第六話
円陣で士気を高めるとすぐに、夏の女王様は全速力でサンタさんの家を飛び出していきました。
「ちょっと、夏の女王、私を置いていかないでー!」
おどおどしながら夏の女王様を追いかけていく春の女王様。
その姿を観察しながら、秋の女王様も後を追っていきました。
春の女王様たちが塔の近くに着いた時には、夏の女王様はもう話を済ませたようでした。
「「何が欲しい?」って聞いても「知らない」しか言わないから、十回くらい聞いたら「女の子の人形よ!」って声を荒げて素直に答えてくれたぞ」
それはおそらくしつこくて怒ったんですよ、夏の女王。と春の女王様は言いたかったけれど、ぐっとこらえました。それよりも優先することがあったからです。
「んじゃ、材料集めに行くか、春の女王」
「そうね、行きましょ」
「では私は家の人たちに屋敷にある限りの裁縫道具を用意させて作業場を整えておきます」
「よろしくね、秋の女王」
「そっちもうまくいくことを祈るわ、春の」
そう言って三人は、二人と一人に分かれました。
春と夏の女王様は、少なからず人の集まっている広場の真ん中で、みんなに事情を説明しました。
「ってことで、この冬を終わらせるために、みんなに手伝いをしてもらいたいんだ。どうかな、手伝ってくれるか?」
夏の女王様の呼びかけに、周りの大人たちは次々に声を上げます。
「夏の女王様の頼みってんなら、断る理由はねえな!」
「私、家は服屋なのよ。ぜひ手伝わせてもらうわ!」
「私も、裁縫は結構得意な方なんです!」
「春の女王様の補足からするに、サンタさんも一枚噛んでるっぽいな。子供の頃の恩返しだ!」
「俺、親戚に呼び掛けてくるよ!」
「私も、友達にこのこと広めてくる!」
みんなは協力してくれるようです。それどころか、ここからどんどん協力してくれる人は増えていきそうです。
「こりゃ協力者集めは大成功だな、春の女王っ」
「ええ、これで後は、場所と材料だけです。そう言えば、大きさは?」
これを忘れていたと、春の女王様は夏の女王様に問いました。
「ん? 確か、両腕で抱えられるくらいのって言ってたかな」
「両腕で抱えるくらい!?」
夏の女王様の衝撃的な発言に、思わず大声が出ました。
その声は、周りの人たちにも聞こえたようです。
「両腕サイズ?」
「それって高級品ってこと?」
「そんなことより、材料が足りるかわからんぞ」
「そうだ、この冬の影響で材料もまともに補給できてない」
「いや、かき集めれば何とか……」
「私、まずいこと言った……のかな?」
「いや、どうせいつかはこうなってたことだから」
この世界では、人形遊びに使うくらいの大きさが人形の標準です。両手で抱えられる人形なんて、この国を探しても片手で足りるほどしかありません。
「でも、これをやんなきゃ冬は終わらないんだ!」
紳士服を作っているおじいさんが言うと、
「そうよ、このまま何もしないよりは、最高の人形を作って冬を終わらせましょうよ!」
人形屋のおかみさんが次に続きます。
この二人が言うならと、他の人たちもまた声を上げていきます。
「何とかなった……みたいだな」
「そうね、ここにいた人たちに感謝しないと」
ここでないと、計画自体がなしにされていたかもしれないから。