レヴリー大森林
「ふぅ、ようやく八分の一か」
約100kmの距離を休み休みで歩いていた。やっぱりボクが足を引っ張っているようで、ボクが休すんでいる間にも、ガイストはボクを背負い歩き続けていた。そのおかげもあり、【パンタシア大霊峰】を無事に出ることができたようだった。
そして現在いるのが【レヴリー大森林】。半径300kmにも及ぶ巨大な森林地帯にボク達はいる。【全地図】の説明によると、森の中心にはエルフが住むと言われている。森の中心にいけばいくほど迷いやすく、帰ることができない。そのため、【レヴリー大森林】は別名【迷いの森】と呼ばれ、恐れられている。中にはエルフを手に入れるためにこの森に挑む者も多々存在する。…しかし、そんなもの達の中に生きて帰って来るものはいなかったらしい。
「ふぅ、この森を一直線で抜ければ、早く着くかもね」
『ダンナ、この森…相当やばいぞ。特に中心はな。できれば迂回していきたいんだが…』
『不本意ながら私もガイストと同じ意見です。あの中心に向かえば、きっと生きては帰れない…そんな気がしてしょうがないのです』
ガイストとスルトが同じ意見になるとは珍しい。この数日、意見が結構な確率で食い違っていたのに、今回は同じとはね。まぁ、それほど危険な場所にいるって感じてるんだろうね。…ボクには全くわからないけどさ!
ほかの五人のはどんな反応をしているのか気になったので見てみたが、顔を青ざめさせていたり、目にそもそも光がなかったり、目を閉じていて何も見えなかったりと二人と同じような反応をしていた。
「…野生の勘か、それとも経験か」
『どうしたのだ~?』
「それじゃあ、みんなの意見を尊重して突っ切るんじゃなくて、少し遠回りをしていくとしようか」
『…それがいいと思います』
いつも閉じている目を微かに開きボクを見るのはナイトメア。通称メア。未来に起こる出来事を先に見ることができる固有スキル【先見の魔眼】を持つ彼女は普段、その力を使えないように封印している。しかし、危険な出来事が未来に起こりそうになると封印の力を越え、勝手に目が発動してしまうらしい。で、今の彼女はその、危ない感じを見てしまった状態である。
契約してから数日、一度も会話をしていないメアが話したということはそれだけまっすぐ突っ切ることはやばい出来事につながる行動だったのだろう。
「さて、まっすぐ進むことは諦めるとして、右と左どっちに進みたい?」
『私は左ですかね』
『右がいいのだ~』
『俺は右だな』
『妾は左じゃのぅ』
『オレは左』
『…右』
うん、見事に半分に分かれたね。後はゼーレの意見次第で行く場所が変わるんだけど、筋骨隆々のゼーレは真っ直ぐ正面だけを見ていた。なんて答えるか既に察することができている自分が怖い。絶対にまっすぐ直進するっていうに決まってるよ。
『吾輩は真っ直ぐ正面だけを進んでいくのだ。吾輩の筋肉の前では全ての生物が無力と化すのだからな』
「やっぱりか」
ボクの予想通りゼーレは真っ直ぐ進むと言い出した。それだけならよかったんだけどね。
『さぁ、どんどん行くぞ。皆、吾輩の後ろに続くのだ』
「あぁ、やっぱりこうなった。仕方がない。みんな行こうか」
『…でも』
「んー、大丈夫大丈夫。きっとあの筋肉がどうにかしてくれるからね。あのSTR特化だったらね」
ゼーレが拳を握り、道を阻む木々に殴りつける。木々は轟音を上げ圧し折れ、折れた木の上の部分を持つと槍のように投合する。目の前には木々はなく、道ができていた。遠くを見れば、ある一定の場所までは道ができているのだが、その場所以降はまるでバリアが張られているかのように横の木々が倒れていた。
「ふむふむ、あの場所までは迷うことなく進めるようだね。たぶん、あの先がエルフが住むと言われている森の端なんだろうね。あれを越えようとすれば、きっと危ない目に合うんじゃないかな。どうする、ゼーレ」
『吾輩の筋肉の前ではすべてが無力。あんなバリアなど簡単に壊して見せるわ‼』
『待て待て待て、破壊は俺のほうができるにきまってるだろ。ダンナ、あのバリアの破壊は俺に任せろよ』
『…なんで破壊することを前提で話しているの?』
そうだよね。メアのいうとおりだと思うよ。メアの心配もわかる。危険な目に合うっていうのがわかっているのに、あえて中心に進もうとしているんだからね。端から見ればバカジャネーノって話なんだけどさ。最短の距離を進むためには通らないとはいけないんだ。
「それじゃあ、さっさとあのバリアまで行くとしようか。言って200km歩かなくちゃいけないんだけどさ」
『歩くのが面倒なら俺が背負うか?この距離だったら三分ぐらいで着くぞ?』
「あ、そうなの。じゃあ、お願いしようかな」
『あぁ、任せてくれ』
ガイストはボクを背負うと地面を強く蹴る。踏み込んだ場所は大きく陥没している。エグい。顔に当たる風が凄く痛い。でも、すぐにバリアのような物がある場所まで着いた。後ろには必死に着いてこようとするAGIの低いゼーレが遙か遠くに見えた。
「ステータス200の差って、こんなに高いんだね。ボクが走ってないからどれくらい違うのか分からないけどさ!」
『…気持ち悪い』
「大丈夫、メア?顔、青いけど」
『…大丈夫。ちょっと速さに酔っただけ』
顔を青ざめさせ、今にも吐きそうなメアの背中を擦る。あ、吐いた。
メアも吐き終わる頃、息を荒らげながらゼーレがやって来た。バリアを割ろうとしていたゼーレは呼吸を整えると、僕らの道を阻むバリアの前まで歩いて行った。ん?ガイストも一緒について行ったけど、何をするつもりなんだろう。
『吾輩の筋肉の前では全てが無力だ。故に、マッスルブラスト!!』
魔力を腕に集めると、筋肉が膨張し一回り大きくなる。右腕を振り上げると、バリア目掛けて振り下ろした。ぶつかった瞬間、轟音を上げながらも殴る力を強める。それを何度も続けているが、一向に壊れる様子を見せない。
『な、なん…だと、吾輩の筋肉を持ってしても壊せないとは。まだまだ極める必要があるな。うむ、いい経験だった』
「あぁ、諦めるんだ。まぁ、次があるだろうからね。それまで頑張って鍛えてくれ」
『あぁ、分かった』
割れないバリアの前で腕立て伏せを始めるゼーレ。STRが6000あっても割れないバリアって、どれだけ強固なんだろうね。困難じゃ、ボクのような力じゃ絶対に割れないよ。
そういえば、ガイストはなんでバリアの前に行ったんだろう?ゼーレでも壊せないんだから、ガイストのSTRじゃ絶対に壊せないと思うんだけどな。
そんなことを思っていると、バリアに手を伸ばす。バリアの一部を掴むと、強く握りしめた。直後、握られた場所からバリアがちぎれ始めたのだった。
『あぁ、やっぱりか。ダンナに名前を貰ってから、破壊の力が強くなった気がしてたんだが…まさか、ここまで強くなっているとはな。思っても見なかったぜ』
一部が千切れたバリアはまるでジグソーパズルのようにバラバラに崩れ去ってしまった。これにはゼーレも唖然と行った表情で見つめていた。
「これが破壊なんだね。これってSTRと関係があるのかな?関係が無いならSTRが0のボクでも破壊することが出来るって事だよね」
近くに倒れていた木の端を掴み、ガイストと同じように握る。しかし、全く壊れる様子は見せない。パシップスキルは常時発動のスキルだと思うのだが、発動するきっかけが必要なのだろうか。…そういえば、パシップスキルじゃねえじゃん。
そもそも契約スキルって、どういうことなんだろうね。契約を
した者達のパシップスキルの一つがボクも使うことが出来るようになるっていうのはなんとなく分かるけど、こうして使おうとしても使うことが出来ない以上、何かしらの発動するための条件がきっとあるんだろう。
「ねぇガイスト。キミが破壊しようとするとき、何か頭で考えているかい?」
『そうだな。俺は物がバラバラに崩れるイメージでやっているな』
「なるほどね、ありがとう。参考になったよ」
『それは良かった。ダンナの助けになれて嬉しいぜ』
物がバラバラに崩れるイメージでやっているからあのバリアはあんな風に崩れてしまったのだろう。イメージしたとおりに壊せるのであれば、ボクはバラバラに崩れ去るじゃなくて、そのものを消し去るイメージで木の端を掴む。
バシュッ。小さくそんな音共に木の端は消滅した。もはや破壊じゃなくて消滅だね!でも、これなら力のないボクでも下剋上的な何かができるかもしれないね。
「さて、契約スキルの使い方もわかってきたから、さっさとバリアの先に行こうか」
『は、はい…』
『…本当に行くの?やめよう』
「んー、どうやらそういうわけにもいかなくなっちゃったから、行くことにしようか」
バリアを割った瞬間から、ボク達を囲むように緑色のローブを被った怪しげな集団が現れた。弓のようなものを手に、ボク達を警戒するように矢を番える。弦を引き絞り、今にも放ちそうな雰囲気を纏っていた。うんうん、なんでこんなことになったんだろうね。ボク達何も悪いことはしてないと思うんだけどさ。
「おい、人間。我らが領域に踏み込むとは。…何が目的だ」
「目的も何も、最短距離でこの森を突っ切りたかっただけさ。だから、ちょっと邪魔だったバリアを破壊しちゃっただけだぜ。だからさ、ボクは悪くないんだよ。こんな場所にバリアを張った人たちが悪いわけでさ」
「なんだと。はぁ、素直に謝罪をすれば何もしなかったのだがな。…ここまで侮辱されれば仕方がない。オイ、連行するぞ」
「「了解」」
ボク達は魔力でできた鎖のようなものに縛られ、森の奥へと連れていかれたのだった。…中心に迎えるんだから結果オーライってやつだよね!