33話 もっと知っていたい気持ちの置き場所 (芝浦舞・後編)
『理想のサッカーはある。でも、そのために負けていいと言うほどロマンチストじゃない』
by岡田○史
――あっさりとPKが決まって3-2に状況が変わった。
しかも不破先輩の退場でこっちは10人。FWの沢入先輩がアウトして麻野先輩がCBに入るスクランブル。
これで交代枠は2つともアクシデントで使ってしまった。
延長になれば1人交代出来るけど、1人少なくなってしまった以上は80分で逃げ切らないとマズい気がする。
失点の理由は、高めのディフェンスラインの裏を突かれた事。
普段慣れてない桜井先輩の飛び出しが遅れてしまい、かわされた後に無人のゴールに――、
というところで、不破先輩がエリア内のバックチャージで一発退場といった流れだ。
仕方が無いとは思う。不破先輩は悪くない。
むしろあの状況で他に選択肢なんて無かっただろうし。
「4-4-1! 麻野と西が真ん中! 和泉は元の位置。前は森山一人で!!」
テクニカルエリアギリギリで叫ぶ望月先輩と満足そうに頷いている監督。
……もう望月先輩が監督でいいんじゃないかな?
近くで救急車のサイレンが鳴る。
もしかしなくても先輩だとわかった。急がなくちゃ!
☆☆☆
ホーム側の応援席に駆けていく。
父兄が集まっている席を見回すと、複雑な表情で試合を眺めてる瑞希さんをあっさり発見できた。その隣に座る夫婦っぽい人がご両親だろうか?
モデルみたいな顔立ちの為、何気に超目立つ。本人には自覚ないだろうけど……。
綺麗は罪だわ。そして羨ましい!
「あら? 舞ちゃんどうしたの?」
私に気付いた瑞希さんが声を掛けてくれた。そして隣のご夫婦はやっぱり先輩のご両親だった。
「あの……、楠先輩なんですが今、鹿島総合病院に検査に向かって――。それでご家族の方にお伝えしようと思い――」
他の人には聞こえないように注意しながら瑞希さんに説明する。
『病院』という単語に一瞬だけ瑞希さんの表情が曇る。
「大丈夫なの? アレ?」
多分……、としか言えない。
つか、先輩って誰にでも『アレ』扱いされてる事が地味に不憫だ。
そのまま瑞希さんがご両親にも説明をしてくれている。
ハッとした後にやたらと丁寧な挨拶をされて、少し苦笑い。
一体どんな紹介をしたの? 瑞希さん!
「私が行くわ。お父さん保険証持ってる? 悪いけど帰りタクシーとかでもいい?」
「いや、でも全員で行った方がよくないか?」
「お父さん達は要の大切な仲間達の戦うところを見ていてあげて! 子供の頃から知ってる子も多いでしょ? それに、あとで要に『みんな頑張ってたよ』って言えないと困るだろうし。大丈夫。全部病院の先生の言う通りにしてくるから」
心配そうなご両親に瑞希さんが子供のような笑顔を見せて言う。
「きっと大したことないって? いつもの事だし。何気にうちの長男頑丈だから? ね? 舞ちゃん?」
……ここで急に振られても困るんですけど。でも、まあ……、それは同意します。
『舞ちゃんも行くんでしょ? 一緒に行こ?』と、瑞希さんは有無を言わさない感じで私の手を引いて歩き出した。
『ワアァァァァァ!!』
!? 歓声が響き、ピッチの方に目が行く。心臓に悪すぎる。
鹿島側のゴールを見て何も起きてないことに安堵する。
ん? じゃあ?
「今の君晴君でしょ? 決めたの! あの髪の長い!」
先輩のお母さんが拍手をしながら喜んでる。森山先輩、今大会の初仕事が大きすぎる。
「いや、その前の司君が凄かったよ! いやー、皇さんとこの息子は相変わらず凄いなー」
「……とりあえず流れも食い止めたっぽいわね? じゃ、舞ちゃん行こっか?
「はい!」
駐車場に着く前に、もう一度大きな歓声が沸き起こる。
胸が締め付けられそうな不安――。
でも、それを確かめる事はもう私たちには出来なくなっていた。
☆☆☆
再び1点を失い再度1点差の痺れる展開になっていたことを知ったのは、道中の車の中だった。
ラジオの解説者が興奮気味に捲し立てている内容に少しイラッとする。
『後半も残り15分……。おそらくロスタイムも含めると20分といったところでしょうか? 追い掛ける日立工商と突き放す王者鹿島南の苛烈なデッドヒートが続いています! 得点は4ー3。果たしてこのまま鹿島南が逃げ切れるのか?』
「……逃げ切るに決まってるじゃない。ねぇ?」
瑞希さんは笑顔を崩さない。勿論、私もそうであって欲しいとは思うけど……。
「やれば出来る子よ? 森山君は」
……まさかの森山先輩押しだった。そこ、今ちょっとウチのウィークポイントなんですが?
――『話は変わるけど』と、瑞希さんが少し真面目な顔になる。
「うちの親ってさ、ある意味過保護なんだわ。特に要のことになると、ね。まあ、アイツのこったから大丈夫だとは思うんだけどさ。もしも要が大きな怪我……。例えば『開放骨折とかしてて切断の可能性とかある』とか言われたら冗談抜きでうちの両親、心臓止まんじゃないかって……」
「だから、ちょっと無理矢理な感じで置いてきたんですね」
「うん。医者に直接言われるより私がいったん間に入った方が、まだショックは少ないだろうし。悪かったね、嫌な役に巻き込んじゃって。でも、これは楠家の問題だからあんま気にしないでね」
「いえ。お姉さんが家族をとっても大切に思ってることが分かって、少し羨ましく思いますよ? 先輩、いいお姉さん持ったなって」
「ははは。私と違って甘やかされてた長男には、昔ちょっとムカついてたけどね」
瑞希さんはそう言って、少し照れくさそうに笑う。
『ゴォォォォル!! 鹿島南追加点! 三年生FW森山、今度は左足ダイレクトで決めた!!』
突然ボリュームを上げたラジオの実況に瑞希さんは満足げに頷くと、
「ね? やれば出来る子って言ったでしょ?」
な、何が起きてるの? あの……森山先輩が?
『おや? 何か森山、控え室の方に向かって叫んでますね? 途中退場した選手達になにか訴えてるんでしょうか? あ? マネージャーに蹴られています! 今、お尻に一発入りましたねー。』
『なんか変なことでも言ったんですかね? でも言いたい事は、きっと『全国に連れて行くぞ』って事だと思いますよ。楠君と不破君に対してエールの様なモノを送ったんだと思います』
……だから、一体何が起きてんのよ?
選手を足蹴にするマネージャーって――、望月先輩しかいないじゃない!
「変わってないわねー、あの子ら。昔っからそうなのよ。真面目な司君と熱血の松永君。調整役の西君にマイペースな八神君。無口な不破君に明るく元気な友里君。ふざけ過ぎて香菜絵ちゃんに怒られる森山君。そして、そんな仲間に引っ張ってもらって付いて行く要。ホント、羨ましいわ。勿体ないくらい友人に恵まれすぎてて」
ああ、そうか。この人達は私の知らない先輩を沢山知ってるんだ。私が初めて先輩を見た時には、もうみんな、ずっと『仲間』だったんだよね……。
うん。確かに羨ましいかも。そういう仲間がいることも勿論だけど、仲間であったことも羨ましい。
でも、それだけじゃなくて――。
どうしてだろう。言葉では説明できないけど不安や寂しさの様なモノが纏わり付く嫌な感覚……。
「でも、紅一点の香菜絵ちゃんは司君一筋でしょ? そこが揉めるとヤバかったかもね? 横やり入れたり、三角関係とかあったら、一瞬でそういうのって崩壊するじゃん」
瑞希さんは変わらずに話し続けてくれる。
……正直助かったかも。今は何だか悪い方にイメージが行ってしまうような気がする。
まあ、でもあの望月先輩に限って言えば『絶対に無い!』と言い切れる自信はある……かな。それに、あの2人の中に割り込めるスペースなんて全く無いのは、ちょっと一緒にいただけで分かりそうなものだし。
「その点、舞ちゃんなら心配ないもんね? いやー、要もいい物件見つけてきたわ」
「え? いや……、あのー?」
『止まらない!! 森山3点目! ハットトリックです。信じられない! 10人になった鹿島南が一方的に日立工商を仕留めにかかる。これが王者! いや、絶対王者の実力なのか!?』
……さっきまで逃げ切れるのか? なんて言ってたくせに。
つか、森山先輩どうしちゃったの?
『流石に出来過ぎね、彼……』
苦笑いを浮かべた瑞希さんと呆然とする私。
気付けば病院の入り口はもう目の前に迫っていた。
交代枠がうろ覚えです。2つ⇒2つ+キーパー⇒2つ+延長1つ⇒3つに変化してきたような記憶があります。時期的に3つになる前辺りなので延長バージョンで設定しました。ま、設定はある程度、ご都合主義になっちゃう所はご容赦下さい。




