85話 ボサノヴァのリズムで軽快に削ろう
アグレッシブさを学ぶ必要がある。例え顔面を切るような危険を冒してでもチームのために体を張る。綺麗な白い手袋をはめて行うスポーツではない。
故シュワーボ。 貴方は最高にして至高のフットボールマネージャーでした。貴方が日本に来てくれた事を、僕は生涯感謝し続けると思います。
後半早々の失点劇に富良都は、天を仰いで小さくため息を付く。
――だろうな。という感想しか出てこない。
向こうの土俵でやり合えばこんなモンだろう、とネガティブながらも正確に把握できてしまう。だからこそ、試合前は「同じ土俵でやりあうな!」なんて言ってたのに……。
まぁ、でも……、理解できない訳ではない。
勝つことを諦めたわけでは決して無いが、それがどんなに難しいというよりも不可能に近いということ。
そして、監督はここでの勝利ではなく、未来の勝利の為にグッドルーザーであることを選択したことに。非常に業腹だが……。
ただ、そんな富良都でも分からない事が一つあった。
それは目の前で獰猛な笑顔で対峙している内村だ。
……この人、こんなイッちゃってる目してたっけ? まさかドーピングしてるのか!?
中盤では、まさかのとんでもない勘違いも生み出されて、そのカオス度はますます深くなっていく。
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礼津の激しい辺りにも重心を低くして、逆にはじき返す勢いで体をぶつけていく八神。
(変だ。鹿島の本当の強さは上手に見えて、実は球際での負けなさなのは知ってたけど、それでも今日は特に激しい……)
後ろに内村を背負いながら、現在進行形でガシガシされてる最中である。
(特にこの人、何でこんなに荒いんだよ? スタイル変わりすぎだろ!)
空中戦の時には、競り合うような形で後ろから尻を膝で蹴り上げられた――。
ターンしようと横に抜け出したら、膝の外側を向こうの膝でぶつけらて止められた――。
「あ、ワリィ」とか、全然思っても無い顔で。カード出せよ!
なんか中央だし、わざとじゃないみたいだし、反省してるぽいっしで、許してんじゃねーよ。
前を向こうとしても潰される……。それも、痛みを伴う形で。
富良都の頭の中では、無意識にそんな予測が働くようになってしまっていた。
そしていつしか、自分に絶えず激しいチェックをしながらも、精力的に攻守にアップダウンを繰り返しゲームに絡み続ける内村に対して少しずつだがリスペクトを覚え始めていた。
(きっと、あの妙な笑顔は敵を威嚇するための仮面なんだ。試合の中で自分という存在感を出すためには手段を選ばない。目立たない奴には目立たないなりの苦労と努力があるんだな……)と。
内村のキャラ確立の必死さに、どことなく司のコピーではなく自分というプレイヤーを確立したい自分に重なる気がして、少しだけ笑顔が自然に生まれた富良都であった。
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一方で、自分を見る富良都の目が変わったことに何となく気付いた内村。
……なんか、優しい目で見られているような気がする。
ディスられたので、ヘイト返しをしたのに思っても無い反応に、こっちはこっちで妙にやりづらさを感じ始めていた。
(なんでコイツ、こんな生暖かい目で俺を見てんの? これじゃ、まるで俺がヤバイ人みたいじゃん)
そこに、少しだけニコッと微笑む富良都。
突然の爽やかな笑顔を向けられた内村も、慌ててさっきまでの邪悪な笑顔を見せる。
わずかな時間であったが、2人の選手が笑顔でお互いを見つめ合うという奇妙な世界がそこにはあった……。
90年代のボランチやDHって聞くと、個人的にはドゥンガやアルベルティーニが思い浮かびます。Jで言えば、山口素さんや森保さん、元ヤマハの吉田さんなんかもいましたね。
個人的に中盤の潰し合いで主導権がどう傾くか、って見てるのでこの辺りは見所多いですね。今年は森島司選手がボランチに挑戦するみたいで、シュミット・ダニエルの代わりにそちらを応援して見ていきたいな、と思ってます。