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第1章その2
この遺跡は、村人から『人隠れの遺跡』と呼ばれていた。昔から、この場所に足を踏み入れた村人や旅人は、いつの間にやら行方知れずになってしまう。そう噂されている場所であった。
トムも父親から、この遺跡には近付かないようにと厳しく言われていたが、人目を気にせず過ごせる場所として、重宝していたのである。
この日もいつもの様に、トムは遺跡の中心にある建物の長く続く石の階段の途中で腰を下ろし、物思いにふけっていた。かつては王宮か神殿として使われていたのだろうか。赤茶色のレンガが積まれた壁が高くそびえる、重厚感あふれる建物であった。
トムが腰かけている石の階段は、登りきった場所が祭壇にも見える広場になっていた。
(昔は、ここで、何か怪しいことでもやっていたのかも・・・)
もっと幼い頃、村の年寄りから聞いた、森に住むという魔法使いや魔物たちのことを思い浮かべていたトムは、ふと、軽い胸騒ぎを覚えた。喉から胸にかけて、締め付けられるようなザラザラした感じがしていた。