退屈しのぎの一団の話 4
諸君、誓って言うがこれは陰謀などという汚らしいものでは無い。私の経験上、このような話には必ず裏がある。然し、然し、これは紛れもなく、愛に満ちた物語なのだ!旧き騎士の誇りに誓おう。私の言葉は、すべて真実だと!
これはかの勇敢な騎士の物語、その名は世に轟き、悪名高き蜘蛛を退ける美しき愛の物語。
昔、あるところに臆病者の騎士がいた。その騎士は、名をフリックという。ひょんなことから皇帝となり、勇敢な子を産んだ。その子は勇敢で賢く、また饒舌であって、幼い頃より神の愛を欲しいままに受け、同じ年頃の子を既に先導したという。
かの皇帝が余りにも情けなく、逃げ回るのであるが、星の回りに救われてか、地位を築いていた。しかし、その地位を狙うものというのは、なんと、まぁ、多いこと。
金を握りしめて娘を嫁がせたポルトガルの王は、その金を臆病者に奪われてしまう。気高き騎士さえ、あの臆病者は退けてしまう。しかし、それはどれも、勇敢な息子あってこそ。この息子がブルゴーニュの姫と結ばれると、いよいよ絶頂の始まりとなった。
然し、婚姻関係を結ぼうとして拒む蜘蛛が一人。憎き、フランス。ブルゴーニュの姫を奪い、その地を我が物にしようと企んでいたのだ。その企みに気づいたのは、ブルゴーニュの姫、その人。騎士に助けを求め、手紙を出した。
騎士は直ぐに姫との契りを結ぶ。然し、王はその手を断ち切ろうと、あろうことか人々を欺き、騎士共々幽閉してしまう。嗚呼、神はなんと残酷なことか。彼らに苦難を与えるのだから。
その一報を聞いた男がいた。それは、あの臆病皇帝だ。彼は帝国に救援を求め、騎士を讃える賛同者たちを集めた。その大群がブルゴーニュへと向かった。どの賛同者も、未来の英雄を救うために立ち上がった同志だ。その覇気は厚く、天よりも高いところにある。立ち昇る風がブルゴーニュに降り立ち、恐れをなした人々は道を開く。悪の所業は必ず破られる、神は彼らに微笑んだのだ。
結ばれた二人を囲み、国を跨いだ歓びの日。彼こそ、のちに名を轟かす正義の皇帝。再び愛を手にし、繁栄を勝ち取ったのだ。
「文章力無いな」
「なっ……」
レオポルトは、ピョートルの言葉にあからさまな怒りを見せた。
「構成も雑だし、何より内容がテーマにあってないんじゃ無いか?」
ピョートルは畳み掛けるように言った。薪を替えにきたカールが、何事かと一団を見た。一団は、レオポルトに視線を向けている。レオポルトは顔を下げ、拳を握った。
カールが入れた薪は勢いよく燃え、パチパチと景気の良い音を鳴らしている。外には雪が降っていた。
「えぇい、黙れ黙れ!私に楯突くというのか!?」
「もう一度、推敲したらどうだい?騎士様よぉ」
ピョートルのしたり顔が、レオポルトの目に焼きつく。レオポルトは怒りのあまり机を拳で叩いた。鈍い音ともに、グラスの水が勢いよく飛び出した。ヤンが必死に止めようとする。レオポルトはその手を振りほどこうとあがき、ヤンを突き飛ばした。ヤンは尻餅をついた。一瞬の沈黙。風がガタガタと家を鳴らしていた。
「おめぇ、何しやがる!」
ピョートルはレオポルトの襟を掴み、上物の絹にしわが寄った。
「私に歯向かうだと?笑わせるな」
ヤンが立ち上がり止めに入った。
「やめてください、二人とも!」
「この宿は」
カールがその喧嘩を見かねて振り向き際に言った。
「レオポルト様のものではありません。宿主である、私に許可を得ないで、賑やかにしてくれましたね。ピョートル様も、ですよ?」
一同は固まった。カールはため息をつきながら、焚べきれなかった薪を持ち上げて立ち上がった。
「もう一度、言いますね。宿主は私です」
ピョートルは舌打ちをし、襟から手を離した。レオポルトはフラフラと地面に尻餅をついた。
「み、皆様、そろそろ夜が更けてきましたよ。どうですか、今日はこの辺で、お開きにするなど」
マティアスが沈黙を切って言葉を放った。どもりながらではあったが、そこには明確な批判が添えられていた。
「……水差しも少なくなった」
ジェームズがつぶやくと、その水差しを手に取ったヤンを、マティアスが止めた。
「では、今日はこの辺で」
アブラヒムの号令とともに、一同は解散した。ヤンとカールが、机の上のものの後片付けを始めた。レオポルトが襟を正してそそくさと階段を上っていく。レオポルトの姿が消えた後、ピョートルは大きな舌打ちをして、その後を追って行った。マクシミリアンは、その姿を最後まで見ていた。