84話 一握りの勇気さえ失くしそうな時
「同じ溺れるなら水溜まりより海を選ぶ 」
元イタリア代表のずぶ濡れのウサギさんから
ハーフタイムを終えて、それぞれが前半とは逆のピッチへと姿を現す。
少し影の伸びたピッチの上には、やる気に満ち溢れている者、普段通り飄々とした顔の者、割り切った達観した顔を持つ者とそれを見て邪悪な微笑みを浮かべている者とそれぞれの思いを胸にした後半が始まろうとしていた。
「瞬、頼んだよ」
「ん。任された」
センターサークル付近で司と八神が何やら打ち合わせしているのを眺めながら、ゴール前に辿りついた俺は、恐ろしいことに今更になって気付く。
……そういえば前半、顔についた西のよだれを洗ってない……
過ぎてしまったハーフタイムをここまで後悔することなど今まであっただろうか。
笑顔で話している司と八神をただ呆然と見つめてる間に、無情にもキックオフの笛が鳴り響いた……
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後半に入ってすぐ目につくのは、八神が一列前に上がった事だ。
パッと見では、単純に麻野とポジションを変えただけなのだが、今日に限ってはそれだけではないというのがすぐに判明する事でもある。
――俺たちが、なぜBOXの活用に拘ってトライを続けてきたか。
一つ目はコアとなる司を全員で支援し、その能力を出来る限り発揮してもらうためだ。だが、勿論それだけでは足りない。
これだけでは、まだ司は俺たちに合わせてしまう。
だから、もっと先へと進むために、BOXのレベル向上を模索していた。
システム変更や約束事の確認などで、だいぶ想定より遅れはしたが、さっきの前半でベース部分の完成は確認された、という判断に到ったのだろう。
――次なるレベルへ。
コアである司のBOXメンバーとのフリーなポジションチェンジ。
左に回った時だけ氷高が真ん中に入るが、他のパターンだとコアは八神が入ることになっている……、場合によっては内村のケースも想定しているが。
司をゲームメイクから解放させ、自由を手にした司に周りが付いて行く、といった狙いだ。
それに伴い、ハーフタイムに言われた通りに俺たちディフェンス陣も、かなり高めに移動してのビルドアップを開始する。
サイドは幅を取りながら、パスコースを開く。相手が広がれば中へ。絞ってくれば、逆サイドへと振って、自分たちの時間を作り、後半のペースを握っていく。
一方、対する仙台育亮といえば、前半とは違ってオーソドックス、いや、すでにこの時代においてもオールドファッションとも言われてしまうような菱形の4-4-2に変更してきた。
相手の強みを消すより、自分たちの良さを出して行こう、と。
……だが、残念ながらそれは功を奏す事はない。
各ポジション毎に比べてのタレント力もそうだが、何よりトータル的に見た戦力差の違いが大きすぎる。
自由にポジションを移して、ボールを引き出して安定した納め所を作っては、八神と内村とパス交換などで全体のラインを上げていく。絶対に奪われない預け場所が常に顔を出しては、ボールを散らしていく。
前半、富良都は前にロングボールを蹴りこみ、競らせることで、可能ならキープ。無理ならリスタートで相手陣営へとボールを運んだ。
だが、それはポゼッションが可能であるなら選択肢から外れる。
強烈なプレゼンスをまき散らしながら、深い位置でも体を上手く使い、敵をおびき寄せていく。一人では無理、なんてのは世界レベルでの大会で証明してきた奴だ。サポートやフォローで守備陣形の綻びが生まれてくるのは当然だ。
右サイド深い位置でスイッチを繰り返しながら、戻りながら受け取ったボールをダイレクトで早いインスイングのボールを密集の隙間へライナーで流し込む。
ファーで対角線の森山が飛び込もうとする手前で、ブラインドからチョンと左足のつま先でコースを変える佐倉。
一切の抵抗を許さないまま、始まったばかりの後半はすでに仕上げへと移行していた……。
この季節、また新しいシーズンにワクワクする頃合いですね。
スウォビクもランゲラックもビクトルも皆いなくなり、個人的には寂しい気持ちのが強いです。
ヨーロッパサッカーに最近は付いていけてません。これが歳か……と感じています(笑い
昔、親がアイドルとかみんな同じに見える、と言っていたのが最近腑に落ちるようになりました。
あと、ウイイレが無くなって、「あ、この選手こんなとこにいたんだ」みたいな楽しみも無くなったのが少し悲しいかな。