26話 進むべき路へ
鹿島の都築さんが訪れたのは、ホントに近いうちの放課後だった。
清水の連絡先を貰ったその日、県予選が終わったら見に行きたい、と伝えた。
その2日後になる今日。
件の校長室で俺と監督、校長を交えての面談が開始される。
『ガリーニョが連れてこいって怖いんだよ』と、名刺を出しながら苦笑いを浮かべる初対面のおっさん。
名刺には『強化部長 都築 稔』の文字と鹿のエンブレムが入っている。さすがに偽物ではないだろうけど、まだちょっと半信半疑だ。
しかも『連れてこい』ってなんか怖いんだけど? だってあのラスボスでしょ?
知らない人はモグリ確定の世界的有名人じゃん。そんな人が俺に一体何の用なんだよ。
流石に『パン買ってこい』とかは言わないだろうけど。
「どうかな? 一回来てくれないだろうか? とりあえず鹿島町民として僕たちのクラブを見て欲しいんだ」
まずは地元アピール。
最初の掴みはやはりそこから来たか。ここに住んでる全ての人のクラブ。つまり『もうすでに俺も一員なんだよ』という肌触りの良い言葉を選んできている。
とはいえ、百戦錬磨のスカウトさんに話を合わせすぎるとまずいので、適当に話題を逸らす。
じゃないと、校長が先走っちゃいそうだからな。
「現役セレソンのリオナードはどんな感じで呼んだんですか?」
「ガリーニョが来いって言っただけだよ。ちなみに来年から、もう一人現役セレソン呼び出しかけたからウチに来れば一緒にプレー出来るよ。誰が来るかは近いうちにアナウンスされるから、それまでは秘密だけど」
ヤンキーか? 世界規模で呼び出しかけるってどんな番長だよ。世界番長とでも言えばいいのか……。
つか、言葉の隅々に甘い言葉ちりばめやがって……。くっ、すぐには決めんぞ?
「と、とりあえず見学から行かせて貰えれば……」
「そうだね。まずはガリーニョとお友達から始めてみようか?」
……多分、顔なじみからって言いたいんだろうけど、その言い方はどうかと思う。
なんか『禁断』の言葉だけでは済まされない世界をいっぱい含んでいるみたいじゃん。年齢の差とか同性とか国際とか……、いやどう見ても真ん中がヤバイ!
ま、まさか!? そういう意味で連れてこいとかじゃねーよな?
そ、そう言えば、サッカーの王様が『初体験は男性でした』みたいな誰得なカミングアウトしてなかったっけ? え? まさかそういうお国柄なの? いやいやいやいや、ムリムリムリムリ……。
うん。やっぱり断ろう。楠の貞操の為に!
「お前、何か変な事考えてねーか?」
「な、何を? へ、へへへ変な事とは一体?」
「……滅茶苦茶動揺してるじゃねーか。何考えてたんだお前? 言ってみろ!」
ヤベ。川上監督に見つかってしまった。
う、うぅ。言ったら多分怒るじゃん。つか都築さんが悪いんだって。変な言い方するから……。
「こういう大事なお話は学生も不安になるのはしょうがないからね。さ、楠君? 君がウチに遊びに来るのに不安になってる事って何だろう? クラブに関わる者としても是非聞いてみたいんだけど?」
「さ、楠君! それをクリアすれば鹿島に行けるんだね? 校長として鼻が高いよ、うん」
遊びにとかって更に敷居を下げてきたし。つか、校長……。
うわぁ。……よし! もう逃げられないか。
聞いてやろうじゃねーか。怒られたって構うものか!
「あのー? ガリーニョって男が好き……なんですか?」
「「「はぁ!?」」」
おっ? 綺麗にハモッた。
「い、いや、だって。都築さんが……。だからそういう感じなら行かない方がいいかなぁ……って」
「なぁぁに言ってんだあ!オメーはぁぁぁ!!」
川上監督の怒号が飛び、俯いて怯える俺。
そして訪れる沈黙……。
「わ、私の言い方が悪かっただけですから! 楠君を誤解させてしまったのは私が悪いんです!」
「いや、でも。しかし……」
「いやいや、多感な青年に変な言い回しをしてしまった事を返ってお詫びします。
そして、いい機会ですので、改めて正式に楠君に伝えたいと思います。
わが鹿島ワンダーズは戦力として君を欲している。将来の守護神候補として君を迎えに来た。
今後10年、いや15年ゴールマウスを任せられる者としてガリーニョが君を指名した。
だから私は君に会いに来た。それが理由です」
真っ向から真剣な目を見据えてくる都築さん。
さっきまでの物腰の柔らかそうなイメージはもうない。これがきっと本来の姿なのだろう。
「あ、ありがとうございます。
まさかあのガリーニョにそこまで評価されているとは思ってもなかったので……。変な想像をしてしまったことを最初に謝らせて下さい。勿論、今も自分では分からないんですが……。
とりあえず前向きに練習の見学と参加をさせて頂きたいと思います」
「うんうん。それでいい」
俺が頭を下げると、川上監督が上機嫌に頷く。
「大体よう、ガリーニョともあろう者がなんでお前なんかのケツ欲しがんだよ! 金も名誉も持ってるのにわざわざ田舎の高校生ちょっかい出すわけねーだろ? それに見た目からしてウチの部員だったら、まず最初はお前じゃねーだろ?」
「か、川上君? 生徒に向かってそういう特殊な趣向については……」
いや、それよりだいぶひどい事、後ろの方で言ってるからね、校長。
言われなくても分かってる事だけどさー? なんか腹立つ。
絶対反省してない顔で形ばかりの謝罪をする川上監督。
そのまま都築さんの方を向いてニィって笑顔を見せる。
「良かったなぁ稔。これでガリーニョにどやされなくて済んで。ありゃあ短気だからな。連れてこいって言われて、ダメだったらエライ事だろ?」
「ちょっと先輩止めてくださいよ? 僕、今日は強化部長の肩書で来てるんですから」
ありゃ? この二人知り合いだったの? あ、そういえば監督、プロ化の前に鹿島にいたんだっけ。
「アレ? 口答え? お前いつからそんな偉くなったの? ふーん、あの稔がなぁ……」
「ほ、ほら、昔話は後にしましょう。楠君もいることですし。日程の調整は監督の方とお話してから、幾つか候補の日をお伝えします。その中で来れそうな日を教えてください」
「あ、ちゃんと名刺持ってけよ。あと俺はここで稔強化部長様とお話ししてっから、練習行っていいぞ」
立ち上がり強化部長の肩をバンバンとたたく川上監督。
この人、ホント怖いものなしだよな。校長の前でも後輩とはいえクラブの人でも……。
『お先に失礼します』と頭を下げ校長室から出ようとしたときに、監督に呼び止められる。
「あのな? ガリーニョって超女好きだから心配すんな! この辺遊ぶとこ無くて、コイツが神栖まで何回も連れてってんだから間違いない。
……だから、な? 一人の選手としてちゃんと考えろよ!」
「――ありがとうございます」
校長室の向こうでは、『そういう事言うの、ホント無しですからー』と都築強化部長の泣きが入っているのが漏れ伝わってくる。
そういや、俺に対して幾つかの話がプロから来始めているって事は、他のみんなにも来ててもおかしくないってことだよな。
当たり前だけど、今のメンバーでサッカーできるのは今度で最後になる。全員集合を考えたら、もしかしなくても一生で最期になるのだろう。
ヨーロッパに行く者、プロになる者、進学する者、就職する者……。
みんながそれぞれの道へと強制的に分けられる未来が目の前に来ている。
ふといつかの失敗を思い出す。
「もう、あんな思いしたくないよな」
誰に言う訳でもなく自然に零れだした言葉を噛みしめながら、俺は部室へと向かった。
登場人物はフィクションです!! 絶対に。
やっと卒業後の流れのあらましが終わりそうで一安心。
この辺の絡みはあまり広がらないから、早く次行きたかった……。
最初の頃と見比べると、結構文体が変わってるような気がします。なにぶん初めての試みなので、その辺は温かい目で見て貰えるとありがたいです。
歴史やスポーツモノしか読んでこなかった弊害ですね。他の方と見比べると、……もう、ね。
早く自分なりのスタイルが良い感じで出来上がるといいんでしょうけど、まだまだ試行錯誤の最中です。
それでもここまで読んでくれた方に、改めての感謝を。そして、何卒今後ともよろしくお願いします。




