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おい!今度の行き先はサッカー漫画だってよ!?  作者: 赤星べお(※完全なPNにしました)
章の隙間 ~モツ煮とハム焼きとビールの時間~
25/105

22話以上23話未満 季節が移ろう前に

 

 高校生として最後の夏休みも残りわずかとなり、少しだけ感傷的になる俺たちに川上監督は新しい宿題を沢山プレゼントしてくれた。優しい心使いに溜息と嘆息しか出てこない。

 

 鹿島相手に守備陣崩壊を披露した課題である。


 3バックと4バックの時で、意識や守り方がどう変わるかを叩き込まれる。


 ボランチ含めてのプレスポイント開始位置はどの辺りをするのか? また、それを突破された時のリスク管理も徹底的に意見を統一化させていく。

 相手が2トップで来たときと3トップでの対応の仕方などは『受験勉強か?』と言いたくなる程の理詰めのカンファレンスであった。


 更には連日浴びるほど受けながらも、一向に進まない『ネガティブゲート』と司のシュートストップ。


 司の新技は少しづつその変化を強めていき、距離関係なくライズダウンを描きながらゴールへと向かっていく。まさに無人の野を行くが如くだ。

 その過程で、定期的にポストやバーからの跳ね返りをくらい続けているのも残念ながら継続中だ。


 そろそろ後頭部がフリーザ様の第二形態の様になってしまわないか、普通に心配になってきた。


 とはいえ、基本的なスキルの向上はそれなりに果たせてきたとは思う。



 洋二先生から以前貰ったビデオの中身は今まで想像したことも無かった世界の映像だった――。

 もちろんキーパーの練習風景のモノだ。


 国内外問わずを集約したソレは運動能力や判断、体の動かし方など細かくカテゴライズされて録画されていたのだ。


 例えば、ゴム跳びをしながらセービングしたり板で叩かれたボールに反応したり、ビニールシートの上に水を溜めそこをボールを走らせたり、相手のいる位置によって移動の仕方……、ステップが変わってきたりと新しい発見が数多く含まれていた。


 今までの蹴って貰ったボールに飛ぶというだけの概念は一気に無くなり、『練習』ではなく『トレーニング』だったんだと再認識させられる。


 そのビデオは勿論サッカー部で川上監督や桜井などキーパー全員で鑑賞し、簡単にできるモノからではあるが、練習メニューに導入されつつある。

 今のところはゴム紐と板を使ったぐらいだが徐々に充実していってくれるだろう。

 時期的には、俺のためというより後輩の為という事になるだろうが、それでも無いよりは全然良いだろう。


 ちなみに、その中の1つに面白い映像があったので、それを実践するべく俺はある行動に出た。



☆☆☆



 夏休み中。楠家の夕食時の出来事だ。素麺をすする妹に真顔で話しかける。


「なあ、かえで。お願いがあるんだが?」

「……なによ?」

「お前硬式テニス部だよな? 俺にテニスボールを打ってくれないか?」

「……?」


 楠家の食卓に軽く不穏な空気が流れた瞬間だった。もっとも俺はそんな事には全く気がつかなかったが。


「頼む。出来れば思いっきりやってくれると嬉しいんだが」

「……。意味がわかんないんだけど? それとも……変態のカミングアウト?」

「は? 何言って?」

「ちょっと楓? かなめも! 妹にボールぶつけて欲しいとかあんた正気なの?」


 姉の瑞希が割って入ってくる。両親はポカンとしたまんまだ。

『まさに言葉が出ない』と言うより何を言っていいのか分からなくて固まってしまっている感じだ。


(……ボールをぶつけて欲しい? ぶつけて? はぁぁぁ!? 何言ってんだこの馬鹿!?)


「楓にボールぶつけて欲しいなんて誰が言ったよ? キーパー練習だよ。ラケットで打ったテニスボールに反応して止める練習! 南米とかでは割とポピュラーなトレーニングって教わったの!!」


 危ねー危ねー。何をどう勘違いしたらそんな発想になるんだよ? 

 楓にボールをぶつけて貰って喜んでいる俺……、ホントに只の変態じゃねーか。しかも『思いっきり!』とか……。すでに覚醒してるヤツの発言じゃねーか。


「あー、お母さんびっくりしちゃった。ねぇ、お父さん」

 

 ビックリしたのはこっちだけど? 家族に変態認定されかけたし。むしろ家族全員でそっちの意味で捉えたという事実の方がだいぶヤバイと思うんだが、そこはスルーしてやるのが家族愛というモノだろう。


「……なんで?」

「決まってる。司のシュートを止めたい!」

「皇先輩の?」


 その後、誤解が解けた俺は司の新しいシュートの練習に付き合っていることや、洋二先生にトレーニングのやり方の指導を受けていることを説明する。楓は洋二先生の名前を出した瞬間に食いつきが変わった。


 どうも洋二先生は、サッカー選手だけじゃ無くてプロのテニスプレイヤーとも契約、というか指導もしているらしい。


 実際、後年に有名な女子テニスプレイヤーがここ鹿島で良く見かけられたのは、信仰心のあるブラジル人選手に会いに来たというだけでは無かったらしい。流石にスポーツ医とは伊達じゃないな、洋二先生。


「何ソレ? いつからよ? なんで兄貴が芝浦先生の管理受けられるのよ?」などなど……。

 どうも俺が思っている以上に洋二先生は有名人だったみたいで、しばらくは楓の質問攻めが続いた。


「1つ条件があるの」

「なんだ?」

「今度芝浦先生に会うときに私も連れてって。そしたら兄貴の言うこと聞いてあげる」


 なんだ、そんな事か。別に何の問題も無いと思うけど、一応許可は取っておいた方が良いだろうな。


「いいぞ。でもちょっと待ってくれ。一応その前に紹介を挟んでおきたいから。多分断られないとは思うけど一応な」

「うん。それでいいよ。交渉成立ね」


 後日、すぐにネットをKYDケーワイデー2で購入し姉を除いた楠家総出で庭にネットを張る作業を行う。

 ネットというかカラス避けみたいな感じだが、ボールを止めるという役割さえ果たしてくれれば問題ない。


 両親と俺と楓で杭を打ち込んだりポールを立てたりとてんやわんやだ。なるべく涼しい時にやろうと早朝から始めたのだが、思ったより重労働で、結局は昼前までかかってしまいみんな汗だくだ。


「家族みんなで1つのことを協力して達成する。お父さんこういうの夢だったんだよな」

「良かったわね、お父さん」


……夫婦仲むつまじいトコ悪いが、長女の存在を抹殺してる事に気付いているのだろうか?まぁ、俺的にもどっちでもいいけど。


「じゃ、試しにやってみようか?」


 疲れを見せない楓の提案にちょっとだけ驚く。


「今から? ほら、汗びっしょりだし夕方涼しくなってからで良くないか?」

「どーせ動いたら汗かくし。それにネットの張りとか問題あったらすぐ直せるでしょ? 後からまたやり直す方がダルいじゃん?」


 妹の正論にぐうの音も出ない。「はい。要の負けー」と母も楽しそうに笑っている。


「分かったよ。麦茶飲んだらやろう」


『水分取っちゃダメでしょ!』っていう楓にそれは違うと言うことを伝える。体から水分が少なくなるとパフォーマンスが落ちることや脱水や熱中症の危険も伝える。

 実際、元の俺はそんな感じでダウンして今ここにいるわけだし……。


「でも先輩に水飲んじゃいけないって言われてるよ? 水が溜まるからダメって」

「古いやり方だろ?体育会系特有のな。何でも根性で済ませる時代に流行ったモノで何の根拠もないぞ。『今』というかこれからは真逆になっていくから、早めにみんなにも教えてあげた方が良いかもな」

「……そうなの? まさか兄貴からそんなことを教わる日が来るとは思わなかったわ。流石、芝浦先生が付いてるだけはあるわね」


 ……そういう訳では無いんだが。まぁ、それで納得してくれるんならそれでいいか。


☆☆☆


 こうして家族みんなで作られたネットは、その日から楓のテニスボールを受け止める役割を発揮していくことになるのだが、1つだけ誤算が生じた。


 それは、軽い気持ちで思いっきりテニスボールを打ち込んでくれと言ってしまったことだ。

 予想以上にボールが早すぎて、エリア上辺りを想定した16メートルでは全くボールに届かないと現実が突きつけられる。

 確かに映像でも全力で打ち込んで無かったが、『楓だしな』と女子テニスを舐めていたことを反省させられることになってしまった。


「もう少し弱めか、ちょっと下がってくれないか?」と頼み込むと、

「情けないなぁ」と少し笑いながら要求を飲んでくれた楓はもう一つ。


『これからは外でも話しかけても良いよ』と今までの『家の外では他人宣言』も破棄してくれた。


 ……キーパー練習は妹の反抗期の終了にも効果があるらしい。洋二先生ありがとう。

 

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