ステータス
二話目の更新です。前回よりは短いですね。
青い空白い雲、空気な綺麗な森林。気が付けばボクはどこかの森の中にいた。獣の叫び声や虫の鳴き声が耳に入ってくる。これだけ聞けば普通の森に感じるだろう。
しかし、視線を空に向けると、翼の生えた白馬…俗にいうペガサスというものや、ワイバーンと呼ばれる幻獣たちに近い姿をした存在が空を飛んでいた。飛行機が飛んでいたり気球が飛んでいたりするのであれば、ここがボクがいた地球だと思うことができただろう。
だが、そんなものは一切なく、伝説や神話などに存在するような生物が空を飛んでいた。これを見ればボクは異世界に来てしまったと感じるのも無理はないだろう。
「ふ、ふー。や、やれやれだぜ」
死ぬ前に感じていた痛みは無い。刺された傷も無ければ、手当てされた後も無かった。服装は死ぬ直前のものだった。死んでしまったその瞬間に服装や体が元通りに戻り、別の世界に来てしまったノかも知れない。
異世界転移や勇者召喚なんてものは小説の中の主人公の特権だと思っていたんだけどね。まさかこんなことを実際に体験することになるとは思わなかった。そもそも勇者召喚や異世界転移なんてものは主人公補正による物だと思う。だからこそ、遥秋や色璃のような才能溢れる奴らが巻き込まれるものだと思っていたんだけどね。…本当にこんなことに巻き込まれるとは思わなかった。
「もし、ここが異世界だというのであれば、自分のステータスでも確認できるんじゃないかな。もしかしてステータスを確認することにも才能がかかわったりしてね」
異世界=ステータスという方程式が頭の中にあったため、何気なくそんなことを呟いていた。ステータスという言葉を言い終わった途端、ゲームのようなステータス画面が頭の中に浮かび上がった。
そこには、次のように書いてあった。
☆ステータス☆
名前:工藤 和那
Lv.1
STR:5
DEX:15
DEF:100
AGI:15
INT:20
パシップスキル:【痛覚耐性Lv8】【空間倉庫Lv3】
アクティブスキル:【闇魔法Lv1】【火魔法Lv1】
固有スキル:???
称号:【異世界人】
「ははは、マジかよ。本当にステータスが出てきたよ」
本当に出てきたステータスの画面に思わず、苦笑いを零す。ライトノベルなどでは言語翻訳の能力や他人のステータスを確認するような能力があるとは思うのだが、そういうのは主人公の特権のようだった。その力がないということはボクではない誰かがこの異世界を救う主人公なのだろう。
人が死んでしまって、全員が全員この世界に来てしまうのであれば、話は別。死んでしまった人は基本的に天国や地獄に行ってしまうのだろうけど、果たしてここはそういった場所なのだろうか。
「まぁ、天国や地獄なんだったらそもそもステータスなんてものは必要ないと思うけどね!」
ここを死後の世界ではないと仮定し、これからは行動していこうと心に決めた。心に決めたといってもあたりを見回してもあるのは木、木、木。たまにボクの近くを巨大な蛇や虎、蜘蛛が横切るが基本的には木しか存在しない。
荒い息遣いが近くから聞こえてくる。周囲を見回そうとすると、突然足元が暗くなる。一瞬のうちに夜になるということはおかしい。ちょっと視線を上へずらす。無言でボクを見下ろす巨大な蜘蛛と虎がいた。蜘蛛は口から僅かに糸を垂らし、虎はダラダラと涎を垂らしていた。
悲鳴を上げるよりも先に足を動かす。敏捷のステータス15というのがどれほどの早さなのかはわからないが、今の全力を出し、化け物たちから逃げる。
体感で20分程経過した頃、動かしていた足を止め振り返る。無事に逃げ切ることができたのか、あの化け物たちの姿がない。必死で逃げる最中、後ろから焔が飛んできたり、毒々しい液体が顔を横切ったのは気のせいだと思いたい。
「あのまま逃げていなかったら、異世界に来てすぐに死ぬところだったのか。リスキルだけはご勘弁だね、まったく」
あれだけ頑張って走っていたのに、息切れ一つしない体を不思議に思いながら、来た道を引き返す。このまま歩いていると森の奥に行ってしまいそうで怖いと思ったからだ。そもそもこんな深い森の中、どちらに進めばいいかもわからないので、動かないのが得策なのは間違いないだろう。しかし、このまま動かないままでいると、先ほどの化け物たちに会いかねないので結局はどこかに動かなければいけないのだ。
どうやってこの場所にまで来たのかはきちんと把握していたので、もともといた場所までたどり着くことはできた。しかし、ゆっくり歩いてきたということもあり、既に太陽は沈み、辺りには闇の帷が下りていた。昼にはあまり聞こえてこなかったはずの獣の声が大きく、遠くまで響いていく。
「あぁあぁ、まったくこんなに真っ暗になって。動きにくくてしょうがないよ。なんか懐中電灯の代わりになる物でもないかなって。…うわぁ、本当にあったよ」
何も入っていないだろと思いながらジャージのポケットの中を漁る。すると、黒い色をした一つのスマホが出てきたのだった。ポケットの中に手を突っ込んでも膨らまないところを見ると、ジャージのポケットはどこか別の空間に繋がっていて、その別の空間に様々な物が入っていると考えることもできる。うん、なるほど。これが【空間倉庫Lv3】というパシップスキルの能力なんだろう。このスキルのレベルが上がっていくと別の空間の容量が増えていくと考えてもいいかもしれない。
「わー、すげえ。スマホでボクのステータスや他人のステータスを見ることができる」
スマホの画面を開くと今まで入っていたアプリの他に、見慣れぬアプリの入ったフォルダが存在していた。そのフォルダは異世界限定と書かれ、四つのアプリが入っていた。
一つ目は【能力値】と書かれたアプリ。そのアプリを開くとボクの今のステータスが記されていた。しかし、頭の中に浮かび上がったステータスにはなかった『装備』という欄が新たに記されていた。パスワードを入力しないと開くことができないようで、パスワードは『リア充撲滅せよ』だった。あ、これはボクが決めたわけじゃないからね?ね?
二つ目のアプリは【全地図】というアプリ。開いてみると現在地や近くにある町や村、方角や国の名前が記されていた。…ふむ、一番近い町は現在地から南に約860km進んだところにある【リングル】という町か。大体8日かけて歩けばきっと着くことができるだろうね。一番近くて860kmって、あまりにも遠すぎないかな?一番近くの町に着けば、ほかの町に行くのに三時間程度で着くだろう。ちなみに今いるこの場所の名は【パンタシア大霊峰】という場所らしい。
三つ目のアプリは【動植物図鑑】というアプリ。この世界に存在する様々な動植物や龍などについての説明が書かれていた。これ一つあれば最低限生きていける‼というのが売りらしい。そのためなのかわかりやすく毒草と薬草の見分け方なども書かれていた。後はナイフ一本あれば生きていくことも可能になるのだろう。
四つ目のアプリは【覗き見】というアプリ。他人のステータスや心の中で思っていること、隠していることや好感度などがわかるアプリ。パスワードを打ち込まないとこのアプリも開くことができないらしく、パスワードは『挫折の迷宮』らしい。…ナニコレ、すごく格好いい。他人のステータスは頭の中に浮かんだステータスと同様のステータス画面が表示され、心の中で思っていることは文字としてスマホに表示され、好感度はグラフとして現れる。最後の奴に関しては完全にギャルゲーってやつと同じなんだろうね。ギャルゲーなんてやったこともないけどさ!
「ん、じゃあ、早速一番近くの町【リングル】に向かおうか」
スマホをポケットの中にしまうと、南目指して歩き始めたのだった。ボクたちの冒険はまだまだこれからだ‼って打ち切りみたいなこと一度でもいいからやってみたかったんだよね。うん。
「あ、でも、まだ夜だから朝になってから動き出そうかな」
最後の最後まで締まらないのはボクのご愛敬だろうね。