22話以上23話未満(完) 季節は移ろい過ぎて ~寂しさは癒やされるがままに~
思った以上に小さい境内と所狭しに並ぶ屋台。
すぐ近くに超が付く有名神社があるからだろうか。近隣の神社はちょっとだけ遠慮してんのかな、とか邪推してしまう。
他にも有名なパワースポットもあるが、ここは祀る神様も違けりゃ規模も全く違う。なんというか素朴な地元の神社といった感じだ。
とはいえ田舎では数少ないイベントだ。それなりの人混みと活気で溢れている。
こういうのって子供の頃に親に連れられて行った記憶しかないよな。
フラッと目に入る『綿あめ500円』。
これって、この時代では安い方なんだろうか? 俺の知ってる時代では1000円とかありえない金額だったからな。砂糖菓子のくせに。
「兄貴! 焼きそば売ってる!」
屋台の美味しそうな匂いに当てられた楓がはしゃぎ出す。
はっはっは。こういう時に物で釣って妹を飼いならしておくのも悪くないな。
ちょっと夏目さんが少なくなるのが寂しいが、ご機嫌を買えるいい機会かもしれない。
課金だ、課金。リアル妹ガチャだと思えば、SRの『超ご機嫌』を引き当てれば安上がりだ。
「兄貴! 広島焼き!」
「兄貴! 林檎飴あった!」
うんうん。まぁ、ちょっとぐらいは、な。俺としては人生初の妹とお出かけイベントだしな……。
「射的あるよ!」「綿あめ食べたい!」「いか焼きみっけ!」「サッパリしたの欲しい!あ、かき氷!」
はっはっは……。このような出店の出費の1つや2つ、3つ、4つ、5つ、6つ……。
……うぉい!? ラインズマーン! ちょっと一回ゲーム止めて貰っていいですかぁ! うちの夏目選手全員退場しちゃったんですけど!? こちとら妹ガチャ人生初なんだよ? 初回限定ないんですかー?
もう残りの交代枠1つしかねーぞ。
財布の中では、孤独に陥った新渡戸稲造さんが慌ててウォーミングアップを開始する。
いやいや、ダメだ。お前を出すわけには行かない。
「兄貴、私だけじゃなくて舞っちにも奢ってあげなよ? 甲斐性ないなぁ」
!? ここに来て、さらに課金の要求だと……?
いやいや。そうしたくても出来ない状況、お前が作ったの分かってる?
今のお前への大盤振る舞い見て、甲斐性無いとかどんだけド畜生なんだよ。
これはキーパーグローブのリペアとクリーナー用の大事な稲造君なんだぞ。
「先輩? 私は別にいいですから? もうお腹いっぱいですし」
芝浦が救いの声を上げる。手には焼きトウモロコシが握られている。
つか、そりゃそうだよね。何気に楓と同じペースで喰ってんだもん。楽しんで貰えたようで何よりです。
「ふーん。そうなの? ありゃ? ……ごめん。中学の友達見つけたかも。ちょっと行ってくる」
急に慌てたように楓が走り出す。
「お、おい? ちょっと待てって。はぐれたら帰りどうすんだ?」
「2番目の鳥居んトコで集合。そんなに遅くならないから」
声が運ばれる頃には、楓の姿はすでに人混みの中に埋もれている。『探して』と言われなかっただけマシなのかも知れない。
「……行っちゃいましたね」
「……ああ、なんかごめんな。自由すぎる妹で」
『それがきっと楓さんの魅力なんですよ』と芝浦が笑う。なかなかのフォロー上手だ。
残された俺たちはそのまま縁日を歩いて回る。
が、楓のようにいちいち店に立ち寄らなければあっけなく屋台の並びは終わってしまう。
人の波が薄れ始めた本殿の手前でどうするか思案に暮れる。鳥居の方に戻っても楓はしばらく帰って来ないだろうし。
「先輩は縁日って何か知ってます?」
「神社とかのお祭りの事じゃ無いの?」
突然の質問に思い浮かんだ答えを返す。
「全然違いますよ。縁日ってのは神様と縁を結べる日って事です。ちょっと行ってみませんか?」
誘われるままに後ろを付いて行く。
ポニーテールが揺れるたび、その都度のぞくうなじが艶めかしい。
健康的に焼けた素肌にうっすらと浮かぶ汗が目の毒すぎる。
奥の方ではこの祭の関係者と思われる人たちが集まっている。小さな神輿を囲んで何やら騒いだり歌ったりと過ぎゆく夏を盛大に謳歌している。
これから担ぐ神輿を前に景気づけといった所だろうか。
「残念ながらこの辺しか行けませんかね。ちょっと遠いけどここから神様にお願いしませんか?」
「な、何を?」
「え? 何って選手権3連覇じゃないんですか?」
うなじに目を奪われた俺が馬鹿らしくなるくらいに当然の答えだった。
で、ですよねー? それしかないですよねー。
「そ、そうだよな。そうに決まってるよな」
ふふって笑いながら、芝浦は本殿の方に手を合わせ小さく祈る。
その脇で同じ動作で祈る俺。
(選手権優勝できますように! 姉ちゃんが早く男見つけて出てってくれますように! あと、……この世界で楽しく生きていけますように! それと――、これはやっぱりいいや)
目を開けると芝浦が覗き込むように見ている。
「結構、沢山お願いしました? 実は結構欲張りタイプだったりします? あんまり頼みすぎると縁結んでくれないかも知れないですよ?」
「え、マジ? 厳選した方がよかったかな? あ、でも自分で何とかしたいと思ったのは言わなかったら大丈夫だろ、きっと」
「まさかの神様全否定じゃないですか?」
いや、そういう訳じゃなくて……だな。
本当に欲しいものは、神様に貰うより自分で手に入れた方が尊いってことをついさっき教えて貰ったばかりだから。
まあ、その人……、今頃神様になってないといいけど。
ゆっくりと踵を返し、来た道を戻る。人混みは変わらずにごった返している。
『少し疲れちゃいました』の言葉を受けて、少し早いけど第2鳥居の方で楓を待つことにした。
2人で歩く途中、空に大きな白い雲を見つける。どうしてかそれがとても大事な忘れ物のような気がした。
☆☆☆
「あの時、あの場所で神様にお祈りしたのは私たちだけでしたよね?」
……多分。あんな喧噪の中で静かに祈りを捧げる物好きなんてそうはいない。
「だったら私たちは一緒に――。神様と3人で縁を結んだことになるんでしょうかね?」
!? まただ。
胸を締め付けられるような感覚。
この1ヶ月でどれだけ心の琴線に触れられたんだろう。
適当な言葉を持ち合わせていない事が、本当に悔やまれる。
「そうなる……のかな? よく分からないけど」
結局上手い言葉を見つけられないまま目的地に到着する。
そこには意外にも、鳥居に寄りかかる形で楓が先に待っていた。
「早かったな」
「まあね」
気のない応答を済ませる。流石にもう一度中に入ろうとは言わないらしい。
少しずつ暗くなる空に追い掛けられながら帰宅に着く。
途中分かれ道で芝浦を見送り、楓と2人トボトボと歩く。
その途中――。
「で、何をお願いしたの? 2人並んでお祈りしてたでしょ?」
は? 見てたのかお前? まさか付けてたとか――。
「偶然よ、偶然」
そう言ってニヤッと笑う。……絶対嘘だ。多分始めから友達なんていなかったんだろう。
「ま、食べた分のお礼ぐらい返す気遣いは持ってるつもりだし」
な、なんてヤツだ。
まあ、だいぶ寂しくなった財布を責める気持ちはもう無いけどな。
ドーン!!
後ろの方で大きな音を立てながら花火が上がる。さっきの神社の方角だ。
少しだけ足を止めて振り返る。
「隣にいるのが楓じゃなかったらなー!」
「うわ? すでにオノロケとか!?」
「い、いや。そういう訳じゃ無くて……」
「むしろどういう意味なのか聞きたいんだけど。オノロケじゃなかったら誰が良かったわけ?」
失言だったようだ。
うるさく囀る楓を無視して再び家路を歩く。
無意識に空を見上げる。
さっきの雲はもう分からない。
少しだけ涼しさを感じさせる風が吹き抜けていく。
その風は高校最後の夏が終わりを迎えたことを意味していた――。
エピソード『夏の終り』でした。
本当はここまでが序章の予定だったんですが、間に合わなくなってこんな形に……。
沢山の方に読んで頂きとても有り難く思っています。
章間に時間がかかって、2章がそんなに溜められていないという本末転倒な状況ですが、引き続き応援して頂けると嬉しく思います。今後ともどうぞよしなに。




