24話 二種類のボールの行方
俺たちの県予選開幕は11月最初の水曜日に決まった。
そこで勝てばその週の日曜日に準々決勝が行われる。勝つごとに次の日曜日に準決勝、決勝とスケジューリングされていく事が川上監督から伝えられる。
目の前へと迫ってきた最終大会を前に、皆のモチベーションも上がってくる。
昨日、たこ焼きでハットトリックを決めると意気込んでいたあの森山ですら凜々しく見えるほどだ。
実際問題として、県大会で注意が必要なのは日立工商のみと言っていい。
一年から名門『日工』のゴールマウスを守る関東ユースの吉永進太を中心としたバランスの良いチームだ。
とはいえ、単純な総合力の比較で言えば10回やれば少なくとも7回以上は勝てると思われる位の差はある。
しかしながら、大番狂わせというモノは往々にしてそういう時こそ訪れる。油断、慢心は絶対にしてはいけない。
当然、スカウティングの方もバッチリの予定だ。
川上監督か名前だけの部長辺りがビデオ撮影したライバル校の試合映像をFBI並に優秀な鹿南女子マネージャー達が分析を行う。
ストップウォッチやカウンターなどの道具を駆使してプレイエリアのパーセンテージやメインの選手のプレイスタイルなどの洗い出しを行いプレーを数値化していく。
もう、この段階で、もしかしなくても俺たちプレイヤー側よりデータや戦術的などの理論に関してはサッカーに詳しいのは言うまでもない。
定規や分度器などの『お道具箱』レベルの文房具で、パスの距離精度や視野角度の分析する女子高生って怖すぎるだろ。まるで測量士のようなお手並みはもはやマネージャーの域を超越している。
こういう時『司君のために』と目の色が変わる望月の存在はかなり有り難い。
チームが勝てない場合、原因は司以外の者に責任があると本気で思っている所だけはたちが悪いが、
『司君の足を引っ張らないように』と渡されるデータは結構役に立っているのも事実だ。
ちなみに俺が望月に存在を認識される数少ない瞬間でもある。あとは足を引っ張った瞬間だろうな……。
ともかく、部に関わる全ての者が『3連覇』という1つの大きな目標のために動き始めようとしている。
ひとりひとり、ひとつひとつは小さいかもしれない。
でもそれが、やがては大きなうねりのようになって俺たちの願いをきっと叶えてくれるはず。
多分みんながそう信じていて、それを疑う者はきっとここにはいないと思う。
試合に出れないみんなは俺たちを信じてくれて、俺たちは司を信じてる。
結局の所、最終的には司を信じてれば大丈夫と言う答えに帰結してしまうのはご愛敬だが……。
あと『別に俺たち経由しなくても良いいんじゃね?』とか余計なことは気付かないふりをするのもジェントルマンのスポーツたる由縁でもある、きっと。
まぁ、聖地『鹿島神宮』並みにご利益あるからな、アイツは。無理やり勝ちを分捕ってくるだけ効果も見えやすいし。あとでポカリでもお供えしてやるとしよう。
そんな他人任せな感じの俺だが、俺にだって課題は沢山あるし伸びしろはあると信じたい。
まずは未だ形にできない『ネガティブゲート』だ。
理論は洋二先生から講釈を受けた楓から丁寧に解説されたからとりあえずは理解した。
だがそれを実戦中に意識して相手を嵌めるまでは高難易度過ぎて習得にまでは至っていない。
しかも効果が見えづらいため、成果も分かりづらいし周りもほとんど認識出来ない。
華やかな予想と大きく異なり、全くもって地味極まりない。どこいった俺のエフェクト?
そしてもう一つの課題として――。
綺麗なたこ焼きの習得だ。リビングでそれを練習しながら、なかなか上手くいかない本命の方を考えてみた、というのが今回の前半部分だ。
目の前には穴の開いたプレートの中で半円を描いた焼き物が香ばしい匂いを立てている。
タコは入ってないから何て呼べばいいか分からないが……。
先日発見したたこ焼きプレート一面に生地を入れ、適当にひっくり返していく。生地が少なかったり多かったりすると、いまいち不細工な円になってしまい、加減が難しい。
的にされるぐらいならたこ焼き班の方がいいや、と軽い気持ちで選んだつもりだったんだが『丸いものを手で扱うのにキーパー以上の存在はいない』とよく分からない理屈でたこ焼き班長にされてしまったのだ。
代わりに桜井は連れていかれてしまったのだが、そこは俺のリザーブとしての働きを大いに期待したい。
とりあえず、班長=焼き担当らしい。上手く押し付けられた気もしないでもないが、やるからには完璧に近づけたいと思うのが人間だ。
部活帰りに近所のスーパー『セルミヤ』でたこ焼きの生地だけ買っての練習。
ある程度やってると、それなりにコツをつかんでくる。代用のアイスピックを回しながら、綺麗に焼けたのを見るとちょっとだけ嬉しい。
何でもそうだが、目に見える成果ってやりがいあるよな。
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一通り焼いた後、片付けをしているとバイトから帰ってきた姉・瑞希の声が聞こえてくる。
「ただいまー。疲れたし、お腹すいたぁ。お母さん、何かない?」とのたまう姉はリビングに来るなり、
「おーおー。やるじゃん、かなめー」と笑顔で俺の試作品を口に入れる。
モグモグ3回。……幸せそうな表情はあっという間に消え去り、
モグモグ2回追加。……一度首を傾げた後に、
咀嚼。一気に無表情に変化する姉。ホント見ていて飽きない人だな。
「……。なんで中に何も入ってないの?」
「タコ思ったより高ーんだよ。つか、今日は形の練習だから中身はいらないの!」
「言ってよ! 買ってくるよタコくらい。せっかくのたこ焼きが……。お姉ちゃん悲しいよ。これじゃただの粉焼きじゃん。歯ごたえ、まるでナッシングじゃん?」
「……じゃあ、タコ買ってきて? あと粉の追加と紅ショウガと青のり。専用のソースもあるともっと嬉しい。まだセルミヤ開いてるし」
「……今から? リアリー?」
「だって『言え』っていったじゃん?」
「いや、言ったけど……。じゃ、買ってきたら要作ってくれるの?」
「嫌だよ。もう片付けちゃったし。今度作ってやるよ」
「じゃあ別に今じゃなくていいじゃん!! いいよ、それで! 食べるからチョーだい! ネギとポン酢で食べるからいいですよーだ!」
「なんで不貞腐れてんだよ? 別に食わせるために作ったんじゃねーんだからしょうがないだろ。ちゃんとしたの後で作ってやるから、ってたこ焼きぐらい自分でも出来るだろ?」
「こうゆうのは人に作って貰うからいいのよ。もういいからホラ、要もこれで食べてみ?」
大量の刻みネギを大急ぎで準備してきた姉とポン酢をかけての試作品の試食会が開催される。
(あれ? 結構いけるかも?)
俺の予想外という表情に満足したのかやたら満足げに頷いている。以降、無言でたこ(なし)焼きを食い続ける俺と姉のシーンが今日も続くのだが、
途中『喉乾いた。あ、お姉ちゃんお帰り』と二階から降りてきた楓は俺たちを見て、
「それやめてくんない? なんかの儀式みたいで怖いから」
そう言って麦茶を飲んで去っていく楓。
何も言わず、ただ一度だけ姉と目が合う。
が、また無言でたこ(なし)焼きへとお互い手を伸ばす。
結局、その後も一言も交わされないまま試食会は終焉を迎えた。
※2章の『起』の部分です。しばらく盛り上がりに欠けてしまいゴメンナサイ。




