土を食した「男」
初投稿です。短いのでスラスラ読めると思います。できればご感想を頂ければ幸いです。楽しんでください。
絶叫する。ダンジョン内に木霊する。後方から追いかけてくるモンスターに目をやりながら男は絶叫する。老朽化したダンジョンは悲鳴のようにミシッミシッと不穏な音を鳴らす。10メートルほどあった彼我の差は2メートルの所まで差し迫る。最初は逃げ切れると息巻いていた男の足はまるで重りを付けられているかのように上がらない。
「▂▅▇█▓▒░('ω')░▒▓█▇▅▂うわあああああ〜」
「バフーーーーーーーーッ」
「▂▅▇█▓▒░('ω')░▒▓█▇▅▂うわああああ
あ〜」
「バフーーーーーーーーッ」
「うわああああああああああああ〜〜〜〜〜〜」
「バフーーーーーーーーーーーーーーーーーッ」
側から見れば命を張った漫才である。息を切らしながら走る男、を追いかけるモンスターは如何にもな体躯である。筋肉の引き締まった四足はドカドカドカドカとリズムを刻みながら男に走り寄っていく。小豆色の体から黄色の汗を飛ばし、口周りにヨダレを纏い今か今かと待ちわびたモンスターは男を口に運ぼうとする素振りをみせる。男は目の前が壁であることを確認しニヤリと笑う。
「もうダメだ〜〜〜〜〜」
そう言った矢先男は踵を返した。
「と見せかけて〜〜〜頼む!」
男は突っ込んで来たモンスターを闘牛士の如く華麗に避けた。
「やったぜーーーーざまぁみろ〜〜〜」
モンスターは壁に激突、男は降ってきた土砂に埋もれ、そして死んだ。この間たったの8分だ。男は8分の間で希望を失いかけ、見えた希望の光に手を伸ばし、そして死んだのだ。神がなんとなく置いたハードルを飛び越えようとし死んだのだ。男が歓喜の声をあげずにその場から離れていればこのような喜劇は起きなかっただろう。男の年は17、自分の人生のつまらなさに絶望し命を断ち、流行りの異世界転生でこのアルティナスにやってきたのだ。己の人生がつまらないのは自分のせいだということにも気付かず、愚かにも自ら命を断ちこの地にやってきたのだ。救いようのないこのドクズをだれが救うのだろう?私である。神である私がこの男を唯一救えるのである。土砂を腹一杯に詰め込んだ男をそろそろ始まりの町ティルディエルガに戻してやるとしよう。代わり映えのしない愚かなる魂よ、神エベリスの祝福によって生き返り給え。恥ずかしがりもせず私がこう唱えると男の死体は光を放ち消えていった。これは物語の序章に過ぎない。あの男がどうなろうと知ったことではない。そしてあの男には名前がない。そして私の性別は女ではない。がっかりした者もいるだろうが仕方がない。神だろうとチ◯コを生やしたり取ったりすることはできないのだ。この物語の続きはまた近日書き記すとしよう。願わくば多くの者に読まれていることを祈って。
〜プロローグfin〜