第10章その1
翌朝、目覚めた時から、トムは何となく落ち着かなかった。心の中がざわついている感じがした。
それは、こちらの世界に迷い込んだ時の様子に似ていた。
ハジメも異変を感じ取っていた。ベッドから起き出し、トムの肩に手を置くと、真剣な表情でこう告げた。
「どうやら、トネリ村への帰り道が開きそうだ。早く着替えて。君と出会った場所へ行ってみよう」
ハジメに促され、トムは寝巻きを着替え、身支度を整えた。
家を出た二人は、森の中を進んで行った。見覚えのある一本道に出ると、すでに空間の一部がぐんにゃりとし始めていた。
「良かった。無事に帰れそうだね」
「どうしてそう思うの?」
さすがに不安を覚えて、トムはハジメに尋ねた。
「僕はちょっと特別なんだ。そう教えてくれる人がいる。皆には内緒だけどね」
片目をつむりながら、ハジメはそう答えた。不思議な人だとトムは思った。
ハジメに背中を押し出され、トムは歩みを進めた。
「当たり前なことって、実はないんだよ。それを忘れないで!」
後ろからハジメが大声で叫んだ。トムが振り返ると、細い鎖に通してペンダントにした銅貨を握った手を、大きく振っているハジメの姿が目に映った。それがハジメを見た最後の瞬間となった。そのままトムは、ぼんやりとした空間に包まれていった。




