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おい!今度の行き先はサッカー漫画だってよ!?  作者: 赤星べお(※完全なPNにしました)
 序章 スケープゴートへの転身。そして、それから……。
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13話 その手に掴むモノ

 

 練習試合当日―。

 

 あの日以降も目的は同じとする練習がバリエーションを増やして行われた。追加で司の居残りシュート練習の付き合いも開始されている。自分で言うのも何だが、結構頑張ってると思うぞ。

 とはいえプレジャンプの件は、具体的にどうしろとかいう話はまだ出て無いので頭の片隅に置いてある、といった所。だから何の変化も起きてないと思う。司のシュート全然止めれないし。


 さて――。


 今日の練習試合だが相手は常磐工業高校という。相手の監督がうちの監督の後輩という縁でマッチメイクが決まった。

 ここ最近は県でもベスト4か8辺りを狙えるくらいになってきたらしい。

 試合は変則的な25分を4セット。練習試合という意味合いもあるが、どちらかというと1軍から見れば調整試合で2軍の出場機会の確保も当てられている。

 当然、練習試合だけあってスライディングやあまりに激しい当たりは禁止だ。


 その中で俺たち1軍が予定されているのは1本目と3本目。

 当然ながら勝つ事は最低条件で試合中のミッションも盛りだくさんだ。


 最初はベースの4-4-2のダブルボランチ型。縦へのロングボール、ロングシュートも禁止。外へのクリアも禁止条項だ。サイドチェンジはOK。でもむやみな横パスはNG、ゴール前での無意味なボールタッチも叱責の理由になるからな!などなどなど……。

 サッカーって、こんな縛りプレイさせられるものかよ?俺の知ってるサッカーと随分違う……。


 勿論、俺にも縛りはやってきた。飛ばすだけのパントキックはダメとかバックパスを貰いに行ったら必ず繋ぐようにとか。どちらかというと手を使わない部分での指令が多い。ゴールキックでサイドライン割ったらもれなく罰走のおまけ付きだ。命令違反とのダブルコンボはどうしても避けたい。



 スタッツにおいても、枠内での被シュートは3本以内で失点は勿論ゼロ。ポゼッションは監督の体感で6割以上、パス回数は相手の1.5倍以上とか。体感ってアバウト過ぎるだろ。何とか難しくさせようと一生懸命な気がするが、一応こっちは全国二連覇中だからな。楽勝とは言えないまでも、それなりに力の差はあるはずだ。望月と芝浦もカウンターを持ってピッチサイドにスタンバイしている。マジでパス数えるの?



 1本目。

 無難に試合をコントロールしようとする俺たちとは対照的にやる気満々の常磐工業。


 とはいえ、試合内容は一方的なモノになっていく。最初の少しは難しさを感じてたメンバーだが徐々にパスが回り始め、少しづつ向こうサイドでのプレー時間が増えていく。

 常盤工業と言えば、ハーフウェイ辺りに電柱タイプのFWがカウンターの起点になろうと待っているが、ほぼほぼ近くにボールは回ってこない。

 回ってきてもフランケンが付いてるから基本的に問題ない。あー見えて全国レベルの電柱と渡り歩いてきた男だ。海外の電柱には童貞だが県予選レベルではゴッドフィジカルと言っていいだろう。


 ダイレクトでの崩しで1点。司が縦に切れ込んでマイナス気味に折り返して1点。2つともまさかの森山だ。

 守備の方でも特に危険な事は起こりえなく、ディフェンシブサードまで中々ボールは来ない。なのでアーリー系のクロスや事故を狙った早目のボールに対しての処理をセーフティにしていけばそんなに問題はないはずだった。


 試合時間もあと僅かという所で、左からのアーリークロスを西が後ろへ擦らしてしまい右からのコーナキック。

 低めの速いボールがニアへ飛んでくる。それを相手のニアが頭で上にコースを変える。ボールはゴール前を通過していき、ファーで待っている相手の所へと流れていく。


 ヤベ!? 慌てて反転して左サイドにダッシュ。間に合うか?

 何とか相対したがポジショニングはずれ、重心は左に乗っているという悪条件だ。


 バチン! 

 

 敵の放ったヘディングは左に向かった俺の逆側、しかもたたきつけたソレは右足から70センチほど右に鋭角で落ちていく。


 左足にまだ体重が残っている為、右には飛べない。

 ならば、と――、右足を左足の前に滑らせ、無理やり態勢を崩す。

 横倒れする俺の少し前をボールが過ぎていく。そのまま、右手を伸ばしゴールライン上、バウンドした瞬間にボールの下から手を当ててクイッと上に持ち上げる。


 意図しない浮力をかけられたボールはそのままゴールバーの上をゆっくりと山なりで過ぎていき、パサァという音を立ててネットを滑り落ちていく。


「「おおぉぉ!!」」


 ……ふぅ。あぶねぇあぶねぇ。失点なんかしたら監督に何言われるかわかったもんじゃねえし。


「ナイスキー楠!」


 うつぶせのまま、ため息を付く俺に西が手を差し出す。いや、お前が作ったピンチだからな。自覚してる? まあ。褒めてくれたから許してやるが、罰走を免れた礼は購買のチョココロネで勘弁してやろう。


 2本目のコーナーは中央で「んがぁぁ!」という力強い掛け声とともにボールはタッチラインへ飛んで行き、ここで一本目終了。マジでどういう首の力してんだ、アイツ。


 その後、引き上げる際に俺は相手チームからまさかの声をかけられる。


「ナイスキーでした。さすが楠さん」


 はぁ? 何言ってんだコイツ。『さすが』だと!? 楠から一番遠い言葉じゃないのか? 言う相手間違ってるじゃないかな?君、混乱してるじゃないかな?

 

 小さく頭を下げ走って行く敵選手を見送って、俺は狐につままれた様な気分でベンチへと引き上げていった。




監督が『関東』になっていた誤字を修正しました。

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