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例年通りの異世界転生  作者: 黒腹終
3/3

堕ちた「神」終

我々3人は、イヴァイ山の頂上目指して登っていく。リヴォは汗をかいているものの、口元に笑みを浮かべ力強く進んでいく。それとは対照的な男は汗をダラダラとかき、余裕の無い顔でのっそのっそと歩を進めていく。ここらの気温は存外高い訳ではない。日頃の運動不足が招いた結果だろう。全くだらしないったらありゃしない。男が私を睨み付ける。


「(あんたも自分で歩けよ!)」

「(ふんっ、何故私が歩かねばならぬ。リヴォが背に乗って良いと言ったから乗ったまでだ。)」

「嘘つくな!あんたしきりにリヴォに疲れたみたいな目線を送ってただろうが!)」

「(あんっ、なんだそんなに羨ましいのか?)」

「別にそんなんじゃないけど…)」


リヴォが歩みを止めた。私は大体の想像がつきながら男のいる後ろからいやいや前に顔を向けた。思った通り二足で立ち、背に銀色の毛をたなびかせる文字通り獣と言ったような2.5メートル程のモンスターが不機嫌な面で立っていた。


「(どうしたんだ、飯でも食いっ逸れたのか?残念だったな、私達はお前になにも分けてはあげられないぞ?)」


モンスターは私の言葉に怒りを覚え、牙を剥き出し涎を垂らしながら長い爪を立てた。


「挑発してどうするんですか!死にたいんですか!」


リヴォが真剣な顔をしてそう言いながら瞬時に私を背から降ろした。しかし男は"ある規定"で死んでも生き返るだろう。それに私も神であるからして細切れになろうと死なないだろう。全く緊張感がないのは私だけらしい。男は町で貸してもらった町特有の模様の入った鞘から銀色に光り輝く直剣を抜き出す。刀身は良く手入れがされていて刃こぼれなく、この男には勿体無い一振りだ。リヴォも慣れた手つきで腰の鞘から小剣を抜き出す。良く手入れされているが、使い込まれているのか少し赤みを帯びている。


「神様は退がっていて下さい!貴方は周辺の警戒をお願いします!」


そう言ってリヴォはモンスターに突撃していった。私は横でオドオドする男を尻目にリヴォの戦闘に目をやった。一流の剣士とは言い難いが、素質は十分にあるようにみえる。しかし信仰深いリヴォがモンスター相手にあれ程の奮闘を見せるとは、ちと妙な気がする。天性の才能なのかどっかの誰かとはまるで違うなと思い、当の本人に目を向ける。んっ!


「おいっ、貴様!どこをみている!貴様の左方向からモンスターが3匹来ているぞ!)」

「ふぇ、あっあああ」


マズイ!あのモンスター達が厄介なのを私は知っている。ダンジョンで男がヘボい死に方をした原因だ。脇目も振らずにこちらに突進を仕掛けてくる。


「(うぉっ)」


私は間一髪で避け切ったが、2匹目により男は鉄球を喰らったかの如く後方に吹っ飛んでいき、しっかりと根を張った木にドスンと受け止められた。骨は大丈夫だろうが打撲痕が痛々しい。3匹目が来る!そう思った時リヴォが目の前に立ちはだかり小剣を突進してくるモンスターに向けた。リヴォは不敵な笑みを浮かべ、臆することなくモンスターの眉間に目掛けて小剣を突き刺した。モンスターは直後絶命し足を投げ出し、土に血で線を引きながら5メートル進んでピタリと止まった。口をあんぐり開けていた私だがそれよりも恐ろしいものを奥に目にする。頭が真っ二つになった獣だった。


「(おいっ、何故あそこまでする必要がある!)」

「済みません。神様に仇なす者と思ったらつい。」


信じられない神を崇める者が何故これ程までに残虐なのか。しかしリヴォには罪悪感が見受けられない。相手がモンスターだからか、はたまた神に仇なす者だからか。どちらにせよ私は思う。この女が異常であると。男は白目で口を開け気絶していた。切れない剣と切れすぎる剣。このパーティはバランスが悪すぎる。






「(おいっ、目を覚ませ!)」


私は気絶している男を小川に蹴り入れる。


「おば、びぶぶぶぅ(こんな起こし方があるか!)」

「(ハハッ、そんなに嬉しいか。)」


私は男の頭に足を乗せグリグリとしてやった。私は先の戦闘でこの男に失望した。腰を抜かし、あれ程の足音に気づかないとはよほど視野が狭窄していたのだろう。武器を持ちながら相手に臆するとは何事か。私はまた思い出し、頭にきてもう一度グリグリしてやった。


「おやめ下さいませ神様。」


上着を脱ぎ血を洗い流すリヴォは露出度が上がっていた。リヴォが溜め息混じりに私にそう言った。


「彼は戦闘経験が少ないのでしょう?無理もありません。私は土地柄、よく魔物と戦闘にはなります。どうか彼を許して頂けないでしょうか?」

「(分かった。その件はな。)」

「??」


男が今なにをしているのか教えてやろう。男はリヴォの懇願に感謝せず、先程からずっとリヴォの体にねっとりとした熱い視線を送っている。私の呆れ顔を見たリヴォは私が見てる方を見、それがみる方を目で追うと、途端に顔を真っ赤にし男を殴り飛ばした。川から飛び出し土の上を飛び跳ねていった。





川で休息をとった私達は山頂まであと少しという所まで差し迫っていた。


「もう少しですね、神様。」

「(そうだな)」


あともう少しで私は"神界"に帰れる!私はこれまでにない高揚を感じていた。男の右頬は腫れている。自業自得だろう。私は頰を緩ませながら残りを登っていった。





「(やった、着いたぞ!)」

「着きましたね神様!」


まるで自分のことのようにはしゃぐリヴォを見やりながら私は大きく息を吐いた。山頂からは老女のいる町が見える。見える景色を眺めながら私は感慨に耽っていた。


「あれですかね?神様。」


リヴォが指を指す方を見ると、白い柱でできた高さ1.5メートル程の建物が見える。おそらくあれがヤシロだろう。現物は初めて見たが何処と無く神聖なものを感じる。私は走り寄っていく。しかし…


「(おいっ、どうやったら交信ができるんだリヴォ!)」

「えっと、確か…て!そういえば神様でしたよね!交信の仕方は長老達のを見て知っているんじゃないんですか!」

「(私がお前達の行動に興味があると思うか?それに私はこの男を監視するので精一杯だったんだぞ!)」

「神様なら民の様子くらい見といて下さいよ!」


私とリヴォが口論をしていると、ヤシロから聞いたことのある声が聞こえてきた。


「やっと来た♡エベリスぅ〜〜元気にしてたぁ〜〜」

「(この声は!トゥールラスタ、トゥールラスタなのか、何故早くコンタクトを取らなかった。)」

「しょうがないじゃな〜い。ヤシロでしか交信はできない決まりなんだから〜。それよりあんたなんで言霊で会話してるのょ。あっ、もしかして〜そういえば〜あんたってコミュsh…」

「(黙れ〜〜〜〜〜。そ、そんなことより私を早く神界に戻してくれ。みんな心配しているだろ?)」

「あんたは神界に戻れないわょ〜〜。」

「(!?、どういう事だ。説明を乞う!)

「えぇ〜〜と、あんたはクビになったの〜」

「(そんな〜〜(;´д`)」


私は仰向けに倒れ、己のしてきたことを振り返っていく。


「あのぉ〜〜トゥールラスタ様も神様なのでしょうか?」

「あら〜〜気づかなかった〜〜とんでもなく強い魂を持ったゴブリンガ〜ルちゃん!そうあたしは、極楽神トゥールラスタさんだよぉ〜〜。」

「(おいっ、何故私が神をクビになる!ちゃんとした理由を述べてくれ。)」

「いいわぁ〜まず其の一、報告義務を怠ったこと」

「(うっ、しかしあれは上司の神が私にだけ威圧的だったからで…)」

「其の二、度重なる職務放棄〜。」

「(そ、それも仕方ないだろう!風邪で寝込んでたんだから…)」

「話を聞いていたらエベリス様にしか非がないのですが…」

「(ぬわぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜)」

「その通りね〜ゴブリンガ〜ル〜。よってこの時を待って救世神の称号を剥奪し、神の地位も同様に剥奪しま〜〜す。」


私の体を光りを放ち何かが消えたような気がした。


「そうそう気を付けてね〜神じゃあなくなったんだから蘇生もされないし〜再生もしないわよ〜〜。


私は怒りを右手の棒に込め神語を地面に書き殴った。


「えっ、チャンスはないのか〜て〜。あたしぃはそおいう権限は持ってないよぉ〜〜。」


私は真顔で続きを書いた。


「顔こわいしぃ〜〜、わかったよぉ〜〜友達の好みでぇ〜ジョウシに聞いてみるよぉ〜ちょっと待っててねぇ〜〜」


そう言ってトゥールラスタの声は聞こえなくなった。


「なんでエベリス様は筆談でお話し為さるのですか?」


リヴォが申し訳なさそうに聞いてくる。しかし今の私には余裕がない。私はリヴォに分かるようにこの地の言語で書いた。


「喉が腫れているから?そうだったのですか。」

「それはうそぉだよぉ〜。」


交渉を終えたであろうトゥールラスタが話しに割り込んできた。


「エベリスはねぇ〜コミュ症なんだぁよぉ〜」


トゥールラスタのこの告白に吹き出したのは先程から黙ってことの次第を見ていた男だった。私ははらわたが煮えくりかえりまた地面に書き殴った。


「なになにぃ〜私が神をクビになったんだからぁ〜この男も蘇生の枠から外れるだろぅ〜とんでもない横暴だねぇ〜〜。そんなことしたら人権に厳しいぃ人達からぁ〜苦情が来ちゃうよぉ〜。」


ぐぬぬ、もういい私は唯一の望みにすがった。


「結局どうなったのぉかぁ〜?あぁチャンスの件かぁ〜忘れてたよぉ〜聞いたらぁ〜この世界のぉ〜魔王を倒したらぁ〜いいよぉ〜〜ってさ〜。


魔王?この世界にそのようなものがいたのか。私は魔王がどこにいるのか尋ねた。


「教えられないよぉ〜でもぉ〜ここから南に行った所にぃ〜アゼイルっていぅ〜商業都市があるから〜そこでぇ〜〜聞き込みしなよぉ〜〜。」


アゼイルか、どっちみち私には力が必要だ。"あれ"を私も使えるのか?私は尋ねた。


魂武器(オーブレイ・ヴィリスティ)?あぁ忘れてたよぉ〜。ゴブリンガ〜ルとムッツリボーイに"真名"を授けるのを忘れてたよぉ〜あたしもぉ〜エベリスみたいにクビになる所だったよぉ〜。」


いろいろ癇に障るがふたりが魂武器を手にするのは戦闘の効率を高めるからここは耐えよう。


「それじゃぁ〜真名の儀式始めるよぉ〜〜。すぅ〜〜〜。リヴォよ貴女の今迄の行いが真名を教えてくれます。覚悟はよろしいですね。」

「はいっ覚悟は決まりました。」

「よろしい、汝、神に愛されし者よ其方の真の名を教えなさい。」

「こ、これは、わたしの真名は"キュリゥアルデ"だと思います。」


キュリゥアルデ?確かみんなで学ぼう神話の中の神話に出てくる女神の名前に似ているな。それにあの神は神でありながら他の神を崇拝し、その神の意向に背く者が現れれば容赦なく斬り捨てるという記述があったようなリヴォにピッタリの真名だな。


「でわぁでわぁお次はムッツリボーイだぉ〜〜」


この男の真名は決まったも同然だろう。


「汝、神に愛されし者よ其方の真の名を教えなさい。」

「………」

「どうしました?さぁ早く真名を」

「俺の真名は………」

「??」

「俺の真名は!"レンカァリヴォリィ"だぁ〜〜〜」


傑作だな。フラレた女とこれからフラレる女の名前が真名とは、別れた彼女の名前を刺青しているくらいの痛さだぞ。いや、それ以上だな。男は顔を真っ赤にしている。無理もないだろうww


「そして最後に我が友エベリス、汝、神に愛されし者よ其方の真の名を教えなさい。」


私の頭に浮かんで来たその名前で私は吹き出した。


「私の真名は………、"ヒュティリィヴィサ"」


みんなで学ぼう神話の中の神話にて神の職を追われながらも神でなくなった後、唯一人として数々の逸話を残したとされる"男"の神だ。私はまだ神だ。決して堕ちてなどいない!


「直ぐ戻ってやるとも私は神なのだから!」





〜堕ちた「神」篇fin〜


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