プロローグ
―――殺して、殺して、殺して。
そうして積み上げていった先に何があるのだろう。
きっと、何もありはしないだろう。
金は手に入るだろう、地位も得られる、欲しい物も手に入れられる。
だが、それがなんだ?
それらは全て殺さずとも手に入るものではないか?
『サーティーン、ナンバーサーティーン、聞こえているか。応答しろ』
下らない思考を若干ノイズの混じった通信機からの音声が邪魔をする。
「こちらサーティーン。 聞こえている」
物思いに耽っている場合ではない。 標的はすぐそこなのだ。
腕時計を見て現在時刻を確認する。 午前三時、予定時刻ぴったりだ。
「五秒後に扉のロックを解除する。 いつも通りならすでに標的は眠っているはずだ」
今回の標的はトニー・ブラザーフットを名乗るマフィアのドン、アンソニーの暗殺だ。
『了解した。 良い報告を待っている』
それだけ言うと通信は切れた。
数秒後には長かった潜入任務も終わる。
この瞬間のためにどれだけ苦労したか分からないが、いざその時を迎えてしまえばあっけないものだ。
素早く扉の前まで移動し、テンキーとカードキーで構成されたロックを解除する。
なんてことはない、ただ覚えた番号を入力し盗んだカードを差し込むだけだ。
小さな音を立てて鍵の開く音がする。
細心の注意を払い、音もなく扉を開ける。 灯りの消された部屋の中は暗闇に支配されている。
その部屋の奥、無駄に豪華なベッドの上で標的は眠っていた。
その姿を見下ろしながら――。
「じゃあな、ドン。 アンタの組織、案外居心地よかったぜ」
一発、二発、三発。 乾いた小さな音を立てて消音器付きの銃口が火を噴く。
かけられていたシーツがじわじわと赤く染まっていく。
心臓、額、首の三ケ所を撃ち抜かれたアンソニーは一言も発する間もなくその眠りから覚めることはなくなった。
念のため少し待ってから確認してみたが、脈はなかった。
「こちらサーティーン、標的の死亡を確認。 これより離脱する」
『了解した。 もうすぐ任務も終了だ』
標的は抹殺したが、任務はこれで終わりではない。
この後には犯人のでっち上げや混乱に乗じた要人の暗殺も待っているのだ。
(思ったよりも早く片付いた……この後は久々に飲みにでも行くか)
そんなことを考えながら部屋を出ようと扉に手をかける。
――と、その瞬間光が溢れ視界を塗りつぶした。
「な……!?」
驚きの声を上げるより先に、意識が遠のいていった……。