第九話
三人がサンタさんの所へ行くと、サンタさんは既にソリを準備して待っていました。
「おお、最高のプレゼントができたみたいじゃな」
「は、はあ……」
「そうでしょうそうでしょう!」
「私の最高傑作ですから」
春の女王以外の二人は、サンタさんに自信満々に言います。
「ふぉっふぉっふぉ、それはそれは。冬の女王様は恵まれておりますな。さあ、乗りなされ」
サンタさんに促されて、三人はソリに乗り込みました。
「さあトナカイたちよ、『季節の塔』の前まで、私たちを運んでおくれ」
呼びかけに応えるように、トナカイたちは啼き、蹄を鳴らして空を駆けました。
塔の大扉の前に、ソリが着きました。
四人はソリから降りると、冬の女王様を呼ぶことにしました。
「サンタさん、あなたも呼んであげてください」
春の女王が頼むとサンタさんは「あい分かった」と言ってくれました。
「それじゃ、せーのっ!」
「冬の女王(様)---!」
少しの間を空けて、中から冬の女王様の声が聞こえてきました。
「何よ、私はもうここから出ないって決めたの。みんなで楽しそうに何かやってたじゃない。私一人、ここに置いて。そんなに楽しいのなら、いつまでも冬が続いてもいいじゃない。それに」
「ばか!」
冬の女王様が次の言葉を紡ぐより先に、春の女王様が口を挟みました。
「なんのために頑張ってたのか知らない癖に、勝手なこと言わないでよ! 一人が嫌なら出てくればいいじゃない! みんなで楽しくすれば良かったじゃない! 出てきなよ!」
春の女王様の言葉が頭に来たのか、冬の女王様も声を張り上げます。
「だから言ってるじゃない! クリスマスプレゼントがもらえない限り、私はここを動かないって!」
「それならここに、あるよ!」
春の女王様の言葉に、冬の女王様の息が一瞬詰まりました。
「……え?」
春の女王様は、言葉を続けます。
「みんなに協力してもらって、材料集めて、時々針が刺さりながら頑張って縫って、今日の朝、やっとできたんだよ」
冬の女王様は、春の女王様の言葉が信じきれないようです。
「そんなの嘘よ……。私をここから出したいがために、そんなことを言ってるんだわ」
「嘘かどうか、見てみないとわからんぞ」
春の女王様が何か言う前に、サンタさんが言いました。
「さ、サンタさん!?」
突然の声に、冬の女王様は慌てているようです。
「おうとも。女王様たちがクリスマスプレゼントを届けたい大切な人がいるというものでな、願いを叶えに来たんじゃが、いらんかったかのう?」
サンタさんの言葉を聞いて、冬の女王様はバンと大扉を開きました。扉のすぐ近くに立っていた春の女王様は、開けられた拍子に扉が頭に当たり少しよろけました。
「……そんなっ」
冬の女王様は手を口元に当てました。
目の前の春の女王様の腕の中には、かわいらしい茶髪のお姫様の人形が抱きかかえられていました。ちょうど、それを抱えている本人と瓜二つなくらいよく似た人形が。
「これ、春の女王が提案したんだぜ?」
夏の女王様が言います。
「あなたのことを一番に思っていたのは、春のです」
秋の女王様が言います。
「さあ、これが、最後のクリスマスプレゼントよ」
春の女王様が、人形を差し出してきました。
冬の女王様の目には、溢れんばかりの涙が溜まっています。
「…………うぅ、ありがどう…………」
涙をボロボロとこぼしながら、冬の女王様はその人形を受け取りました。
そのまま春の女王様と抱擁を交わし、秋の女王様も夏の女王様もそれに重なりました。
ひとしきり抱きしめると、四人は最後にお礼を言うべき相手の方に向きました。
「サンタさん、ありがと…………あれ? サンタさん?」
赤い服の、白髭をもっさり蓄えたサンタさんは、跡形もなく消えていました。
…………ほろ。
「? ……あ、雪。」
真っ白な雪が、空からゆっくり降りてきました。
四人でそれを見ていると、冬の女王様がぽつりと言いました。
「この冬最後の雪だわ」