16話 目指せ!幻影ミラクル型! (中)
俺と司が仲良く座ってる姿はとても奇異に映ったらしい。
その状況説明がまた情けないのは楠たる所以でもあるので、俺的にはあまり気にしていない。
跳ね返ったボールが顔面を強打してノックアウト。しかも、きっちりオウンゴールまでしているという逆ストライカーぶり。あぁ、このマイナススキルが恨めしい。某野球ゲームなら速攻でリセットされてるに違いない。
「相変わらずゴールに向かわないボールには好かれるよなぁ」
枠内はツンだけどそれ以外はデレという事か?めっちゃ痛い愛情表現だな。一発KOだぞ、こっち?
「でも不思議なんだよな。楠の方蹴ろうとすると、上手くコントロールできなくて枠行かないんだよ」
森山……、それはお前が下手だからじゃないのか?
大体にしてお前、誰が相手でも基本ポストじゃねーか。逆に何であんなに細いポストに、しかも正確に跳ね返すことが出来るのかを問いたい。たまには巻き込んで入っても良さそうなのに、かつてそんな光景は見にしたことがない。
「司はどうだ?」
「俺?うーん、そうだなぁ。蹴りづらくなるような気はするかなぁ。ポストから楠に当たった奴も実は俺、楠の上を無回転で狙ったんだよね。でもコース狭められたら普通……、いや違う。コース空けてたか。あれ誘いだろ?何でニア行ったんだろ?」
なんだかよくわからんが、キッカー達にしか分からない世界もあるらしい。
そんな世界にパンチング一本で立ち向かう俺。何かカッコいいじゃないか。と、今現在パンチドランカー状態な俺が言ってみる。
あと超至近距離で正面への無回転は辞めてくれると嬉しいかな。それこそ俺まで成仏してしまいそうだ。
☆☆☆☆
さて……。少し休んだし練習再開だ。
人数も増えたので3対3をやる事になった。司、氷高、森山の攻撃組と西・不破・八神の守備組。そこにキーパーで入る俺。戦力比を測るのは御法度だ。実質4対3だが、勝っている気はしないからな。
そういやフォーメーションの言い方ってキーパーって数に入れないよな。
4-4-2とか4-3-3とかじゃなくて、正確には『1-4-4-2』とか『1-4-3-3』とかじゃないの?
でもなんかボッチ感が増したような気もするし、安曇クラスならまだしも俺なら数に入れなくても正直変わらないかもしれない。
最初は遊びと練習の間位だった3対3も、やってるうちにいつしか熱が入ってきては声が飛び交うようになってくる。
「森山!マノン!!」
「んがぁ」 氷高の叫びに森山の後ろでフランケンが威嚇する。もはや怪獣みたいに思えてきた。
ポストに入った森山がダイレクトで司に返し、それをまたダイレクトで氷高に流す。西が流れて、八神は司についていく。
ゴールエリアの縦線上。俺から見て右30度辺りの位置だ。西も向かっており角度もあまりない。
こう言ったときはニアを抜かれないのは定石だが、さっきの森山の言葉がふと頭に浮かぶ。
『俺の方に蹴ると外れる』
先ほどの洋二先生のやり方を再度行う。少しだけニアのスペースに撒き餌を撒く。そしてボールが動いた瞬間に逆に行くぞ、と分かりやすい位にグッ、グッと左足を踏み込んで挑発する。
次の瞬間、飛び込んだ西の股下から意図しないタイミングでの強襲。
ガツン!! バシィッ!!
「へぶん!?」
西をブラインドにして放たれたつま先でのシュートは、俺に反応する事さえ許してくれなかった。そして勢いよくバーに叩きつけられたボールは俺の後頭部へと突撃し、美しい軌道を描きゴールへと吸い込まれていった。なんと美しいバックヘッド。
「あ、わりぃ。一応ファー狙ったんだけど」
や、やるな氷高。今のは結構効いたぞ……。流石に視覚外からの不意打ちはダメージが大きい。今度はうつぶせでのK.Oだ。
ヤバイ、ちょっと又くらくらする。暑さと連続での頭への衝撃でいい加減グロッキー状態だ。
「先輩。こっち!」
芝浦に促され、フラフラのボクサーみたいにゴールの後ろへと移動する。もはや最近の定位置になってきた感すらある。『ゴールに守られる男』という称号もそう遠くないのかもしれないな。
「司君、頑張ってー!!」
俺が抜けた後も、司達はメンバーをシャッフルしてミニゲームみたいな3対3をやっている。
しかしだな……。
隣に部員が倒れているのを無視するマネージャーというのはどうかと思うぞ、望月。
一応、俺とお前も小学校からの付き合いだよね? 他人じゃないよね? むしろ俺のこと知ってる? この前会ったよね? というか、いつも会ってるよね?
司と同級生で仮にもレギュラーキーパー1番手の立場よ、これでも。
いっつも司しか応援してねーし。多分、司以外はもはや動くマネキン位にしか見えてないのだろう。
「あれ?楠君まだ休んでるの?」
今度はスーパーの袋を持った洋二先生が帰ってきた。中身はスポーツドリンクや保冷剤的なシートなど、結構色々買い物してきたらしい。
「あ、お父さん。さっき又頭にボールぶつかっちゃって休んでるの」
「そ、それは災難だったね。冷却シート使う?」
「あ、ありがとうございます」
『今度はどんな?』と確認する洋二先生に芝浦が説明する。
「うんうん。死角からのトーキックね。そりゃあノーチャンスだ」
ですよねー……。蹴った方を褒めるしかないよね。むしろアレを止めたり、ましてやキャッチなんてしようものなら、それこそ漫画や映画の世界だ。あ、ここも一応そういう世界なんだっけか。
「司君ナイッシュー!!」
うるせぇな。何でこんなにはっちゃけたキャラ設定になってんだ?『サイレントストーカー』だったはずだろうが確か。ほれ?向こう行って遠くからハァハァしてなさい。
「……、それで楠君は氷高君のシュートの時ってさっきの駆け引きやった?」
「一応やりました。結果同じ目に遭いましたけど……」
「そうか。ちょっと他のみんなにも聞きたい事あるから一度休憩しようか?差し入れも温くなっちゃうしね」
休憩中に差し入れのスポーツドリンクを皆に配りながら洋二先生はオフェンスメンバーに聞き取りを開始する。
さっきのシュート前に関する動作のことを詳しく聞いているようだ。
芝浦も良く分からないって顔をしている。当然ながら俺も理解出来てない。
まだ若干ボーッとする頭で俺は、洋二先生の奇妙な行動をただ見続けていた。