第三話
「私は、冬の女王様のためにクリスマスプレゼントを届けてあげればいいと思うの」
塔から少し離れたところで、春の女王様はそんなことを言い出しました。
「クリスマスはもう終わっちゃったけど、サンタさんのところへ行けばきっとまだあると思う」
そう言う春の女王様が指さしたのは、北の方でした。
「北の山の上にはサンタさんの家があるわ。そこで話し合ってみましょう」
春の女王様の提案に、残る二人も頷きました。
雪が降り積もる山の中、管理人がかき分けてくれている通用道を辿って、三人は頂上を目指します。
「うう~~、寒いよ~」
「自分から作戦を提案しておいて、そりゃないぜ……へ、へ、へっくしゅ!」
空は雲一つない青空ですが、周りが雪だらけのせいか、春と夏の女王様は体をぶるりと震わせます。
「夏の女王こそ、寒いの苦手なのでは?」
「んなわけないやい! ……そういうあなたは、ずいぶん平気そうね」
並んで歩いている三人のうち、秋の女王様だけは平気な顔をしています。
「先代様に付き合ってたら、こんな感じのは四六時中だったからね」
「さいでっかさいでっか……ひえっくしゅ!」
「二人とも元気がいいねえ、うう」
寒さに震えながらも、三人は頂上を目指してひたすら道を上っていきます。
「……ぶえっくしゅ!」
ようやく三人は、サンタさんのレンガの家の前までやってきました。赤レンガでできた煙突からは、もくもくと煙が上がっています。
春の女王様はドアノッカーという輪っかをドアにカンカンと当てますが、中から返事はありません。
「寝てるのかな?」
「煙が上がってるのに寝てたらそりゃ火事だな」
「むむ、確かに」
夏の女王様に言われて、春の女王様は少し難しい顔になります。
「まあ、呼んでみりゃ気づくんじゃない?」
「そうだな」
「うん」
秋の女王様の提案で、三人はまた声を揃えて呼びました。
「サンタさーーん!」
すると、中からドタドタと慌ただしい足音が聞こえてきます。
「おお、これはこれは季節の女王様方、ようこそわが家へ。外はお寒いでしょう、さあさ、中にお入りください」
お馴染みの赤い服に身を包んだ白髭のおじさんは、バンと勢いよく扉を開けて、三人を中へと招きました。
サンタさんにお茶をもらって一息ついた後。
「で、相談なんですが」
春の女王様が、本題を切り出した。
「ん、なんですかな? 季節の女王様の頼みとあらば、この老いぼれの可能な限り、協力させていただきますよ」
サンタさんの心強い一言を受けて、春の女王様は頼みました。
「今年から、冬の女王様は代替わりをして、まだ大人になったばかりの先代の娘さんが女王になっているのです。そのせいで、今年クリスマスプレゼントがもらえず、拗ねて塔に閉じこもっているんです。どうか、冬の女王に今年だけ、最後のプレゼントを届けてあげてくれませんか?」
春の女王様の言葉をすべて聞くと、サンタさんは目を閉じて「う~ん」と唸り、たっぷり蓄えた髭を数回撫でました。
そして少しの後、目を開いて、三人に面と向かって言いました。
「残念じゃが、儂にその頼みを聞いてやることはできん」
「……え?」
不意に、春の女王様の口から疑問符が零れ落ちました。