プロローグ
初めまして、佐狐です。オリジナルの小説は初めて書きます。変な言葉遣いだったりはしますが、感想欄に遠慮無く書いてください。
それでは、プロローグをご覧あれ。
ボクは天才と呼ばれる人たちが嫌いだ。ボクのような凡人がどれだけ努力しようが辿り着くことの出来ない領域に簡単に辿り着いてしまう。始めた当初は同じくらいのレベルだったのに、少し時間が経ってしまえば彼等はボクを置いてドンドン遠くに行ってしまう。
努力が足りない、言ってしまえばそうなのだろう。しかし、ボクの中から溢れ出す彼等との差に劣等感を感じずにはいられなかった。
だからボクはどうやったら劣等感を感じられなくなるのか、それだけをか考え続けた。春の日差しが心地良い晴れの日も、地面を陥没させるほど土砂降りな日も、荒れ狂うあらしの日も、少し外に居るだけで凍えてしまいそうなほど寒い日も。
春夏秋冬。一年間も悩み続けたボクはたった一つの簡単な方法に辿り着いた。近くにありすぎてその考えに至るまで一年もの月日を使ってしまった。最初からこれをしていればボクは苦しむ必要なんて無かったんだ。
「…あぁ、もう、やーめた」
それは『諦める』事だった。努力しても届かないのであれば、努力することを諦めればいい。こんな簡単な事に気付くためにボクは一年を無駄にしてしまった。…ボクは本当に馬鹿だったんだ。
これはボクが全てを諦め、止まってしまった今から十年前の出来事だった。
高校二年生になった今日、才能溢れる友人と共に学校に通っていた。友人の名は『平崎 色璃』。想像力が豊かで将来は漫画家になることが夢らしい。そのため、毎日町を歩き回ってはスケッチをし、物語を構成しているらしい。しかし、想像力が豊かであるが故に、グロテスクな話しを聴くと鮮明にその情景が浮かび、吐いてしまう模様。
ちなみに彼の漫画にはボクも登場人物として登場させている模様。扱いはモブであるが、ボクは別にそれ以上を望むつもりは無い。ボクは諦めた。今も努力を続けている彼と違って諦めたボクはモブとして出ていることすら十分すぎるのだ。
学校に着いた。クラスは去年と変わらないらしく、溜息を吐きながらもボクは教室の中に入っていく。今までクラスメイト同時で楽しく会話していたハズの生徒達が一斉にボクを見る。モテてしょうが無いぜと言う感情は一切無い。むしろこの状況でそんな感情を抱けるやつがどうかしていると思う。
何故ならば、彼等がボクに向ける視線は軽蔑を浮かべているから。
そんな視線も気にせず窓際の一番後ろにある自分の席へと向かう。色璃はボクのせ機の隣なので一緒に来る。ボクが席に座ると眠りの体制に入る。話せるような人が色璃以外に居ないと言うのもあるけど、昨日はちょっと本を読むのに時間を掛けすぎた。気が付いたら六時だったとか笑えない。
「…ふぁ、眠い」
自前の枕を机の上に置くと、眠りの体制に入る。すると、隣の色璃に話しかけてくる存在が現れた。
「よぉ、色璃。元気か?」
「ウェーイ、遥秋。もちろんだ。お前も元気そうじゃねえか」
「いやぁ、お前ほどじゃねえよ、色璃」
今、色璃に話しかけてきたのはこのクラスの学級委員『禊 遥秋』。金髪でちゃらちゃらと見た目だが、歴とした歌手である。売れっ子歌手と言うこともありあまり学校には来ないのだが、今日はたまたま来ていたらしい。
彼は他の生徒達同様才能ある者達とは対等に会話をする。そう、これがボクのクラスメイト達。凡人がどれだけ努力をしようが辿り着くことが出来ない場所に彼等はいる。同じ領域にいるからこそ、彼等は彼等同士で仲良くする。
…ボクのような凡人は置いておいてね。
四時限目の終わりを告げるチャイムがなる。グループを作りそれぞれ昼ご飯を食べ出すクラスメイト達。色璃もそれに加わり楽しそうに食事をしていた。
「ボクもそろそろ食べようか…あ」
いつも食べている惣菜パンを忘れてきてしまったようだった。この学校には購買という物が存在しないため、お昼を忘れると近くのコンビニに買い物に行くか、誰かに分けて貰うか。後は諦めてそのまま寝るという選択肢もある。弁当を分けてくれるような優しいクラスメイトをボクは知らないので、枕とタオルケットを鞄から取り出すと、屋上に向かう。
屋上に向かう。屋上に入るための扉には鍵が掛かっているため本来ならば入ってはいけない場所なのだ。だからこそ誰も近寄らない。そもそも入ることが出来ないのだから近寄ることも出来ないのは当たり前のことである。そこでボクは学ランの内ポケットから針金を取り出すと、鍵穴の中に入れガチャガチャと弄くり始める。十秒も経つ頃にはガチャリと音を立て、扉が開く。
「ふぅ、やっぱり外で眠るのは気持ちがいいもんだよね。あんな場所で眠るのは大違いだよ。さて、鍵も閉めたし、ボクの睡眠を邪魔する人なんかこれで現れないよね」
枕を地面に置き、横になる。ゴツゴツとしてて痛いという人も居るだろう。しかし、それがまたいい。まだ春だから寒いかも知れないと思ってタオルケットを持ってきたが、必要は無かったかも知れない。心地のいい風を感じながら、再び目を瞑ると寝息を立て始めた。
下校時間になるチャイムで目を覚ます。ポケットからスマホを取り出し、時間を確認する。…午後六時半だった。辺りは薄暗くなってきていた。体を起こし、教室に向かおうとするが、頭に衝撃が走る。
「イタッ」
「あぅ!」
ゴツッと言う音を立てて誰かの頭とぶつかり合ったようだった。額を押さえ立ち上がる。足下に額を押さえて蹲っている幼なじみの姿があった。友達は居ないけど、幼なじみはいるんだよね。…他人曰く美少女らしいけどね。
「かー君、今日も授業をサボったの?ちゃんと勉強をしないとメッだよ?」
「もうそろそろ子供扱いをやめて欲しいんだよね、雛乃。それにしてもどうやってここに入ってきたの?ちゃんと鍵だって閉めたのにさ」
「かー君に出来ることは私にも出来るのさ!きちんと事前に調べたんだ。かー君のいろんな事。お風呂に入って最初に洗うのは右腕だったよね」
「なんでそんなことを知ってるの…って今更か。だって、雛乃。ストーカーだもんね」
彼女はボクの幼なじみ兼ストーカーの『柊 雛乃』。腰まで伸びる黒い髪を首の辺りで一度結んでいる。視力は決して悪い方では無いのだが、オシャレのためか度を入れていないめがねを掛けている。雛乃の教室を覗いてみると大人しい雰囲気を出している。そのため、二大お姉様と呼ばれている。
しかし、それがボクの事に関すると一変する。ちょっとでもボクの話をしていると話している方を凝視しているし、悪口を言っている人が居れば放課後に呼び出してボコるなど。最近はボクが誰かに視線を向けているだけで、帰り際に襲われる。嫌われているのか、好かれているのか。もはや分からないくらいにはね。
「かー君、電話なってるよ。出なくてもいいの?もしかして…女?」
「ボクに友達が居ないことを知ってるでしょ?いつものだよ。まぁ、行かなきゃいけないんだけどさ。いつも教室でやってるし、だからボロボロだったら手当をよろしくね」
「うん、分かってる。…わかってる」
泣きそうになっている雛乃の頭を優しく撫でる。別に痛みなんて無いんだから。体がボロボロになっても気付く事なんて出来ないくらいにね。痛みが無いんだ。トラックとかに轢かれたりしたらきっと痛いと思う。でも、バットやメリケンサック程度なら、なんともないよね。
開いていた扉を閉め、ゆっくりと教室に向かう。教室の中から不穏な空気が漂っている。金属同士がぶつかり合うような音が聞こえてくる。言葉になっていないような叫び声が聞こえてきた。
「あ、これいつもよりやばいやつだ。…え?何処でこんなことになったんだ?」
今日起こったことを思い出す。朝は登校後に爆睡、昼は屋上にピッキングで入って爆睡、さっき起きたら雛乃が…あ、なるほど。雛乃と幼なじみだって今まで気が付かれていなかったのか。それが屋上での事を誰かが見てて、報告して、こんな事になったのか。…あぁ、嫉妬って醜い物だね。ボクも劣等感という形で嫉妬していたから何も言えないけどね。
「オイ、さっさと入れ」
教室の中にいた生徒に見つかり、教室の中に引きずり込まれてしまった。中は昼間のような明るさは無く、暗く黒い瘴気に包まれていた。クラスメイトだと思われる生徒達の手には金属バットやモーニングスター、大鎌や猿轡のような物が握られていた。
逃げようと足を動かそうとした瞬間、縄を持った一人の女子生徒がボクの体を拘束する。猿轡を口にはめられた事によって、喋ることもままならない状態になっていた。単色の瞳でボクを見る彼等のうち、一人の生徒が口を開く。
「何でお前みたいな凡人がさ、雛乃様と会話してるの?恥ずかしいと思わないの?才能の無いお前が、才能溢れた彼女と話すことにさぁ」
グチグチと言いながらボクの腹部を蹴るのは『剣崎 佑斗』。茶髪で黒い眼鏡を掛けたイケメン。剣道部の主将で学校で学校でも有名なイケメン。部活動中は近寄りがたいほど圧倒的な覇気を纏っているが、普段の生活では軽い。そのためか人気がある。彼は雛乃に好意を持っているのだが、まともに話したことも無いため、普通に話しているボクに嫉妬をしているらしい。
「なんか反論してみろよ、凡人。あぁ、猿轡を付けているから話せないんだよな。しょうがねえ、外してやるからなんか話してみろよ」
ボクを見下しながら言葉を続ける佑斗。猿轡を外し、ボクが何を言うのか楽しみにしているようだった。
それにしても、予想通り嫉妬でボクを虐めていた。下手なことを言えば、いつもより過激に暴力を振るわれることだろう。しかし、何を言ったところで暴力を振るわれるという事実は無くならないので、いつものように思ったことを言うとしよう。
「幼なじみの雛乃と話して何が悪いの?あっちから話しかけてくるんだから、断るなんてそれこそ可哀想じゃん。あぁ、ボクのこの場所をキミにあげたいくらいだよ。まぁ、無理なんだけどさ。でも、ボクの事なんてキミには関係ないよね?あ、そういえばキミは雛乃事が好きなんだったよね。だから、ボクのような凡人が二大お姉様に話し掛けてもらえることが羨ましくてしょうが無いんでしょう?じゃあ、ボクから一言キミに言葉を贈らせてもらうよ。…ざまぁみろ」
「ぶっ殺す」
彼のその一言が始まりの合図だった。彼は何時も使っている木刀でボクを頭を殴る。いつも振っているせいか額に木刀が当たり、血液が顔を汚す。流れ出す血液が目に入り、凄くしみる。メガァ、メガァと地面を転がり回りたい気分でもあるのだが、囲うようにいる生徒達に阻まれそれすらすることが出来ずにいた。
痛みは一切無いのだが、血液が無くなってきたからなのかボクの意識は薄れていった。
「かー君!大丈夫!!」
雛乃の心配する声と共に目を覚ます。体を起き上がらせようと手を床に付けるが、滑って倒れてしまう。心配そうに近寄る雛乃に大丈夫だと告げる。
地面を這いずりながら自分の席まで向かうと、鞄からジャージを取り出す。前に血まみれのまま学校から帰ったら、途中で殺人犯と間違えられて警察に捕まってしまったと言うことがあった。それ以来、きちんと着替えやジャージを持ってくるようにした。
ボロボロになってしまった学ランを鞄の中に詰め、夜は少し寒いためパーカーを羽織り、その上からジャージを着る。…少しは暖かいな。
「大丈夫なの、かー君。そんなにボロボロになって、痛くないの?」
「ん?痛みは一切無いよ。ただ不快感は在るけどね。ちょっと血液を流しすぎて、服が血まみれで気持ち悪いかなって程度」
「今日は心配だから一緒に帰るよ。…いいかな?」
心配そうにボクを見つめながらそう言う雛乃。ボロボロなボクが心配なのか、それともボクを守ろうとしているのか。人の気持ちなんて知らないが、どちらにせよ今のボクは簡単に死んでしまいそうなほど弱ってるからね。普段なら刺されても死なないかも知れないけど、今日は死んじゃうよ。
「ボクを守ってくれるならいいよ」
「当たり前だよ!」
男として情けない?でも、今にも死にそうな状態だったら仕方が無いじゃん。
鞄を持ち、教室から出て行く。下足箱で靴を履き替えると校門を出ていく。街灯の無い夜の町を二人で歩く。満天の星空の中、無言の二人が家に向かって帰る。
「今日は普段よりも星が見えるね。…全く、今日死ぬんじゃ無いかな?」
「嘘でもそんなことを言わないでよかー君」
先程から泣きそうなままの雛乃の頭を少し乱暴に撫でる。悲しそうな顔は雛乃には似合わない。元気な雛乃が可愛いと思う。
撫でるのを止め、止めていた足を再び動かそうとすると、耳にドッドッドッと言う荒い足音が聞こえてくる。その足音は徐々にボク達に近付き、気が付けば雛乃の真後ろまで来ていた。
「ど、どけえぇ!!」
振り返り、その足音の主を見る。手には刃物を持ち、その凶刃は雛乃に襲いかかろうとしていた。そのことに雛乃は気付いている様子は無い。
渾身の力を振り絞り、雛乃を押し出す。突然押されたことに驚く目でボクの方を見るが、その目は次の瞬間、悲しみの色に染まる。
グサッ。その刃は肋骨に当たること無く肺を貫通し、心臓まで届かせた。激痛がボクを襲う。久しぶりに感じる痛みに顔を歪めながら、守ることが出来た雛乃を見る。
既に顔は涙のせいでぐちゃぐちゃに歪んでしまっている。あぁ、せっかくの顔が台無しじゃ無いか。いつものように笑っていてくれたらいいんだけどね。
「お、俺は悪くねえ。俺は悪くねえんだ!!」
そう叫ぶと、ボクを刺した男は逃げていく。血液が流れすぎた。考える気力もわかない。でも、これでボクという存在は死ぬ。最後の最後に久しく感じていなかった激痛を感じながら。
ボクの血液によって地面には赤い水溜まりが出来ていた。その中にドサリと音を立て崩れ落ちると、ゆっくりと闇の中に落ちていったのだった。