89話 『あと僅かなトキ』
「相手の失点をゼロに抑えることを考えている」 元日本代表 現G大阪 遠藤コーチ
発言の間違いとか全然気にしなそうな方ですよねw
「おっしゃぁぁぁぁ~~!!」
ドレスルームに西の大きな絶叫が響き渡る。
「これで、ようやくベストエイトだな」
「あと三つだね~、とうとう」
大きく息を一つ吐いて、八神が両手をグッと握りしめる。
「でも、逆に言うと、もう三つしかない……、ってことですよね?」
控えめな感じで、佐倉が声をだす。一年生だけあって、本当はもっと司と一緒にやりたい、って思っているんだろう。
そんないじらしい後輩の頭に手を掛けてワチャワチャしてるみんなを横目に、俺は足早に洗面所へと向かう。
理由はただ一つ。一刻も早く、顔を洗いたい。もう、それしか無かった――。
正直、後半途中で点差が開いてからは頭の中でずっと思ってしまっていた。
ピッチ脇のペットボトルがスポーツ飲料だったため、ベタベタするのもイヤで悲しくも断念した洗顔がやっと出来ることに心からの安堵と水道から水が出ることにすら感謝してしまうのだった。
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同時刻では――、
大方の予想通りのチームが着実に駒を進めていた。
名門帝尚高校――――、
玖珂の咆哮がピッチに木霊する。
直接フリーキック。壁を無視したキーパー側への強烈な一撃が炸裂する。
蹴った瞬間、キーパーも一歩だけ壁側にバランスを移したのも仇になったのかもしれないが、泳いだ体で懸命に片手だけ合わせたところで、全く障害になっていなかった。
3対0――――。
最後は上手くボールを回し、スタミナの消費も抑えた横綱相撲で、当然のように駒を進めてきた。
他にも、虹野のいる『明代安積永盛』、代表での両サイドバックコンビを揃える『福岡いろは』など、顔見知り達が順当に勝ち進んでくる。
その中でも異彩を放つのが市立掛川だ。嶺葉とシニョーリのいた静学付属を倒したとはいえ、全国初出場にも関わらず、しっかりと勝ち進んできている。
ここまで来たら簡単な試合などあるはずもないのだが、何やら不気味な怖さを感じる。
とはいえ、こちらとしては次は明代安積永盛に決まったということで集中していくのみだ。
今頃、マネージャーたちがミーティング用の資料を作っているはずだ。
結果を聞いて、やたらソワソワしている八神の頭をポンポンと叩きながら、虹野に押しつけられた
役目を遂行していた。
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「と、いう訳で次は『明代安積永盛』に決まりました! 今日の試合を含むスカウティングレポート配るから、まずは軽く目を通してね」
紺野の声が旅館の談話室に響くと同時に、他のマネージャーたちがホチキス止めされた資料を配付し始める。パラパラと捲ってみると、両面ビッシリと埋め尽くされたA4レポート用紙が5枚ほど。
明代安積永盛のこの大会でのゲームデータが細かく記載されている。ボールの保持位置やセットプレーの傾向、各選手の特徴は勿論の事、虹野に到っては時間ごとのプレーエリアの割合まで記されている。
プリントが全員に行き渡ったの見計らって、望月がみんなの前へと歩き出す。
マネージャーというか、もうテクニカルスタッフとかタクティカルスカウトとかいうレベルだと思う。
「全員、持ってるわね。まず一枚目から。システムは基本的に4-4-2。オーソドックスなダブルボランチ型ね。主力は勿論、虹野 洸哉。代表でよく知ってる人も多いわね」
「スタイルはBox-to-Box。現段階でこの世代では、世界レベルでも運動量や展開力、ミドル、そして狩り取る力が通用していたのは、私たちよりも代表で一緒だったメンバーの方が知ってるはずね」
途中で一息ついて望月が説明すると、司や八神、森山達が大きく頷く。特に森山は、Bチームで出るたびに、いっつも狩られまくってたから思うところも深いのだろう。
「タイプ的にはファイター型の嶺葉だな。フィジカルもつええし、とにかくガツガツくる。遠目からでも狙えるキック力あるし、それでいて何気に柔らかいプレーもするから、とにかくやりづらい」
「直線的に上がってくる事が多いけど、視野も広いし展開も上手いよ。とりあえず前を塞がないと厄介かな」
西と八神からも意見が上がり、
「そうね。身体がガチムチになって、顔と性格も変って、半分くらい脳みそが筋肉に汚染された嶺葉君と思ってくれれば、そう遠くないわね。半分……、いや三分の一くらいは元の嶺葉君が残ってると思って」
(いや、もうそれ全然嶺葉じゃねぇだろ!)という突っ込みは黙っておく。
低い位置から一気に斜めのサイドチェンジや、ロスト後の再奪取の強度、セットプレイの傾向などの注意点が説明される。虹野の他にも、県や東北選抜歴のある選手の特徴など。特に利き足やスタイルについても詳細なデータが書き記されている。
小一時間程度のミーティングも終わった後、配られてなかった紙を持った芝浦がやってきて、
「一応、PK戦用の資料も作ってはある。引き分けで終わったら渡してやる。でも、使わないで勝ってきなさい! って望月先輩から……」
もの凄い目力でこっちを睨んでる望月に気付かないフリをしながら、
「お。おう……」
と、力ない返事を出すのが精一杯だった。
今年のJは変則的なレギュレーションでPK戦があります。PK大好きなので、いっつもキーパー目線で見てるんですが、最近はコースが当たっても、「あ、これは触れないな……」ってシュートを打つ選手が増えてきましたね。ある意味、上手い人とそうで無い人が分かりやすくなった気もします。
昔のJリーグにもPK戦がありました。当時よりも、格段にレベルが上がってますね。キッカーも宋ですが、勿論GKも。昔、チェルシーが作ったPKのレポートを見たことがあるんですが、メチャクチャ約束事とかセオリーが多くて、サッカーも凄いスピードで進化してるんだなぁ、と感じたことを思い出しましたw




