第1章その1
トムが父親とケンカをして、家を飛び出すのは五回目であった。原因はいつも同じで、父親がお金に対して、とても意地の汚い態度を見せることだった。
トムの父親は、彼ら親子が暮らすトネリ村の有力者で、手広く商売をしており、金貸し業もそのうちの一つであった。トムは、家に借金の申し入れ訪れる人々に接する時の、父親の尊大な態度が大嫌いであった。
裕福な商家の跡取り息子であるトムは、ちょうど十歳になったばかり。明るめの茶色の髪をした、かわいらしい少年であった。
男の子らしく元気いっぱいであったトムは、近所に大勢の遊び仲間がいたのだが、その友人たちとも最近は疎遠になっていて、それも大いに不満であった。
まだまだ遊びたい盛りの息子に対して、父親は、跡を継がせるための教育を始めており、彼の友人たちを遠ざけたのだ。
「なんで僕ばかり。皆に嫌われるのは、父さんのせいだ!」
今日も連れて行かれた仕事先で、賃借人に見せた父親の冷たい態度と言葉に激怒したトムは、そう叫ぶと父親を振り切って、その場から逃げ出したのであっ
た。
彼はそのまま、トネリ村の西のはずれにある、とある遺跡を目差して突っ走った。その遺跡は、何百年も前に作られたと言い伝えられていた。確かに、建物の造りが自分の村のそれとは違うとトムは感じていた。
どこか異国情緒の漂う遺跡の中で、周囲に吸い込まれていく様な不思議な感覚。この場所では、いつもそれに包まれるのである。トムはこの一時を、宝物のように大切にしていたのだった。