第9章その5
「じゃあ食事にしようか。仕度を手伝ってくれるかい?」
「うん、もちろん!」
ハジメが料理をしている後ろで、トムはテーブルの準備に取りかかった。スプーンを置き、深皿を並べる。普段は家事を全て、両親や使用人に任せているトムであったが、こうやってハジメの役に立てることを嬉しく思った。
夕食は、市場で買い求めた野菜がたっぷり入ったポトフ鍋であった。普段ぜいたくな食事をしているトムであったが、この素朴な料理は今まで食べた中で、一番美味しく感じた晩御飯であった。
トムはハジメに感謝の気持ちを伝えたいと思った。しかしまだ、『感謝の念い』での御礼は上手く出来そうになかった。
ふとトムは、自分の懐に入れた小さな巾着のことを思い出した。中には初めて彼が店番をした時にもらった、お駄賃の銅貨が入っていた。
「あの、これ・・・」
トムはハジメに、両手の平に乗せた銅貨を差し出した。
「僕の宝物。ハジメさん、受け取って!」
「すごい、ピカピカしているね。貰っちゃっていいのかい?」
「うん!」
「君の世界の『お金』という物だよね。うん、きれいだ。ペンダントにしてみようかな」
銅貨を灯りにかざして楽しそうなハジメの様子を見て、トムも楽しくなった。それと同時に、胸の奥が暖かくなるのを感じた。
「どうやらトムも、小宇宙につながれたようだね」
ハジメが言った。




