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第6章その2
「おはよう、ヨツジさん。今朝もたくさん野菜が穫れたようだね」
「おはよう、ハジメさん。今日のお勧めはトマトかな。どうだい、少し買っていかないかい」
そう言うと、ヨツジは何種類かの野菜を紙袋に手早く入れ、ハジメに手渡した。それを受け取ったハジメは、両手を胸の前で合わせると軽く目を閉じた。彼の胸の辺りがパァッと明るくなるのがトムには分かった。
(夕べ『笑顔の仲間亭』で見た光よりも、ずっと大きい)
トムは秘かに思った。
野菜を運ぶため、ゆっくりと進むヨツジに別れを告げて、トムとハジメは再び村の中心街を目指して歩き出した。ヨツジの姿が見えなくなるのを待ちかねたように、丘を越えた所でトムは質問をぶつけた。
「ねぇ、お金は払わないの?」
「ん、お金?」
「だって『買っていかないか』って・・・」
「ああ」
ハジメが心得たようにうなずいた。
「君の世界のことは多少知っているよ。品物を売り買いする時に、金属や紙でできた、『お金』という道具を使うんだってね」




