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後日譚

作者: 夜史秋雪

 僕の名前は田中太郎(たなかたろう)

 県立北山(きたやま)高校に通う平凡な高校1年生だった。数日前から学校には行っていない。

 僕は人との会話があまり得意ではなく心の中ではいろいろ言葉が出てくるのだがそれをうまく口に出せない。それでも友達はいた、別にいじめとかにあっていたわけではなく学校に行かないのは別の理由である。

―――しかしこうして一日中家にいるというのもなかなか悪くないかもしれない。縁側に座り庭や空を眺めているとノスタルジックな気持ちになってくる。人生や世界について様々な思考を巡らせたりもできる。


「....くっ、はははははははははは」

 そんなことは高校生の考えることではないのかもしれないと冷静になって結構本気で笑えてきた。僕は意外にツボが浅いのかもしれない。



 ひとしきり笑ったところで外の石垣からこちらを見る視線に気がついた。

 野良猫だ。僕は猫が好きだ、あのジト目といいもふもふな感じといい....とても可愛い!

「あ、猫だ! 可愛い~」

 2人の女子中学生が猫と(たわむ)れはじめた。制服からして妹と同じ中学だろう。

――もう下校の時間か。

 言い忘れていたが僕には今年中学3年生の妹がいる。しかし兄弟仲はあまり(むつ)まじいとは言えないだろう。というかむしろ悪いのかもしれない。

 僕は先も述べた通り家族、学友に限らず人に話しかけることがまずない。加えて妹も超のつく人見知りときた。もうね、なんか避けちゃってるんだよね、兄妹なのに他人って感じ。

「ただいま」

 どうやらご帰宅なさったようだ。「おかえり」と声をかけるが返事はない。まぁ当然のことだしわかっていたことだ。

 いつもなら真っ直ぐ自分の部屋に向かうのだが今日は僕のいる和室に向かってきた。

 なにやらあらたまって話があるようだ。明日は大雪かな?

「えっと...げ、元気?」

 なんだそれは。会話力の残念さもここまで来ると可愛くなってくるな。いや、妹だからか?

「その、いつかは言おうと思ってたんだけど....。もう少し早く行っておけばよかったかな....」

「私、進路北山高にする」

 これは驚いた。北山は偏差値の高い進学校ではあるが妹の学力なら大丈夫だろうし進路として間違ってはいないだろうがまさか僕と同じ進路にするとは...。

「その、家ではあんまり話さなかったし、顔合わせることも少なかったから全然言えなかったけど」

 兄妹なのに家ですらあんま顔合わせないってどうなのかね...。兄妹ってみんなこんなもんなのかな?

「でもいざという時には頼りになるし私のために色々頑張っててくれたのも知ってるからずっとお礼言いたくて!その、いままでありがとう!」


――――――――。

 ....はは、全く、泣きそうじゃないか。

「お兄ちゃん死んじゃったって聞いたときすっごくショックだったけど...引かれそうになった子猫を庇ったんだって聞いてやっぱお兄ちゃんだなって思った」

「まだ悲しい気持ちはあるけどこれからは一人でも頑張って行くから! お兄ちゃんはゆっくり休んでね」

 顔を上げたその瞳には涙が溜まっていたがとても強い眼差しだった。

「じゃ、じゃあそれだけだから!」

 そう言うとそそくさと自分の部屋に戻ってしまった。

 線香の1本でも焚いていって欲しかったがまぁ今はいい...。


 僕は昔の妹のことを想い浮かべる。いつの間にあんなに強くなったのか....。

 仲の悪いと思ってた妹から思わぬ言葉をもらい胸の内から温かいものが広がっていく感覚を覚えた。

 息子や娘は親の知らぬ間に成長していくとどこかで聞いた覚えがあるがそういうことだろうか。

 今の僕には妹のこれからに幸多からんことを願うことしかできないがそれでも、それでももう少しだけ妹の成長をこの目で見ていたいという気持ちになった。


最近叙述ミステリーというものを知って書いてみたくなった。


ちゃんとしたものになってるかわからない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 叙述ミステリーを最近知ってここまで書けてればなかなかだと思うよ!
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