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化け物

 暖かい日差しの下、860km先にある【リングル】と言う町に向かって歩いていた。現在地は人が手を付けていない未開の地と言うこともあり、道は整備されておらず獣道のままだった。木々に覆われ、暖かい日差しが森の中まで入ってこないという事が当たり前なほどだった。獣の雄叫びや大地を踏みしめる音、蛇を威嚇の声などは夜の方がマシだったと思わせられるほどの物だった。

 決して見えないという訳では無いのだが、薄暗く見えづらい。そのため、周囲に浮かせていたファイアーボールが役に立つ。本来ならば、ライトと言う魔法をこういう場面で使うらしい。しかし、光魔法をボクは持っていないため、ファイアーボールで対応していた。


「全く、こんな風に見えづらいのも悪くない物だねぇ。快適すぎるのも悪くないけど、少し不便な位が楽しくていいよね」


 ボクの呟きが聞こえているのか、頭の上に留まるスライムが跳ねる。このスライムはつい先程、ボクの頭に落ちてきた小さなスライムで、種族は【粘体生物(スライム)】と言う種族らしい。このスライムが進化することで様々な上位のスライムになることが出来るらしい。どんな風に進化をするのかは未だ分かっていないらしい。住む環境によって変わるのでは?と研究者の中では話されているらしい。

 らしいというのは、噂の域を出ていない話だからだったりする。そもそも研究者達もどこにでも居るようなスライムに興味の欠片も無い。しかし、中にはスライムについて研究している変わり者もいる。その変わり者の行動が目立ちすぎるが故に、こんな風に研究者全体がそう考えているのではと思われることになってしまったのだった。


「スルト、そんなにそれは美味しいのかい?」


 頷くように体を震わせるスライムこと、スルト。彼が食べているのはボクが周囲に漂わせてるファイアーボールだった。熱そうなそれを美味しそうに食べるスルトの体は、眩い程のの白色に染まっていた。最初に出会ったときは透明に近い水色だったことを考えると、食べるものによって色も変わってくるのだろう。その証拠に眩い程の白いファイアーボールを食べていたスルトの色はファイアーボールの色と同じような色になっていた。もう一匹居れば、闇魔法のダークを食べさせてみたいものなんだけどね。


「ねぇ、スルト。一匹スライムを捕まえてきてくれないかな?」


 ぷるぷると体を震わせると頭の上から降り、何処かへ転がっていった。このまま歩いて行くとスルトが帰って来れないという可能性もあるので木にもたれ掛かり、待つことにした。しかし、ただ待つのも時間の無駄だと思ったので、先程言ったダークの練習を始めた。


「ファイアーボールと同じ要領で、イメージを浮かべながら詠唱をしたらいいんだよね。えーっと、『闇よ、世界を閉ざせ。ダーク』」


 黒い魔力が無数の球体と成り、ボクの周囲を漂う。ファイアーボールが在ることで、より暗さが際立っている。魔法を編むために魔力を使えば、維持するために魔力を使う必要は無いようだ。魔法を編む時に起こる倦怠感が周囲に漂わせてる時には無いところを見ると、そう考えて間違いないだろう。

 ぷるぷる。頭の上に二つの柔らかい感触がする。そのうちの一つを持ち、目の前に持ってくる。こっちの方はスルトのようであった。


「と言うことは、もう一つの方が別のスライムってわけだよね」


 ぷるぷると震えながらボクの頭の上で跳ねるスライム。はは、全く可愛い奴め。

 早速、スルトが連れてきてくれたスライムにダークを与えてみる。スルトがファイアーボールを食べたとき同様、ダークをモグモグと食べ始める。食べる速さはスルトほどでは無いため、この分だとダーク一つを食べるために二時間は掛かることだろう。

 色の変化はすると以上に早く起こった。闇魔法に元々適性があったのだろうか。スライムの体は透明に近い黄緑色から徐々に漆黒に染まっていく。色が染まるにつれ、ダークを食べる速度も速くなっていく。二時間は掛かるだろうと思っていたけど、物の数分で食べ終わっていた。


 げふぅ。小さく息を吐く音が聞こえた。ぱたぱたと何かが飛んでいるような音も聞こえてくる。今まで聞こえていなかったはずの音に、首を傾げる。どこから聞こえるのか、それはボクの頭の上から聞こえてくる。しかし、二つの柔らかい感触はそのままだった。この短時間に進化したと言う可能性も考えられないわけでは無い。しかし、進化という物は劇的で、大きな変化が現れるとばかり思っていた。時間が掛かり、ピンチの場面でこそ、進化する物だと思っていた。


「うわぁ、マジかよー」


 ボクの頭を離れ、二匹のスライムが目の前に浮く。一匹は赤い二つの角を生やす人型に。人間のような腕の他に、背中から巨大な腕が二本生えている。こちらがスルトだった物。もう一匹は黒い翼を生やす人型に。人間のような体型の他に、背中からは枝のような細い翼が生えていた。枝分かれした翼の先には七色の宝石のような物が付いていた。こちらがダークを食べていたスライムの方。…名前を考えた方がいいかも知れないな。二人とも、見た目的に性別は女の子っぽいしね。それ相応の名前を考えるとしようか。


「よし、お前は今日からメトゥスだ。よろしくな、メトゥス」

『よろしくお願いします、主様!』

『よろしくなのだー』


 ボクを主様と呼んだのはスルトで、語尾を伸ばしたのはメトゥス。なんか、ボクの周りに集まってくる生物、みんな女の子な気がする。…もしかして、この世界には女の子しか存在していないのか!?気持ち悪いにも程がある。どちらか片方しか存在していない世界とかバランスがおかしすぎて、なんで生物が生まれているのか疑問に思うからねえ。カタツムリ的な奴だったらともかく、人間はまず無理だろう。


「…もしかして、同性同士でも子供は作れるのか」


 その考えに至ったボク自身に戦慄を覚える。いや、その可能性が無いわけでも無い。限りなく少ないけど、絶対無いとは言い切れない。何故ならば、世界に絶対という物は存在していないから。

 努力をすれば絶対に夢は叶う?努力は必ず報われる?ハッ、ばかばかしい。自分がしていることを努力していると思っている時点で夢なんか叶うはずが無い。いくら頑張ったとしても、必ず報われるとは限らない。それで報われるのはごく一部だけだから。そのごく一部の奴はきっと『努力は報われる』と言う言葉を言うんだろうね。


「さて、スルトとメトゥスのステータスを見せて貰うよ」

『もっちろん、主様ならいいよ!』

『そーなのだー』


 スマホを開き、スルトとメトゥスの写真を撮る。…やっぱり、写真を撮らなきゃいけないって言うのは不便で仕方が無いよね。出会ってこんなに早く進化したのには何かしらのスキルを持っているのか、それとも進化を須知ための必要な要素をボクが二匹に分け与えていたのか。今考えることが出来るのはこの二つだろうか。

 これらはステータスを見れば全て解決するだろうからね。


☆ステータス☆

名前:スルト(人型)

Lv.1 (レベル初期化済み)

STR:3650

DEX:80

DEF:370

AGI:930

INT:360


パシップスキル:【空間倉庫Vv1】【痛覚耐性Lv1】【剛腕Lv5】【火焔Lv3】

アクティブスキル:【火魔法Lv3】【補助魔法Lv3】【体術Lv3】

固有スキル:【捕食Lv5】【自動再生Lv3】

契約:工藤和那(火焔の加護)

加護:【火焔の加護】

称号:【最弱の種族】【覚醒者】【超越者】【種族の壁を越えた者】


名前:メトゥス(人型)

Lv.1 (レベル初期化済み)

STR:230

DEX:4620

DEF:3970

AGI:2640

INT:3510


パシップスキル:【空間倉庫Vv1】【痛覚耐性Lv1】【鉄壁Lv5】【闇黒Lv3】

アクティブスキル:【闇魔法Lv3】【補助魔法Lv3】【剣術Lv3】

固有スキル:【捕食Lv5】【自動再生Lv3】

契約:工藤和那(闇黒の加護)

加護:【闇黒の加護】

称号:【最弱の種族】【覚醒者】【超越者】【種族の壁を越えた者】


 スライムだったときのレベルは分からないが、進化するとレベルが1に戻るようだった。しかし、ステータスも初期化されないようだ。レベルが1に戻ったため、またレベルが上がりやすくなったことだろう。実際に何かと戦わせてみるのがいいのだろう。

 

「でも、手頃な相手が居ないんだよねぇ。どっかに程良い奴がいないものかねぇ?」

 

 そんなことを呟いていると、後ろの方の茂みからガサガサと言う音がなる。中に浮かせていたダークを茂みの方に飛ばす。すると、茂みから動物のような物が姿を現した。赤黒い靄のような物で姿を隠した『ナニカ』だった。その存在は確かにボクの方に視線を向けた。その瞬間、

 

 ゾクッ


 ボク達は、呼吸という物を一瞬忘れてしまっていた。勝てない。今すぐ逃げなきゃいけない。頭では分かっているのに体が言うことを訊かない。逃げなきゃ死ぬ、それも理解している。でも、駄目だ。恐怖で体が思うように動いてくれない。 

 ボク達が動けていない間にもナニカはボク達へ近付いてくる。獲物が恐怖しているのを楽しむかのようにゆっくりと近付いてくる。ナニカは手を振り上げる。


「GYUAaaaaaaaaaaa!」


 叫ぶと、その手には赤黒い靄のようなものが集まり始める。アレに触れてはいけない。多分…いや、きっと当たってしまえば死んでしまうことだろう。それがボクにゆっくりと振り下ろされようとする時、ようやく体が言う事をきくようになった。

 体の周りに浮いていたファイアーボールとダークを手当たり次第にぶつけていく。何発も何発も。無くなってしまったなら、何度も魔法を作り出しぶつける。そのうち、ナニカの姿は土埃によって見えなくなっていた。


「ハァ、ハァ、ハァ……ハァァ。これでどうだ」


 体感では既に一時間程度経ったような気がする。実際には数分も経っていないだろう。しかし、何度も魔法を使ったことで、倦怠感に襲われていた。これだけやれば大丈夫。少しくらいはダメージを与えることが出来ている。そう思っていた。

 だが、それは土埃が晴れたことによって、一瞬で崩れ去った。無傷のナニカ…いや、化け物は平然とボクを見下ろしていた。微かに口元を歪めているような気さえした。


『主様から離れろ!放つは一度、消し去るは世界。我が炎よ、敵を消し去る刃となれ。レーヴァテイン』

『そーなのだー。光の滅ぼし、世界は闇に堕ちる。ディアボリック・エミッション』


 スルトの手には緋色の刀が握られ、それを化け物に向かって投合する。それは化け物にかすり後ろのあった巨木に突き刺さる。その瞬間、巨木は灰に還る。

 メトゥスからは魔力が化け物に向かって放たれる。近くによれば飲み込まれそうに成る程どす黒い闇が化け物を呑み込んでいく。まずは指先を、徐々に右腕を呑み込む。右肩まで呑み込まれたかと思うと、化け物は腕を切り離し何処かへと逃げ去った。


「ははっ」

『大丈夫ですか、主様!』

『大丈夫、あるじ?』


 乾いた笑みが零れる。二匹が化け物を追い払うまでボクは何も出来なかった。もし、ボクがスルトとメトゥスに出会っていなければ確実に死んでいただろう。二匹…いや、二人がいなかったらもう一度したその瞬間にボクはきっと死んでしまう。

 あまり考えていなかったけど、ボクも強くならないといけない。攻撃をする手段はともかく、どんなに強い攻撃が来ても死なないような堅さを。ボクのステータスのいいところはそれくらいしか思いつかないからね。


「さて、このままあの化け物に合わないことを願いつつ、ゆっくりレベル上げをしながら【リングル】にでも向かおうか」

『はい、主様と共に』

『何処までもついて行くよー』


 さて、最初はゴブリンのような弱そうな奴から倒していこうか。…でも、そもそも何処に居るんだろうね?

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