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異世界聖拳伝承 勇者エクスパンダー×爆空!!  作者: ふじわらしのぶ
第一章 拳とパンの伝承者、その名は爆空(バク)・バーンズ!
9/14

食パン、万里を翔ける

書いている時に、フォッカチャというパンとブルマンブレッドを焼いている時の工程がごっちゃになってしまった為に時間がかかりすぎてしまいました。一応、何で切るんだと指適されたのでまんま書いてみました。どうでしょうか?こっちの方がいいのかな?

 春は早朝の頃。


 パン職人見習いの爆空ばく・バーンズの朝は早い。今日は彼にとって特別な日だった。パンを作るものならば誰でも一度は憧れる超人気パン、筆者の暮らす現実世界の日本では角食の名前で知られるブルマンブレッドを作ることを許された日だった。このパンを作ることは、爆空がパン職人見習いを卒業するという意味があった。


 「明朝、ブルマンブレッドを五本焼け。ただし、大きさと重さは全て同じものだ。かの試練を以ってお前の見習い修行を終える」

 

 ブルマンブレッドを五本も焼く、それも同様の寸法と質量のものを。リュウ・パンパンのもとで十年もの間厳しい修行を続けてきた爆空だったが、この時ばかりは師匠の言葉に狼狽してしまった。なぜなら、同量のブルマンブレッドを五本も焼くのは今の彼の技量では到底不可能な出来事だったのである。パンというものは一つの形を作った後に自然発酵させて膨らませなければならない。いくら大きさを揃えても生地に含まれる酵母が活性化した後に同じように膨らんでくれるとは限らないのだ。しかも五本もの角食を作る為には、オーブンを数回に分けて使う必要がある。生地の成形とオーブンの温度の維持。これらの出来事に配慮しつつ、最高の仕上がりのブルマンブレッドを作る。果たして今の自分にそんな大それたことが出来るのか。


 しかし、リュウ・パンパンはそんな不甲斐無い弟子を大声で叱った。


 「爆空よ、立ち止まるな。今は進むことだけを考えろ。日々の鍛錬は決してお前を裏切らない。百や千の失敗を恐れるな。お前はまだ何者でもないのだから」


 その時、爆空は頭上に雷鳴を落とされたような気持ちになった。そして、彼は厳しい修行の日々に思いを馳せる。川と村の溜め池を往復する水汲みの修行。森を駆け抜け、山を登る修行。林の落ち葉を拾って自然の呼吸を感じ取る修行。これらの厳しい修行を乗り越えた今の自分ならば、何かを成し遂げられるかもしれない。岩を穿つ拳、木を薙ぎ倒す脚、頭上の落石を物ともしない頑健な肉体。共に厳しい修行の日々を耐え抜いた最高の相棒の信頼を裏切るわけにはいかない。


 爆空は奥歯を噛み締めて、弱気と迷いを振り払った。


 「その試練、喜んで引き受けさせてももらいます。お師匠様」


 この弟子ならば必ず自分の期待に応えてくれる。それは何と心強く、そして嬉しい事か。リュウ・パンパンは爆空が昨日焼いてくれたレーズンパンの中から成長した弟子の姿を見守った。爆空ならば見事五本の角食を焼いて、見習いを卒業することが出来る。


 だが、パンパンは弟子の前ではあくまで厳しい態度を取り続ける。それが彼の爆空に対する激励だった。


 「口先だけなら何とでも言えるぞ、爆空。お前も拳法使いの、パン職人の端くれならば口よりもまず先に手を動かせ」


 なんという信頼。師はこうまでも自分に期待してくれているのか。もはや爆空は内なる気炎を抑えることが出来なくなっていた。彼の中では弱気は消え去り、今は一刻も早く試練を受けたいとさえ思うようになっていたのである。たかだか五本の角食パンがどれほどのものだというのだ。こうして爆空は翌日の試練に備えるために鍛錬と家の仕事を全て終わらせた後、ブルマンブレッドの材料を集めてから眠りにつくのであった。


 そして、時は今に至る。


 爆空は父親と協力して建てたパン作り工房の中にいた。工房の中央には木製テーブルの上にはブルマンブレッドおおよそ五本分の材料が置かれている。


 大きな麻袋の中には小麦粉が、小さな袋には食塩( 岩塩 )が入っていた。そして、陶器製のポットの中にはパンパンから教えてもらった干し葡萄から作られた天然酵母なるものが入っていた。この不思議なぬめりが入ると焼きあがったパンが天国の食べ物のようなふんわりとした食感に変わるのだ。角食用の焼き型から綺麗にパンを取り外す為のバターは既に別のボウルに用意されていた。地面には飲料用の水が汲まれたバケツが置いてある。


 構造はシンプル、味は王道。それがブルマンブレッドというパンの特徴だった。


 これは余談だが、読者の皆様はパンを作る時は是非、お店で売っているドライイーストを使って欲しい。知識のない素人が葡萄から天然酵母を作ると高い確率で食中毒にかかる可能性があるからだ。それに天然酵母は思った以上に、ドライイーストと比較してパンが膨らまないのだ。ここで爆空が天国の食べ物のような食感と表現しているのは爆空の生きている時代には硬いライ麦パンのようなものしか存在しなからである。


 「それでは始めろ」


 「はいッ!」


 リュウ・パンパン( 今はシュガーコートされたプチパンに入っている )は爆空に試練開始の合図を言い渡した。


 爆空は白い半袖のシャツを脱いで、上半身を露にする。幾重にも積み重ねられた岩のような筋肉が姿を現す。肩、胸、背中、腹、それらを一部の隙も無く覆う鋼の硬度と若木のしなりを備えた筋肉と骨と内臓。さながら肉の要塞だった。爆空の精神に灯された内なる炎は五体を駆け巡り、灼熱を浴びた肉体は薄らと汗を浮かべている。この鍛え抜かれた肉体が生み出すパンの味とは一体どれほどのものなのか。今は誰にもわからない。


 爆空は大きなボウルに大量の小麦粉と少量の食塩を入れて、一気にかき混ぜた。水を入れる前にこうして混ぜておくことで食塩と小麦粉を綺麗に混ぜ合わせることができるのである。その後、バケツの水を全体の半分の量を流し込む。そして一気にボウルの中の粉と水をかき混ぜた。


 出来上がったパン生地に気泡が生じないように力強く、そして水を含んだ小麦粉が固まらないように手早く爆空は手でボウルの中身を混ぜる。そして、小麦粉が水と十分に混ざり合わさったことを確認すると今度は天然酵母を少しボウルの中に落とす。残った半分の水と小麦粉を今度はゆっくりと入れる。


 爆空は力いっぱいに素早くボウルの中をかき混ぜた。やがてボウルの中に白くて大きな塊が出来上がった。爆空はボウルからこの塊を取り残しがないよう丁寧に外しにかかる。そして、打ち粉がばら撒かれたまな板の上に白い塊を置いた。


 「ハアァッ!!」


 爆空は全身の筋肉を隆起させて、白い塊に掴みかかった。両手で一気に押さえつける。平らに伸ばされた塊をもう一度まとめて打ち付ける。両手の力を込めて捏ねる。これは小麦粉とその他の材料が入った白い塊の中から余分な水分と空気を出す作業だった。


 それから爆空が両手押し付け、伸ばし、それらをまとめて打ち付けているうちに外見ごわごわとした塊はなめらかなものに変わっていた。爆空はよくこねられたパン生地の完成度合いを目で確かめると今度はそれを丸めた。両手で生地の端を掴んで内側に向かってそれらを巻き込む。そうすることで白い塊は丸くなっていった。


 是即ち、パンの生地である。


 爆空は出来上がったパン生地の表面にうっすらとバターを塗った。生地の内部では爆空の体温と小麦粉と水、そして菌をよく混ぜ合わせたことにより天然酵母が活性化していた。爆空は専用の布巾を取り出して、ボウルの上に被せた。パン製作における必須の工程、一次発酵が始まったのだ。


 爆空は座禅を組んで目を閉じ、一次発酵が終わる事を待ち続けた。ただの小麦粉を練っただけの代物が、パンと呼ばれる食べ物に進化する瞬間を見守り続ける爆空。彼は心の中でおいしくなれ、おいしくなれとひたすら祈り続けた。


 それからしばらくした後に、突然爆空の目が開かれる。ついに一次発酵が終わったのだ。爆空は発酵させた生地を手刀でいくつかに切り分けた。鍛えられた爆空の手刀はナイフよりもよく切れる。その切れ味は、切り別たれたパン生地のなめらかな断面によく現れていた。爆空は生地の一つ一つを丸め込み、底の閉じてある部分を下にしてテーブルの上に敷いた布に置いた。


 そして、今度は生地の上に布を被せてさらにその上から固く絞ったぬれ布巾を置く。爆空は両の掌を揃えて、目を閉じる。今は生まれたばかりのパン生地を室温に馴染ませて、休ませる時なのだ。爆空は片足立ちでパン生地の熟成の時を待つ。


 時間にして十五分。厳しい修行を乗り越えた爆空にとってはどうということのない時間だった。彼にとっての気がかりはあくまでパン生地の仕上がりだけだった。


 おいしくなれ、おいしくなれ。爆空は自分が作ったパンを頬張り、喜ぶ人々のことだけを考えていた。


 やがて、休憩の時は終わり成形の工程に突入する。爆空はテーブルの上に置かれた木製の麺棒を手に取った。


 「ハイッ!ハイッ!ハァァァーーッ!!」


 突く、払う、薙ぐ。相手の武器に棒を打ち込み、武器から手を外し、地面へ落とす。リュウ・パンパン直伝の敵の武装を解除するための棒術だ。爆空は棒を手に取った際には必ず基本の三つの型を実戦するようにしていた。さらに棒の先端を回転させて相手の機先を探った。敵の武器が鉄製の刃でも、先んじて手首を打てば木の棒でも対抗できる。徒手や棒ならば、敵も周囲の見方も心がけ次第で傷つけずに済むのだ。


 「棒で遊ぶなッ!爆空ッ!」


 案の定、師匠に叱られる爆空だった。爆空はパンパンに謝罪してから、生地の上からから布を取り外した。先程用意した麺棒を使って、これらの生地を伸ばす為である。


 爆空はパン生地をほどよく台の上に広げた後に麺棒を使って、今度は生地が長方形になるように伸ばしていった。力を込めすぎてはいけない。せっかく作った生地が潰れて台無しになってしまう。あくまで優しく、丁寧に。


 爆空は愛と慈しみの心をもって麺棒でパン生地をせっせと伸ばした。全ての生地をこうして長方形に伸ばしてから、食パン五本分に切り分ける方法もあるのだが、今回はあえてそうしなかった。課題の一つ、五本全て同じ分量という部分が主な原因である。現在のようにより正確な測定をすることが出来る計りや物差しがあるわけではないので、一度にまとめて生地の成形を行ってしまうと後で調整がきかなくなってしまうのだ。


 如何に厳しい修行を積んだ爆空でも正しい分量を揃えるには限界がある。ゆえに彼は角食の一本を正確に作ることにした。


 爆空は長方形に伸ばしたパン生地の中央を折り返しにして、両端から折り畳んだ。あくまで長方形の姿を保ったままにする為に、畳んだ後は手で押さえつけることを忘れない。


 こうして半分くらいの面積になったパン生地を今度は中央から二つに折る。そして、生地の両方の合わせ目を抑えて閉じた。このようにして出来上がったやや厚みのある長方形のパン生地を二つ、縦に重ねて食パンの焼き型の中に入れた。


 焼き型はこの日の為に、パンパンに作り方を教わり工具職人の立会いのもとに爆空で作ったものだった。見たこともない道具を目の前にして職人の親方が驚いていたことを思い出す。


 爆空は溶かしたバターを型の内側に塗り、焼いた後簡単に取り外せるようにしておいた。なお読者のみなさんは食パンを焼く時は成形した生地をクッキングシートで包んでください。こっちの方が焼いた時に綺麗に剥がせます。


 あらかじめ用意しておいた食パン型、五つ全てに生地を入れた爆空は再びそれらの上に布巾をかける。最後の試練の時が訪れたのだ。


 二次発酵、これで全てが決まる。一次発酵は小麦粉を混ぜて捏ねるだけだから、わりと簡単に膨らむ。しかし、二次発酵は生地を休ませる工程をいくつか挟むので見極めるのが難しい。爆空は地面に座り込み、目を閉じてその時を待った。


 意識を眉間に集中させて、そのままゆっくりと下の方に移動させる。咽喉、心臓、肺、そして臍。身体各部に張り巡らされた意識はやがて視覚、触覚の代わりとなるほどの鋭敏な観測器官となる。


 これぞファイティングカナブン・アーツの奥義、五感を閉ざして、神妙なる目を開くというラピスラズリカナブン・プロヴィデンスアイズ。この状態の爆空には布巾の下で生地がどのような状態になっているかさえ察知する事が可能となっていた。


 型に収められたパン生地は時間が経過するにつれて膨らみ続けた。パン生地も、作り手である爆空と同じ気持ちになっていた。


 ふっくら、ふわふわ、食べた人間が思わず頬を緩めてしまうような食パンになりたい。パンの耳も絶対、おいしいから食べてね。もしパンが固くなったらトーストか、ラスクにして食べてね。


 爆空は皿の上に盛られた八つ切りの食パン一片を夢想する。うまい。このパンならば、世界中の人を幸福にすることが出来る。その時、爆空の両目が開かれた。


 「今だ!」


 爆空は五本のパン型に被せられた布巾を勢い良く取り上げた。パン型の中には二倍強に膨らんだ真っ白なパン生地の姿があった。会心の笑みを浮かべる爆空。その光景を見ていたリュウ・パンパンが叫ぶ。


 「今こそ雲蒸竜変の時。爆空よ、石釜オーブンでそのパン生地を焼くがいい!」


 「はいっ!」


 爆空は手刀を作り、うっすらと縦にパン生地を切った。そして、その部分にバターを塗りこむ。こうすることで焼きあがった時にバターの素晴らしい香りが食べる側の食欲を刺激することだろう。


 爆空は工房の中にある石釜オーブンの前を開けた。彼はパン生地が入ったパン型を持っていた。オーブンには既に火が入っていたので後はパンを焼くだけとなっていた。


 リュウ・パンパンは二つのパン型を持つ爆空の姿を見て満足していた。一度に五本全てを焼くのではない。一度に二本ずつ、合計三回に分けてパンを焼くことこそが、リュウ・パンパンの出した課題の正解であった。どんな大きなオーブンを使っても角食五本を一度に焼いてしまえば必ず焼きムラが生じてしまうものだ。この課題はパンを早く焼けばいいというものではない。毎日パンを焼き続ける使命を持った人間が一本のパンに対してどれだけ真剣に向き合うことが出来るか、という意味の課題である。


 パンという食べ物は量を揃えればいいというものではない。質にこだわればいいという食べ物でもない。

 

 食べる側がその時、どういったパンを必要としているかそれを常に考える。パンの作り手は常にそういった心構えでなければならない。


 しかし、全ては師の杞憂だった。爆空はパンパンを唸らせるような素晴らしいブルマンブレッドを完成させることだろう。


 その頃、爆空は二本のパン型をオーブン内に入れているところであった。彼は師の教えを守り、均等に熱が入るよう注意深く二つのパン型を配置した。そして、もう一度中の状態を確認してから手早くオーブンの扉を閉める。爆空はオーブン内の熱気を強めるために暖炉に薪を入れた。暖炉の中の火が強まり、オーブンの中が熱せられていく。


 爆空はオーブンの前で膝を折り、頭を下げて天に祈りを捧げた。どうかおいしいブルマンブレッドが焼けますように、と。


 しばらくした後に爆空はオーブンの扉を開けた。パンが焼きあがったのだ。彼はオーブンから発せられる熱気に耐えながら、二本のパン型を取り出した。


 テーブルに置かれたパン型から姿を現すキツネ色に焼きあがった黄金のごときブルマンブレッド。周囲には焼きたてのパンが放つ湯気と芳醇なバターの香りが漂わせているではないか。爆空は急いでもう一つのパン型からパンを取り出し、別のテーブルの上に乗せてそれらの熱気を冷ました。


 それから爆空は残り三本の角食を焼き上げるために、二度同じ作業を行った。


 テーブルの上には五本のブルマンブレッドが並んでいた。どのパンも寸分違わぬ大きさである。爆空は頭を垂れて師の裁定を待った。


 パンパンはプチパンの中から、爆空の中に魂を移して、ブルマンブレッドを一つ一つ見て回った。大きさ、重さ、生地の感触。どれもが同じものだ。合格を出しても問題はない。


 パンパンはブルマンブレッドを取り上げ、一口豪快に食いちぎった。食パンのキツネ色の外皮から白い中身の生地が姿を現す。焼き具合、食感、まるで問題がない。パン作りを教えた人間を嫉妬させてしまうような完成度だった。パンパンは苦笑しながら、爆空の肉体からプチパンに戻った。


 「及第点といったところだ。これにて見習いは卒業だ。明日からは菓子パンの修行を始める」


 「お師匠様、どうもありがとうございました!そしてこれからもよろしくお願いします!」


 その時、工房の中に爆空の父親である倫空リンクが入ってきた。普段は温厚な倫空が慌てふためく様子からして、何やらただならぬ雰囲気である。


 「爆空、大変だ!村の外にでっかい化け物が!またやって来たんだ!」

次は血沸き肉躍るバトル回です!あ、でも「白虎の祠」の方が更新、先かも。

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