六話 支配者の朝
支配者たるものの朝は早い。
宇宙の王たるバルバ。
バールバトアの姫君であり、現在バールバトア星の政を母である女王に代わり執り行っている第一王女セッカ・バルバーティアの朝も同様であった。
彼女の朝は自室で教育係から起こされることで始まる。
職務が終わってからは寝るまでにいつまでも遊んでいるので毎朝起きれないのだ。
「ふぁぁ~。まだ眠いよ~あと5分~」
「ダメです。今日はやることが山積みなのですよ。起きなさい」
「グリッタの鬼畜ー」
口から文句を垂れ流し続けるが、しっかりと姫が身を休めるにふさわしい豪華なベッドから姿を見せる。
紅紫色の髪が長く伸ばされた頭から始まり、細い腕、女性らしい華奢な体、スラリとした足が出てくる。
なお着ている服は色気のないTシャツとハーフパンツである。姫なのに。
姫を起こす側のグリッタも手馴れていて、起き抜けの彼女の着替えを手伝う。
着せる服は簡素なワンピース。
今日は後で着替えてもらう予定なので動きやすく脱ぎやすい物が選ばれた。
「今日は何すればいいの? ハンコをぺったんぺったん? それともひたすら署名? 城下町の視察でも何でもいいから、もっと楽しいのがいいなぁー。ずっとマンガとアニメとゲームだけしてたーい。まだストーリー終わってないんだよね」
「それについては朝ごはんの時に言いますから、馬鹿な事言ってないで早く着替えなさい。はい。ばんざいして」
バンザーイと、言われるがままに手を上げるセッカ。
その姿に姫としての威厳もへったくれもない。ただの大きな子供である。
最近は背の成長は頭打ちになったが、他の女性特有の部分がスクスク成長中だ。
セッカは既に言った通り姫である。
では、その姫と教育係とは言え、家族のように親しげにしているグリッタは何者か。
簡単に言うと彼女はこの国の政治を本当の意味で司る人間であった。
このバルバでは女王に連なる者以外、苗字やファミリーネームはない。
ゆえにただのグリッタ。
一応、バルバーティア姓以外ならば姓を自称することも許されるが、バルバの人口の少なさから必要性も少ないため浸透していない。
そんなグリッタの外見だが、地球の西洋人に近いだろう。暗い金の髪と瞳に日焼けしたような浅黒い肌の長身。
地球人なら年齢は二十代そこらに見えると答える容姿。そのため一目で宇宙人と断ずるのは難しいだろう。
だが、彼女はバルバの女王と呼ばれる存在とともに統一戦争を戦い抜いた生え抜きの戦士であった。
年齢は既に三桁達している。彼女らバルバは非情に長寿であり、数百年くらいならゆうに生きるのだ。
彼女の立ち位置は頭脳労働を苦手とするバルバ人には珍しい、頭で物事を考える役割。そんな彼女が今の地位に着くのは必然だったと言える。姫の教育もそんな彼女が担当している。
「今日のご飯なぁにー?」
「さて、何でしょうね」
そんな問答を重ねて、城の食堂に向かう。
ちなみに答えはサンドイッチをメインにスープなどの汁物と副菜であった。肉たっぷりの。
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「では今日の予定を発表します」
「わーい」
棒読みである。ご多分に漏れずに頭脳労働が苦手な部類であるセッカとしては聴きたくない物だ。
「まず、これから二時間ほどは執務室でいつも通りです」
「その後は?」
もう二時間くらいの執務なら苦にならないようになっていた。教育の賜物である。
「その後は昼から賓客がお越しになるので会食をしてもらいます。あなたはそれまでにお風呂にでも入って礼服に着替えておきなさい」
「え? いいの? やったー!」
「私はその方を迎えに行くのでしばらく開けますが、いいですね?」
「任せてよ! ところでどこの人が来るの?」
「地球です。他の星よりも幾分か気楽に構えていただいても構いませんよ。あなたと同じくらい若い方らしいので、知りたがっていたあちらの話も聞けるかもしれませんね」
「おおー!」
地球とそこに住む人のことをアガレスと呼ぶことに慣れてしまったことを自覚し、おかしくて笑う。
元はなんてことない感傷だったであろう物が随分大きくなったなと。
「そっかそっか。うんわかった。ならちゃんとおもてなししないとね。どうせだから話が合う人が来るといいなー」
「ふふ。今日の昼食は豪勢な物になります。期待しておいてください」
やったとセッカは諸手を上げて喜ぶ。
二つのたわわが揺れるがそれに目を奪われる紳士はまだここにはいない。
ちなみにグリッタは、誰が、何の為に、どうして訪れるのか全て知っている。
詳細は教えないが、せめてこの可愛い教え子に準備する時間を与えたのだ。親心と言うやつだ。
バルバには男はいない。既に絶滅している。
それが彼女たちが戦端を開いたきっかけである。
自分以外は結局、元の目的よりも闘いの方を楽しみだしてしまったが…………。
おまけに、戦争に参加したほとんどの者は更なる戦いを求めた女王に付いて宇宙めぐりを続けている。
根っからの戦闘民族である。その情熱を他の方向にも向ければとグリッタは嘆く。
だからこの子はここに訪れる彼と仲良くなってもらおう、と残った数少ない一人が画策する。
それこそがバルバ存続の道であると。
それぞれの思惑を持って、運命の輪は回り出した。