その事実を知った時、みんなはどうなるんだろうか?

 本物の楠を探しに行って、俺の事なんて忘れてしまうんだろうか?


「カプグラ症候群の自己投影版かな?」

 

 洋二先生ならそう言うだろう。


「壁だね」


 何気にボキャブラリーが貧相な司は、そう言って笑うだろう。


「ごじゃっぺ言ってんじゃねーよ!」


 西はよく分からない日本語を言うだろう。


 怖い。


 やっと手に入った居心地の良い場所。

 以前の俺がどれだけ欲しても手に入らなかった物。そんな物が当たり前の様に満ち足りている場所。

 失いたくない。


 いつぐらいだろう。

 ここで生きていきたいと強く思い始めたのは。


 勿論、楠には悪いとは心から思う。

 こんな素晴らしい生き場所を奪ってしまった事に。

 でも……、今更返すことなんて出来ない。

 

『だから』という訳では無いが、見ていて欲しい。

 俺、頑張るから。お前以上の楠になってみせるから――。

 もし、なれなかった時は……、

 そうだな。うん。諦めてくれ。悪いが、そういうもんだったんだ、って。


「もともとはお前だしな? しょうがないよな?」


 額をゴールポストにつける。ひんやりとした感触と白い塗料が剥げた箇所のザラザラ感が伝わってくる。


「さあ、全国だ。やるだけやってやるよ!」


 俺は小さく――。でも楠に届くように小さく祈りを込めて呟いた。


☆☆☆


 狭い校門の前に見慣れたバスが止まる。

 鹿島南高校サッカー部ご一同様のご到着だ。


 ぞろぞろと降りてくるメンバー達の足取りが重いようにも見える。

 試合の疲れとはしゃぎ過ぎたせいだろうか。


 叶う叶わない別にして、

 ずっと同じ夢を見続けるって事は、それだけでも大変なことだ。


 少しだけ近づけた事に胸を張ればいい。

 夢半ばで倒れた奴はいっぱいいる。兵どもが夢の跡ってやつだ。

 俺たちもいつかは消えるし、いつかは抜かれる。


 だから、今は讃えよう。みんなを。仲間を。


 俺の姿を見つけたチームメイトが小走りでグラウンドへやってくる。


 思い思いの言葉や笑顔で、一生懸命に伝えようとしてくれている。

 俺は俺で、別に何の異常もない事を報告する。


 お互いに喜びと安堵を共有するなか――、

 少しだけ距離を置き居心地の悪そうな二人。


 不破と桜井だ。


「ん~~……」


 言葉を絞りだせない不破。いや、コイツはいつもこんな感じだったか。

 極めて明るい雰囲気を出して話しかける。


「あの後、赤喰らったんだってな? 次は二回戦からだな。また、よろしく頼むぜ?」

 

 一瞬だけ目を大きく見開いた後、思いっきり抱き着いてくる不破。

 抱き着くというかベアハッグみたいな感じだ。ミシミシと背骨が悲鳴を上げだす。


「く、苦しい……。分かったから降ろしてくれ……。死ぬ、死んでしまう……」


 あとは桜井だな。

 

「失点の理由は聞いた。気にするなとは言わない。大いに気にしろ!」


 桜井に俺がそう言ったときに少し周囲におかしな空気が流れる。

 フィールドには分からない世界もあるんだよ。


 キーパーは完璧主義者だから――


「自分のミスで失点したら、例え勝っても心から喜べないよな?

 納得するまで考えて、後悔して自分を責めろよ。

 んで、それが終わったら、また楽しくサッカーしようぜ?」


 キョトンとした顔で俺を見つめる桜井。


 しばらくは悔しくて眠れないかもしれないけど、こればっかりはしょうがない。

 寝る前、目を閉じた後に訪れる失点シーンのフラッシュバック。

 あの時こうすればとか良かったとか、ああすればとか何とかなったんじゃないか、とか……。


 それを自分の中で答えが出せて、始めて自分を許せる。


「メンドクセー男がやる場所だよな、キーパーって?」


 苦笑いを浮かべる俺を見て、苦虫を噛みつぶしたような顔で頷く桜井。

 

「サンキュ。アップもなしで悪かったな」


 そう言って肩を抱く。


「お、俺の方こそ……。三点も取られて……。負けたらどうしようとか、俺のせいで全部ダメになったらとか考えたら、みんなに合わせる顔が無くて――」


「でも、勝ったろ!」


 ここで司が割って入る。

 うん。ここからはキャプテンに任せよう。


「俺たちは勝った。例え負けても誰かのせいなんかじゃない。ここにいるのは一蓮托生だろ? 誰か一人じゃなくチームの戦いだ。戦術やフィールド、ベンチワーク全ての要素が合わさっての結果だ。桜井一人が責任を負う訳じゃない」


「あ、ああ」


「大体よー、こんだけいりゃあ良かった奴も悪かった奴もいんだから? 一人で結果を変えられるなんてのは思い上がりだぜ?」


 お? いい事言った西。


「そうだな。イ〇リーの言う通りだ。キーパーだって所詮は十一分の一なんだから。割り切ってこうぜ?」


「ちょい待てって。何かいい話にまとめてるけど、イ〇リーってなんだよ、イジ〇ーって!」


 他のチームメイトがある部分に引っかかって俺と西を交互に見ている。


 すまん西。今日は桜井と不破の為に泥を被ってくれ。ひと際粘着性のあるヤツで申し訳ないが。


 説明までは西の名誉のために話さなかったが、西はめでたく今日から〇ジリーをもじって『ニジリー』と呼ばれることになった。


 すまんなニジリー。ロシア人っぽくてカッコいいと思うぞ。

  

 バカ騒ぎを始めるみんなを見て、改めて感じる。 

 今度の優勝こそはピッチで喜びたいわな、やっぱ。

 優勝も大事だけど、同じ時間と感動を共有できる仲間と栄光を手にする。

 そんなベタなサクセスストーリーをそのままなぞるのも決して悪いモンではないだろう。


 一人恨めしそうな西の視線を感じながら、こうして俺への勝利報告会は幕を閉じた。


僕がキーパーを好きになったのはディドと松永さんの代表師弟コンビでした。

当時オランダ国籍だったにも関わらず、キーパーグローブを付けてベンチで応援する彼とピッチで体を張って守り抜く松永さん。

ファンブロイケレンが怪我したとき、オランダ代表候補にまで名前が挙がった彼が遠い日本で代表のために戦ってくれていた。そして日本を愛し帰化してくれた。彼がJSL時代から日本にキーパーというモノを輸入してくれた功労者だと思っています。

またいつか、八咫烏の舞台で彼の姿を見られる日が来ることを願っています。

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