第3章その1
向かった店の名前は『笑顔の仲間亭』といい、村の目抜き通りにあった。
二人が木製のスイングドアを押して店内に入ると、すでに夜の営業は始まっていた。数人の先客が丸いテーブルにつき、巨大なジョッキで発泡酒を楽しんでいた。
(うわぁ・・・この人達、顔がネズミだ)
ハジメとの約束を守って、トムは口の中でこっそりとつぶやいた。
「やぁ、ハジメさん」
「ハジメさん、久しぶり。元気だった?」
「ハジメさん、ご機嫌よう!」
顔見知りばかりらしく、店のあちこちから声がかかる。それぞれにあいさつを返しながら、ハジメはカウンターの奥にいる人物に話しかけた。
「今晩は、ニトリさん。今日は、キノコと木の実を持ってきたんだけど、好きなのを選んでよ」
「おやまぁ、こんなにたくさん・・・じゃあ、遠慮なく頂くよ」
後ろ姿からは、頭に布を被っていて分からなかったが、振り向いたニトリは猫の顔をした女将であった。さすがに今度は、トムは驚かなかった。
ニトリはカゴの中から手早く入り用なキノコと木の実を選ぶと、厨房に向かって叫んだ。
「ちょっと、あんた。ハジメさんからの頂き物だよ!」
「おーっ、いつもありがとうな」
野菜を刻む手を休めて振り返った店主の顔は、やはり猫であった。




