表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/7

幻獣と妖精

…眠れない。というよりは寝心地が悪い。木の上で眠るという選択は間違えたかもしれないね。でも、地面で眠るよりは安全だと思うんだけどさ。下を見ると血走った目で何かを探す巨大な狼、他の蛇を殺そうとする一際巨大な蛇。こんな奴らと一緒に眠ることになっていた。そう考えると寝心地が悪くても木の上で寝たことはきっと正解だろう。

 スマホを使って蛇や狼について調べたところ、狼の種族は【神喰狼(フェンリル)】で、蛇の種族は【千魔蛇(アジ・ダハーカ)】ということが分かった。図鑑で見ると三つの顔があるところを見ると、一つしか顔がない今の状態はわざと弱体化させている状態なんだろう。


「いやぁ、マジで怖いわ。マジで人外魔境だろここ。あ、異世界な時点で人外魔境だわ」


 くだらないことを考えながら横になるのをやめ、木の上に座る。足のすぐ下を動物…いや、幻獣達は這いずり回る。正直、怖いという以外の感想がわかないな。いつ喰われるかもわからない。それに巨大な奴らがうようよといる。少しでも動いただけでもエンカウントしそうで下手に動くこともできない。

 現実から逃げるように視線を空に向ける。巨大な満月がボク達を照らし出す。地面にはボクの影、そして誰もいないはずの隣には人の姿をした影が映っていた。恐る恐る隣を見るとニッコリと笑みを浮かべる女の人の姿があった。


「こんな場所に人間が来るなんてね。もの好きなんだね、キミ」

「いやいやいや、別に好きでこの場所にいるわけじゃないよ。気が付いたらこの場所にいただけなんだよ。で、キミはなんでこんな場所にいるの?こんな危険な場所にさ」

「私はここに住んでるんだよ。私はルフェイ。モルガン・ルフェイよ。あなたは?」

「ボク?ボクはカズナ。よろしく、ルフェイ」


 前に出された右手を握る。いわゆる握手ってやつ。それにしても人生初めての握手がルフェイのような美少女っていうのも嬉しいものだよね。それにしてもモルガン・ルフェイか。アーサー王伝説に登場する美しい湖の妖精の名前に似てるよね。そういうものを元とした世界なのであれば、なんなの不思議もないけどね。とはいっても、アーサー王伝説に出てくる妖精の名前は『モルガン・ル・フェイ』なんだけどさ。

 

「ねえ、ルフェイ。キミは魔法が使える?」

「ん?もちろんだよ。カズナに教えてあげようか?」

「是非」


 まさか異世界に来てこんなに早く魔法に触れることができるなんて思ってもみなかったね。実際この世界に来てまだ一日目なんだしさ!

 魔法を教えてくれるというルフェイの掌には暗赤色の火でできた球体ができていた。触ってみようと手を近づけるが、少し手を伸ばしただけで熱くとても触ることができるものではなかった。


「あまりほかの人の魔力には触れないほうがいいよ。魔力の波長が合えばこんな火の塊に触れても熱くない。でも、魔力の波長が合わなければこんなに小さな火でも火傷するよ。ちなみにこの魔法は『ファイアーボール』だよ。一番最初は詠唱が必要だよね。詠唱は『小さき炎よ、我が手に集まれ』だよ。さあ、やってみよう‼」

「小さき炎よ、我が手に集まれ。FireBall…あ、違った。ファイアーボール」


 小さな炎の塊がボクの周囲に無数に現れる。ルフェイの掌に現れた火の塊とは違い、眩いほどの白色をした火の塊だった。暗赤色の火は約600℃なのに対し、眩いほどに白色の火は1500℃。圧倒的にボクのほうが温度としては高いよね。

 あ、これがあれば夜も歩き回れるんじゃないかな。幻獣はどうだかわからないけど、動物たちは火が怖い。だからこそ、普通の森だったらこれを漂わせながら歩けば安全だと思う。…幻獣はどうか知らないけどね!


「綺麗な色をした火だね。私のファイアーボールとは大違いだよ。それに、すっごく熱いよ。蕩けちゃいそう」

「なんで下腹部を押さえてるの?木の枝、少し濡れてるし」


 ルフェイの座る木の枝が僅かに湿気を帯びている。一体何があったんだろうね。顔も危ないし…。

 グルルルル。

 何かの唸り声のような物が聞こえてくる。聞こえる方向に視線を向けると、こちらを見る【神喰狼(フェンリル)】の姿があった。その頭は微かに湿気を帯びている。よく見てみると、木の枝から落ちる水滴によって濡れてしまったらしい。それに切れたようだった。


「グルアアアア!!」

「キャアア、フェンリルが、フェンリルが襲ってきた!!」


 ボク達のいる木に飛びつこうとするフェンリル。それを見て、落ちてしまうルフェイ。獲物が落ちてきたとばかりにフェンリルはルフェイに襲いかかっていた。魔法が使えると言うにもかかわらず。使っていないところを見ると、相当テンパっているらしい。

 フェンリルはボクに気付いていないのか、無視している。そのため、ボクがテンパる事は無かった。そのため、丁度真下にいるフェンリルに跨がると、ルフェイが襲われる様子を見ていた。え?外道?鬼畜?褒め言葉ですな。


「どうでもいいから助けてよ、カズナ」

「もう少し見ていたかったんだけどね。仕方が無い。ほら、フェンリル。…伏せ」

「グルゥ」


 ボクの一言に静かに伏せるフェンリル。きちんと伏せたファンリルの顎をくすぐるように優しく撫でると、嬉しそうに尾を振る。犬にとっての気持ちのよい箇所とフェンリルのそう言う箇所が同じようだった。ただこの巨体を居ぬと同じように扱うのは些か大変なところがある。なんせ、10mも在る。これを撫でるのも一苦労だ。


「でも、凄く楽しそうな顔をしてるんだよな。このフェンリル」

「グルゥ!」


 ボクに腹を向け、警戒していないことをアピールしている。全く、可愛い奴め。動物と触れ合っていると、なんか心が洗われるような気がしていいんだよな。ボクはまだ変態という領域にまでは行っていないから、子供や可愛い動物たちで心が浄化されて失神するような所までは行かない。ただ、可愛いと言うだけではある。


「よーし、よしよしよし。お前は可愛い奴だな、本当に」

『ありがとう!』

「いやいや、どういたしまして…って、えぇ!?」


 今、ルフェイの声でも無く、ボクの声でも無い声が聞こえてきた。その声はルフェイには聞こえていないのか、不思議そうにボクを見ていた。撫でているフェンリルを見ると、確かに頷いていた。と言う事はこいつがボクに話しかけている声の主という認識で間違い無いだろう。


「お前がボクに話し掛けているのか?」

『え?私の声が聞こえてるの?そんなわけ無いよね?ね?聞こえてるなら反応してよね!』

「うわぁ」

「どうしたの、カズナ。そんな顔をして」


 あんなに獰猛だったフェンリルがこんな幼い女の子の声をして話し掛けてきたら、思わず顔が複雑な表情になるのは仕方が無いと思う。それにしても、ボクには異世界の動物の言葉が分かる特典なんか無かったような気がするんだけど、どういった仕組みなんだろうね。心を許した生物の声を知ることが出来るみたいな力があるのかねえ?


「ないわー」

「何が無いの?さっきからどうしたの、変だよ?」

「いや、ロリボは無いだろう」

『私の声が聞こえている…だと!?』


 戦慄した様子のフェンリル(ロリボ)。声が聞こえていると思わなかったのか、狼狽するフェンリルの様子が面白く、くすぐる手を激しくする。キャーと言う悲鳴を上げながら、くすぐったそうに目を細める。いくら種族が違うとはいえ、(フェンリル)(ボク)に腹を見せるのはどうなんだろうか。

 それに気が付いたのか、四つん這いに戻るフェンリル。しかし、今更遅い。


「カズナ、このフェンリル凄く怖いんだけど?何かした?」

「ボクは何もしてないよ。これが自爆しただけだから。ボクは悪くないよ」

『私の恥ずかしい姿を見たお前を噛み殺してやる!!』


 口を大きく開け、ボクを噛み殺そうと飛びかかる。小さい猫や犬だったらまだよかったんだけどね。これだけ大きいと逃げるのも一苦労だよ。さて、昼間はAGIの確認をしたっけ。だから次はDEFを確認するとしようか。耐性が100と言うのがどれ程の物なのか分からないと言うのが理由だった。

 動かないボクは怖くて逃げることが出来ないと思っているか、ゆっくりと近付き怯える様を楽しんでいた。ボクは別に怖がってなどいない。しかし、隣にいるルフェイは別だった。号泣し、絶望し、地面に座り込んでいた。まぁ、10mもある狼が見下ろしていれば、怯えるのも無理は無い。しかし、さっきのアレを見た後だと怖さも無くなる。


『喰らえ!!』


 その声と共にボクの腕目掛けて噛み付く。全力で噛んでいるのだろう。息が荒い。痛みは無い上に、牙は腕に食い込んですらいない。あいつが弱いのか、それともボクが堅いのか。あ、そうか。他人のステータスを覗いてみればいいのか。そうすれば、ボクのステータスがどれくらいなのかも分かるかも知れないしな。

 スマホを取り出し、パスワードを打ち込む。これで、アプリも開くことが出来た。それを使いルフェイのステータスを確認する。あ、写真を撮らないとステータスを知ることが出来ないって、少し不便だよねえ。


☆ステータス☆

名前:モルガン・ル・フェイ(状態異常:気絶)

Lv.65

STR:100

DEX:570

DEF:20

AGI:349

INT:985


パシップスキル:【詠唱省略Lv3】【並列詠唱Lv2】【認識阻害Lv2】【精神異常耐性Lv2】

アクティブスキル:【光魔法Lv3】【水魔法Lv5】【治癒魔法Lv2】【補助魔法Lv1】【魅了魔法Lv1】

固有スキル:【精霊魔法Lv3】

称号:【ドジっ子魔術師】【覚醒者】【湖の妖精】【ユニークキラー】


 レベルが65も在るにも関わらずDEFが20しかないのは、ルフェイが特別脆いのか、それともボクが堅いのか。結局分からないままで終わった。こういう分からないことは、直接人に訊いた方がよかったかも知れない。

 スマホから視線をずらし、目の前に居るフェンリルと目が合った。顔を真っ赤にしながらもボクの腕を噛み続けていた。少しイラッとしたが、いったんそれは置いておいて、隣で尻餅付いているルフェイに質問をする。


「ねぇ、ルフェイ。DEFってどれくらいまで上がるの?」

「はひっ…はい。この世界で一番堅い人は確か、500位だって本には書いてあった気がするよ?そ、それにしても、それ、痛くないの?」

「全く痛くないよ?不快感は感じるけどね」


 カジカジと腕を齧るフェンリルがいい加減鬱陶しく感じてきた。そのため、未だに周囲に漂う火の玉を弾丸のように螺旋状に圧縮し、無数の銃弾に変える。そのうちの一発を人差し指と中指の間に挟み込む。先程火の塊を作り出したときに感じたそれを二つの指に集める。指は赤い光を放ち始めた。


「そろそろ頃合いかな。オイ、フェンリル。死なないとは思うが、覚悟はしろよ」

『ふぇ?どういうこと?』


 火の弾丸が挟まれた指をフェンリルに向ける。指を弾丸と擦り合わせ、そのまま指に集めていた魔力を爆発させる。銃から放たれたように火の弾丸は飛び、フェンリルの横を掠め、後ろにあった木に着弾する。木は激しい炎と共に灰と化し、消えて無くなった。

 その火力にダラダラと滝のような汗が流れ出す。ゆっくりとボクの腕から口を離す。ふぅ、ようやく解放された。こいつもこれでもう襲ってこないだろうし、ゆっくり眠ろう。そう決めるが、既に太陽は昇っていたのだった。


「結局眠れなかった」


 昇ってしまった太陽に怨みの視線を向けるが、気にした様子も無く光り輝き続ける。さて、ソロソロ【リングル】にでも向かうとするか。怯えたフェンリルと気絶したルフェイを放置すると、再び周囲に火の塊を漂わせながら、ゆっくりと【リングル】に向かうのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ